【社説①・10.22】:臓器移植の断念 ドナーの善意を生かしたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・10.22】:臓器移植の断念 ドナーの善意を生かしたい
脳死の人が臓器を提供したのに、病院側の事情で移植手術が見送られてしまうケースが多い。
提供者の善意が生かされないばかりか、移植を待つ患者に酷というほかない。国は対策を急ぐべきだ。
東大、京大、東北大の各大学病院で、人手不足や集中治療室(ICU)が満床といった体制の不備を理由に、臓器の受け入れ辞退が相次いでいることが読売新聞の報道で判明した。
これを受けて厚生労働省が全国的な実態を初めて調査した。その結果、昨年1年間にこの三つの大学病院を含む計25の病院で、臓器の受け入れ体制が整っていないとして、移植手術を見送っていたことがわかった。
これにより、移植手術を受けられなかった患者は計約500人に上っていたという。
体制の不備が原因で、移植が見送られることが常態化しているのは問題だ。ドナーやその家族の善意が軽視されてはならない。移植にかかわる課題を洗い出し、改善を図る必要がある。
韓国には臓器移植専用のICUを持つ病院があるが、日本にそうした施設はない。日本の医師から移植技術を教わった韓国人の医師は多いが、今や脳死の臓器移植は日本より盛んに行われている。
そうした体制を日本ですぐに整えるのは難しいとしても、移植を手がける病院間で協力することはできるはずだ。
移植を待つ患者の情報を複数の病院が共有し、ドナーが見つかった場合、空いている手術室を提供し合ったり、医療人材を相互に派遣したりして、補い合う仕組みをつくってはどうか。
政府はこれまで、ドナーを少しでも増やすことに傾注するあまり、移植の体制整備にまで手が回っていなかったのではないか。今後は、医療体制の拡充を後押しすることも欠かせない。
国内の脳死ドナーは昨年、132人で過去最多だった。一方で、現在、移植を待つ患者は1万6000人を超えている。移植の機会を何年も待っている人や、待機中に亡くなる患者も多い。
国内で臓器移植を受けることが難しいため、海外に渡航する人は後を絶たない。患者の弱みにつけ込んで、海外での移植を無許可であっせんしたとして、業者が摘発される事件も起きた。
そうした事態を防ぐためにも、提供された貴重な臓器を十分に活用できるよう、国も医療機関も知恵を絞ってもらいたい。
元稿:読売新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月22日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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