素晴らしい舞台でした。背筋が伸びっぱなしの全一幕、一時間四十分です。数週間前に、ここロイヤルオペラハウスで、マノンの甘美な音楽とネト嬢のパワフル歌唱に打ちのめされたばかりなのに、今回はデノケの繊細で、高く伸びるソプラノとシュトラウスの劇的音楽に完全に幻覚と倒錯の世界に引き入れられました。
まずは、Denokeの演技と歌唱を讃えずにはいられません。ある意味、Denoke・サロメの一人舞台とも言えるほどでした。一つ一つの動きが完全に、自分のものになっている十八番という感じがしました。ヨカナーンの生首を抱えて、恍惚の表情で倒錯の世界に入るデノケはなんともエロチック。歌唱も素晴らしい。ネト嬢のような太さはないものの伸びやかな高音は安定した歌いっぷりは、この役はきっとものすごい難役に違いないと思いつつ、それを全く感じさせないものでした。
ちなみにDenokeさんは昨年12月にLSO、デイヴィスのオテロでも素晴らしかったです(
こちら→)。失礼ながら、年齢的には役のサロメの倍ぐらいはあると思うのですが、年齢を感じさせず、チャーミングなサロメから大人のサロメまでを演じていました。
オーケストラも素晴らしかったです。シュトラウスの時に豪快で、緊張感ああふれる、劇的なこの音楽を見事に演奏しきっていたと思います。指揮者のHartmut Haenchenさんは、私は初めてですが、迷いのない堂々たる指揮ぶりでした。「サロメ」は東京の新国立劇場で、上岡氏の指揮で3年前(たしか)に見たことがありますが、音楽や演奏にここまでの感動はありませんでした。今日のオーケストラは素晴らしかったと思う。
Denoke以外の歌手さんも良かったです。ヘロデのGerhard Siegel、ヨカナーンのJohan Reuterが特に良かったと思いましたが、この他にも皆さんグッドでした。
演出は現代風ですが違和感なくうまくまとめた演出と思いました。あえて難をつけると、7つのヴェールの踊りかなあ。ちょっと意味不明だし、サロメの大見せ場のはずにしては、適当に上手く誤魔化された気がします。
しかし、改めてこの「サロメ」というオペラ作品の持つパワーって凄いと思いました。見る者を舞台に引き付け、全く離さない。ワーグナーばりの麻薬感。加えて、毎日夏日が続くロンドンで、ホラー映画を見るような、冷涼感を味わえます。自分の中のオペラランキングが一気に上がりました。
今日は立ち見席ではないものの、最上階の椅子席で十ポンド。これもすごい。
(今日の立役者Denokeさん)
(Denokeの左がヘロデのGerhard Siegel、右がヨカナーンのJohan Reuter)
(指揮者のHartmut Haenchenさんも加えて)
Salome
Credits
Composer: Richard Strauss
Director: David McVicar
Designer: Es Devlin
Lighting designer: Wolfgang Göbbel, Choreography Andrew George
Video Design: Mark Grimmer†, Leo Warner†
Performers
Conductor: Hartmut Haenchen
Salome: Angela Denoke
Jokanaan: Johan Reuter
Herod: Gerhard Siegel
Herodias: Irina Mishura
Narraboth: Andrew Staples
First Jew: Adrian Thompson
Second Jew: Robert Anthony Gardiner
Third Jew: Hubert Francis
Fourth Jew: Steven Ebel§
Fifth Jew: Jeremy White
First Nazarene: Vuyani Mlinde
Second Nazarene: Dawid Kimberg§
First Soldier: Nicolas Courjal
Second Soldier: Alan Ewing
Page: Sarah Castle
A Cappadocian: John Cunningham