その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

オリバー・バークマン (著), 高橋 璃子 (翻訳)『限りある時間の使い方』かんき出版、2022

2023-02-03 07:30:31 | 

通常のタイムマネジメント技法とは一線を画す、時間に対しての向合い方を説く本です。

生産性や効率化、コスト・パフォーマンスといった今どきの価値観やノウハウの対極に立つことで、幸せな時間、幸せな人生を送ることを説きます。復古主義的に取れるところもなくはない(日本企業でやっていた(る?)集団ラジオ体操もポジティブ評価されてたりしていて微笑ましい)ですが、行き過ぎた効率化の罠にはまった現代人に立ち止まることの大切さに気付かせてくれる良書だと思いました。

わが身を振り返りながら、思い当たるところがいくつもありました。

・今と言う時間が未来のゴールにたどり着くための手段に変わってしまった。今を犠牲にし続けると大事なものを失ってしまう。今を生きることができなくなり、未来のことしか考えられなくなる。(p34)

・時間をうまく使おうとすればするほど、今日明日という日が、理想的な未来にたどり着くための単なる通過点になってしまう。これは時間の道具化とも呼べる問題。時間が何か別のことをするための手段になってしまう。(p148)

・余暇を有意義に過ごそうとすると、余暇が君みたいになってくる。それでは仕事とまるで変わらない。何かを達成するためではなく、ただ歩くために歩く。それは目標に向かう活動が多すぎる日々の中で大きな救いになるかもしれない。何の為でもないことをする。(p180)

・純粋な趣味は、生産性や業績を重視する文化に対する挑戦状だ。平凡でも構わない。むしろ、平凡である方が良い。(p187)

筆者は、「今」を生きること、今の苦痛から目を逸らさずむしろ楽しむこと、自分に期待しすぎないことを強調します。この境地に至るのには、それなりのトレーニングが必要な気もしますが、まずは考え方や気の持ちようとして意識するだけで、違った風景が見えてきそうな気がします。現代人としての私たちの最適解な生き方は、「生産性・効率性」と本書の間にあると思いますが、普通にしていると効率性に引っ張られるので、対局を意識するところに本書の意義があると感じました。ソフトな語り口ですが、内容はかみしめて読みたい一冊です。

 
【目次】
PART 1 現実を直視する
第1章 なぜ、いつも時間に追われるのか
第2章 効率化ツールが逆効果になる理由
第3章 「時間がある」という前提を疑う
第4章 可能性を狭めると、自由になれる
第5章 注意力を自分の手に取り戻す
第6章 本当の敵は自分の内側にいる
PART 2 幻想を手放す
第7章 時間と戦っても勝ち目はない
第8章 人生には「今」しか存在しない
第9章 失われた余暇を取り戻す
第10章 忙しさへの依存を手放す
第11章 留まることで見えてくるもの
第12章 時間をシェアすると豊かになれる
第13章 ちっぽけな自分を受け入れる
第14章 暗闇のなかで一歩を踏みだす
エピローグ 僕たちに希望は必要ない
付録 有限性を受け入れるための10のツール
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