その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

タイラー・コーエン (著), 若田部 昌澄 (解説), 池村 千秋(訳) 『大停滞』 /NTT出版

2012-05-19 18:18:58 | 
 昨年、米国、日本で話題になったと耳にした『大停滞』を読んでみた。箸者のコーエン氏は、米国ジョージ・メイソン大学の教授で経済学者である。本文は130ページ程度で文体もエッセイ風なので、簡単に読める。

 コーエン氏は、アメリカ経済の繁栄を支えてきた3つの条件である「容易に収穫できる果実」(①無償の土地、②イノベーション、③賢いながらもこれまで教育を受けてこなかった子供たち)は殆ど食べつくされてしまったという。これまでの成長の源泉が枯渇しつつあるにもかかわらず、次の源泉をまだ見いだせていないことに、アメリカ経済停滞の本当の原因があると主張する。

 内容自体に違和感はない。昨日の新聞はフェイスブックの上場の話題で一杯だったが、一体フェイスブックというイノベーションが、何人の雇用を生み出し、世の中の収入増を生み出しているのか?私だって、こんな風に部屋に籠って無料のブログなんぞを書いているのだったら、外に遊びに行ってお金を使った方がGDPの増にはいいだろう。筆者の言うように「インターネットは素晴らしいものだが、収入を生み出せる部門を経済のなかに保つことはできていないのだ。」(p84)人々は物質主義的な発想をしなくはじめ、拝金主義からの脱却を実現しつつあり、テクノロジーの進歩はそれを支えているが、「それがどんなに素晴らしいことだとしても、きわめて大きな痛みをともなう」(p85)

 ただ、将来については筆者は比較的楽観的だ。インドと中国で科学と工学への関心が高まっていること、インターネットが従来より収入を生むようになる可能性があること、初等・中等教育の質の向上を求める声が高まっていることをあげ、「将来は”容易に収穫できる果実”が手に入るようになると、私は楽観している。」(p124)原因分析の納得感に比べると、この将来に向けての楽観的見通しは、「本気ですか?」と思わず尋ねたくなるほどだ。

 経済学を専門としない私には、やはり現状を経済学の観点から見る限りは「大停滞」なのかもしれないが、その経済学の観点自体がもうイカンのじゃないかと思わざる得ない。そうはいっても、ミクロとしての私個人も、雇用が伸びて、経済が伸びてくれないと、仕事に大きな支障が出るので困るのだが、少なくともその実態を計り、解決への処方箋を描くには、経済学だけでは限界があるのだと思う。

 「2011年、もっとも話題の経済書」(米ビジネスウィーク誌)という帯には、多少首をかしげるが、いろいろ現代社会、経済を考える上で、切り口やネタを提供してくれている本であることは間違いない。

 さあブログはこの程度にして、外に出て、GDP拡大に貢献しよっと。
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