【卓上四季】:人類共通の宝
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【卓上四季】:人類共通の宝
水門が崩壊し水が引いた湖底から現れたのは、古代ローマの都市だった。圧倒的な景観を前に怪盗ルパン三世は言う。「まさに人類の宝ってやつさ。俺のポケットには大きすぎらあ」。宮崎駿監督の映画「カリオストロの城」の佳境である
▼世界遺産条約採択は映画公開の7年前、1972年のこと。「全人類のための世界の遺産として保存する」という前文の意義を体現したかのようなセリフだった
▼条約の端緒はダム建設で水没の危機にあったエジプトのヌビア遺跡群の救済だった。国連教育科学文化機関(ユネスコ)の呼び掛けに国際社会が応じ、歴史的移築が実現したのも、人類全体の宝だったからということを忘れてはなるまい
▼日本政府が佐渡金山の世界遺産登録に向けた推薦書提出を決めた。「強制労働があった」と反発する韓国との対話は不可欠。近年はアウシュビッツなど負の遺産の意義も見直されており、議論を深める機会となろう
▼気がかりなのは「日本国の名誉に関わる」と登録目的を履き違えた言動である。世界遺産は当該国に保護の義務を課すもので登録数を競う国別対抗戦ではない。それでは五輪のメダル数に拘泥するのと同じである
▼政府が推薦見送り方針を転換したのは与党内の激しい反発があったからだとか。万一世界遺産の意義をポケットに入れるような不届きあらば、ユネスコも重い腰を上げざるを得まい。2022・2・11
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【卓上四季】 2022年02月11日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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