【社説・11.27】:マイナ保険証 併用できる仕組み残せ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.27】:マイナ保険証 併用できる仕組み残せ
誰もが関わる医療分野の制度変更なのに、国民の不安を残したままでいいのか。政府は来月2日から健康保険証の新たな発行を停止し、マイナンバーカードに保険証の機能を持たせたマイナ保険証に全面移行する。
現場に混乱を招いた責任は強引に進めた政府にある。
マイナカードの保有率が75%を超える一方、マイナ保険証として登録した人の利用率はわずか15%にとどまる。いかに利点を感じていないか、また個人情報保護や運用への不信が大きいかの表れだ。
受診時に困らないようにする対策は、あるにはある。マイナ保険証を持っていない人には保険証代わりに使える「資格証明書」が届く。現行の保険証も当面、使える。しかし有効期限までで、最長でも1年間に過ぎない。
石破茂政権は停止方針を見直さないと強調する。これに対し立憲民主党は停止を延期する法案を衆院に提出した。与野党はあす開会の臨時国会で十分審議し、現行の保険証を廃止せず、併用できる仕組みを残す法改正をすべきだ。
強行しても、政府が言う「よりよい医療を受けられる」という利点を感じられないどころか、医療を受けるハードルが上がってしまう。
マイナ保険証を使う人が少ない段階でも、混乱やトラブルが相次ぐ現状を直視すべきだ。医療機関にあるカードリーダーで顔認証ができなかったり、表示された患者名が文字化けしたりする例がある。端末が統一されておらず、高齢者や視覚障害者らが暗証番号の入力に手間取る使いづらさも報告されている。
にもかかわらず、個々の説明や操作のサポートに至っては、医療機関に丸投げされていると言っていい。本人確認できず、窓口負担だけでなく全額を請求せざるを得ない例も少なくない。現場から現行の保険証を残すべきだとの声が上がるのは当然である。
準備期間が短く、デジタルに戸惑う人への支援も手薄なままだ。来年3月に始める、運転免許証の機能を持たせたマイナ免許証では、現行の運転免許証を併用する。利用者がさらに多い保険証はなぜ廃止なのか、理解に苦しむ。
マイナ保険証への一本化が政治の都合ありきで進められたのが要因だろう。
菅義偉政権は取得率が低迷していたマイナカードの普及を押し進め、2021年3月にマイナ保険証を始めた。さらに岸田文雄政権下の22年10月、河野太郎デジタル相が突如、保険証の廃止を表明した。後れを取る日本のデジタル化を進めたい思惑が透ける。
デジタル化は暮らしの質を上げる目的のはずが、マイナ保険証は逆に多くの国民を置き去りにしている。そもそも非常にセンシティブな個々の医療情報を、身分証明として頻繁に持ち歩くようなカードにひも付けする制度設計は、極めて危うい。現に、ひも付けのミスで他人に情報が見られてしまう漏えい問題が発生した。国民の不安、不信が増すのは当たり前だ。
政府への国民の信頼がなければデジタル化は進まない。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月27日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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