素晴らしい舞台なので、是非、おススメしたい公演です。
イングリッシュ・ナシュナル・オペラ(ENO)による蝶々夫人。演出をはじめ、演奏、歌手陣も素晴らしく、今まで観た蝶々夫人のなかでは一番感動した公演でした。
必見はプロダクションです。2005年初演のプロダクションとのことですが、イギリスの映画監督アンソニー・ミンゲラ(現故人)がオリジナルダイレクターであったこの舞台は、ENOならではの斬新なプロダクションです。簡素ではあるが創造性豊かな装置、美しい照明、そしてダンス、文楽の要素も取り入れたもので、これまで観たオペラの演出の中でも、有数の優れたものでした。
舞台装置は、私の表現力では表しにくいのですが、舞台奥に、舞台より1メートルほどの高さに大きな障子のようなスクリーンを1枚置いて舞台とは斜面でつなげることで、屋敷の外の奥行きを表します。蝶々さんの家は、舞台中から前方に障子だけを3重ほどに置き、それを適宜移動させるだけのものです。面白いのは、舞台上方に透明な鏡のようなものが観客席に向かって斜めに置かれていて、障子の奥での進行も、観客席から見えるようになっているので、舞台(屋敷)の表と裏が同時並行に見えます。
装置はこれだけですが、この白いスクリーンや障子に、場面に応じて、夕陽を想起させる紅色、夜の群青色等の鮮明な照明が当てられるため、舞台の印象はとても豊かで、とにかく美しいです。そして、冒頭部分から数回、日本舞踊と西洋のダンスを折衷したようなダンスが織り混ぜてあり、これも美しいです。
そして、極めつけは、文楽のような黒子を使った演出です。この演出では、蝶々さんの子供は人形で、黒子が文楽のように操る。人形の顔が無表情でグロテスクなので気持ち悪いのですが、子供の動きは生身の人間のごとく自然で、観る者は人形を通じて自分の子供像を頭の中に自然と作ります。こんな演出の仕方もあるのだと、感じ入りました。黒子はこのほかにも、棒にくくりつけた鳥や提灯の動きも、操作するのですが、当たり前ながら機械には絶対できない動きですから、効果抜群です。
もちろん、日本人としてはいろいろ気になるところもあることはあります。衣装は芸者でも着ないような派手な色合いとデザインで見られたものではありませんし、日本人男性の衣装や髪形も、これはどこの国の人?と思うほど、平安朝の貴族の衣装に中国風の色合いを加えたような風体で、気分が悪いです。ただ、そうした点は差し引いても、装置でなく、色彩、動き、想像力を使って舞台を雄弁に語りあげる。これほどまでに演出に感心したオペラはあまり記憶にありません。
演出もさることながら、オーケストラ、歌手も素晴らしかったです。イタリア人指揮のOleg Caetani(オレグ・カエターニ)と言う人は、全くの初めてだと思うのですが、非常に情熱的な指揮をする人で豊かで雄弁な表現です。オーケストラもこれがENOのオケ?と思うほど、素晴らしいアンサンブルで、演出と音楽の組み合わせがこれほどマッチした公演も珍しいと思う程でした。
歌手陣も健闘です。歌手陣のなかでは、ピカートン役のGwyn Hughes Jonesのテノールが、伸びがあって柔らかい声で、良かったです。蝶々さんのMary Plazas(メアリー・プラザス)は、驚くほど小柄な人。失礼ながら、蝶々さんにしてはちょっとベテラン過ぎる感じがしましたが、大袈裟すぎない範囲でとっても気持ちが入った熱演でした。歌は特筆する程ではないのですが、ベテランだけあって、ちょっと動きが日本人的になっていて、ガイジンさんが蝶々さんを演じる違和感は最小限に抑えられています。シャープレスの John Fanning、スズキの Pamela Helen Stephenらも良いです。
ENO特有の英語上演は違和感を感じるところはありますが、この公演は観ておいて損は無いと思います。6月2日が最終日であと3回ほどありますので、お時間の合うかたは是非。
※演出のイメージは、ENOのHPの広告クリップをご覧ください→
※ストール席のほうが、障子裏を映す鏡や舞台の奥行きがわかるので、この舞台を楽しめる気がします。
(中央がメアリー・プラザス)
(指揮のオレグ・カエターニ)
Saturaday, 26 May 2012 18:30
English National Opera
Madam Butterfly/ Puccini
Credits
Revival supported by American Friends of ENO
Original production supported by Lord and Lady Laidlaw
A co-production with the Metropolitan Opera, New York, and the Lithuanian National Opera
Conductor Oleg Caetani
Original Director Anthony Minghella
Original Associate Director and Choreographer Carolyn Choa
Revival Director Sarah Tipple
Set Designer Michael Levine
Costume Designer Han Feng
Lighting Designer Peter Mumford
Revival Choreographer Anita Griffin
Puppetry Blind Summit Theatre: Mark Down and Nick Barnes
Cast includes
Cio-Cio San Mary Plazas
F.B. Pinkerton Gwyn Hughes Jones
Kate Pinkerton Catherine Young
Sharpless John Fanning
Suzuki Pamela Helen Stephen
Goro Michael Colvin
The Bonze Mark Richardson
Prince Yamadori Jonathan McGovern
