北新宿と西新宿の境の一帯では、税務署通りの拡幅工事が数年来続けられているが、ここへきてようやく大半の建物の立ち退きが終わり、道路の様子がよく分かる状態になってきた。沿道では超高層マンションへの建て替えや、昨日も記した超高層オフィスを含む市街地再開発事業が行われている。
数年前に来たときに見た沿道の老朽建物群は殆どが無くなっていた。幹線道路沿いに老朽建物が建ち並んでいる場合、たいがいそこには道路拡幅等の都市計画が存在する。計画があるので、建て替えもままならず残されてしまっているのだ。税務署通り沿いの建物群もそのような状況下で残されていたが、6年の間に状況はかなり変わっていた。
ところが、通りを歩いていくと、いくつか奇妙な建物が現れてくる。
Photo 2006.2.18
道路が造られる場合、たいがい沿道の土地・建物の所有者は補償を元にビルに建て替えたり、土地を手放して引っ越していく。従って沿道の建物は殆どが一新されるのだが、ここでは妙な形で建物の一部が残っている。
大根を切って切り口にラップを掛けたような感じとでも言ったらよいだろうか。そのままでは部屋の中が剥き出しになるので壁をあてがったとしか言いようがない建物が点々と並ぶ。計画道路の境界線に沿って巨大なカッターを動かして、建物を次々に切ってしまった感じ。 このような形で道路が造られているのは初めて見た。ヨーロッパや中国の場合は、煉瓦造や石造なので、道路になる場所だけを壊せば済むが、軸組構造の日本建築は、柱が片方無くなったら梁が落ちてしまって成り立たない。でもここでは半分になった家とか、薄い二階建てが残された。大丈夫なのかな? かなり狭いみたいだけどこの二階って住めるのかしら? だいたい二階に上がれるの?
さて、そのような建物群の中にひときわ異彩を放つ「壁」が・・・。
Photo 2006.2.18
最初に見たときは、正直言って何なのか分からなかった。裸体の女性が二人佇む爽やかな壁画(ちょっと東郷青児風)。何故こんなところに? と思った直後、背後の煙突を見て、全てを了解。なんと銭湯の浴室が壁を残して解体されていたのである。浴室の内壁はいつのまにか外壁になっていた。よく見ると、切られた梁などにはちゃんと蓋がしてあり、完全に外壁として今後も使うつもりであることが分かる。壁画の中央下部には引き戸が取り付けられ、外への出入口になっている。フェンス越しにちょっと覗かせてもらうと、浴室は洗濯物を干す庭になっていた。
Photo 2006.2.18
Photo 2000.4.16
帰った後、昔の写真を見てみたら、偶然にも「吉野湯」というこの建物を撮っていたことがわかった。この写真から考えると、この壁画は正面奥にあり、男湯と女湯にまたがって描かれていたことはほぼ間違いない。壁画の裏側に接した建物が道路予定地外だったため、この壁だけが残されたのかも知れない。
お時間のある方はいちどお訪ね下さい。写真で見る以上に奇妙な景色です。
Tokyo Lost Architecture
#失われた建物 新宿区 #銭湯