昭和18年(1943年)年、日本海軍の戦艦「陸奥」が瀬戸内海で突然の爆発により沈没した事件を追った「ドキュメンタリ小説」(出版社の記載がこうなのだが、なぜ本書が小説なのかは私には良くわからない。完全なノンフィクッションに読める)。単行本の初版は昭和45年(1970年)ということなので、半世紀近く前に書かれた作品である。
事件があったことは既知だったが、1121名もの人命が奪われ、海軍が世間には軍事機密扱いとして、徹底的な情報隠蔽を測っていたことなどは、全く初めて知った。そして、日本海軍には、それまでにも同様の軍艦事故が相当数起きていたことも。
筆者の視点は、常に人間にある。軍艦事故も多くが海軍関係者による故意・過失による事故であったようだ。どんなに精巧で、頑強な軍艦も、一人の人間がしでかす過ちの前には無力であることを示している。そして、その犠牲になるのも同じ人間である。彼らの無念さを想像すると胸が痛む。
必要な情報のみを淡々と記録する筆者の文体は、直球、しかも剛速球であり、読む者の注意を逸らさない強さがある。一気に引き込まれて、読んでしまう一冊だった。