イングリッシュ・ナシュナル・オペラ(ENO)による蝶々夫人。演出をはじめ、演奏、歌手陣も素晴らしく、今まで観た蝶々夫人のなかでは一番感動した公演でした。
必見はプロダクションです。2005年初演のプロダクションとのことですが、イギリスの映画監督アンソニー・ミンゲラ(現故人)がオリジナルダイレクターであったこの舞台は、ENOならではの斬新なプロダクションです。簡素ではあるが創造性豊かな装置、美しい照明、そしてダンス、文楽の要素も取り入れたもので、これまで観たオペラの演出の中でも、有数の優れたものでした。
舞台装置は、私の表現力では表しにくいのですが、舞台奥に、舞台より1メートルほどの高さに大きな障子のようなスクリーンを1枚置いて舞台とは斜面でつなげることで、屋敷の外の奥行きを表します。蝶々さんの家は、舞台中から前方に障子だけを3重ほどに置き、それを適宜移動させるだけのものです。面白いのは、舞台上方に透明な鏡のようなものが観客席に向かって斜めに置かれていて、障子の奥での進行も、観客席から見えるようになっているので、舞台(屋敷)の表と裏が同時並行に見えます。
装置はこれだけですが、この白いスクリーンや障子に、場面に応じて、夕陽を想起させる紅色、夜の群青色等の鮮明な照明が当てられるため、舞台の印象はとても豊かで、とにかく美しいです。そして、冒頭部分から数回、日本舞踊と西洋のダンスを折衷したようなダンスが織り混ぜてあり、これも美しいです。
そして、極めつけは、文楽のような黒子を使った演出です。この演出では、蝶々さんの子供は人形で、黒子が文楽のように操る。人形の顔が無表情でグロテスクなので気持ち悪いのですが、子供の動きは生身の人間のごとく自然で、観る者は人形を通じて自分の子供像を頭の中に自然と作ります。こんな演出の仕方もあるのだと、感じ入りました。黒子はこのほかにも、棒にくくりつけた鳥や提灯の動きも、操作するのですが、当たり前ながら機械には絶対できない動きですから、効果抜群です。
もちろん、日本人としてはいろいろ気になるところもあることはあります。衣装は芸者でも着ないような派手な色合いとデザインで見られたものではありませんし、日本人男性の衣装や髪形も、これはどこの国の人?と思うほど、平安朝の貴族の衣装に中国風の色合いを加えたような風体で、気分が悪いです。ただ、そうした点は差し引いても、装置でなく、色彩、動き、想像力を使って舞台を雄弁に語りあげる。これほどまでに演出に感心したオペラはあまり記憶にありません。
演出もさることながら、オーケストラ、歌手も素晴らしかったです。イタリア人指揮のOleg Caetani(オレグ・カエターニ)と言う人は、全くの初めてだと思うのですが、非常に情熱的な指揮をする人で豊かで雄弁な表現です。オーケストラもこれがENOのオケ?と思うほど、素晴らしいアンサンブルで、演出と音楽の組み合わせがこれほどマッチした公演も珍しいと思う程でした。
歌手陣も健闘です。歌手陣のなかでは、ピカートン役のGwyn Hughes Jonesのテノールが、伸びがあって柔らかい声で、良かったです。蝶々さんのMary Plazas(メアリー・プラザス)は、驚くほど小柄な人。失礼ながら、蝶々さんにしてはちょっとベテラン過ぎる感じがしましたが、大袈裟すぎない範囲でとっても気持ちが入った熱演でした。歌は特筆する程ではないのですが、ベテランだけあって、ちょっと動きが日本人的になっていて、ガイジンさんが蝶々さんを演じる違和感は最小限に抑えられています。シャープレスの John Fanning、スズキの Pamela Helen Stephenらも良いです。
ENO特有の英語上演は違和感を感じるところはありますが、この公演は観ておいて損は無いと思います。6月2日が最終日であと3回ほどありますので、お時間の合うかたは是非。
※演出のイメージは、ENOのHPの広告クリップをご覧ください→
※ストール席のほうが、障子裏を映す鏡や舞台の奥行きがわかるので、この舞台を楽しめる気がします。
(中央がメアリー・プラザス)
(指揮のオレグ・カエターニ)
Saturaday, 26 May 2012 18:30
English National Opera
Madam Butterfly/ Puccini
Credits
Revival supported by American Friends of ENO
Original production supported by Lord and Lady Laidlaw
A co-production with the Metropolitan Opera, New York, and the Lithuanian National Opera
Conductor Oleg Caetani
Original Director Anthony Minghella
Original Associate Director and Choreographer Carolyn Choa
Revival Director Sarah Tipple
Set Designer Michael Levine
Costume Designer Han Feng
Lighting Designer Peter Mumford
Revival Choreographer Anita Griffin
Puppetry Blind Summit Theatre: Mark Down and Nick Barnes
Cast includes
Cio-Cio San Mary Plazas
F.B. Pinkerton Gwyn Hughes Jones
Kate Pinkerton Catherine Young
Sharpless John Fanning
Suzuki Pamela Helen Stephen
Goro Michael Colvin
The Bonze Mark Richardson
Prince Yamadori Jonathan McGovern