その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

とある職場の風景 優秀な社員のリテンション(引き留め)

2010-07-07 22:48:25 | ロンドン日記 (日常)
 優秀な人材をどう引き止めていくか? これも、日本の会社と欧州の会社では、感覚が大きく異なる問題である。

 先日、営業成績が振るわない営業マンに退職勧告を促すイギリス人営業マネジャー(仮にAさん)のエピソードを紹介した(こちら→)が、その逆パターンで、Aさんが営業成績の良い営業マンに対するアプローチが興味深い。

 通常、この会社では、マネジャー以外の一般スタッフの給与査定は年1回、年末に行うのだが、今期、営業成績が素晴らしい若手スタッフB君について、期中の特例の昇給を決めた。それもいきなり現在の給与の15%にも上る昇給幅である。

 成果主義が広まってきたとはいえ、終身雇用制度のもとで、基本給が年齢とともに少しづつ段々とあがって行く定期昇給が残存する日本企業で育った身には、常識を超えた昇給である。日本の親会社では、毎年、1%前後を巡って、昇給幅が労使で議論されているのである。

 Aさん曰く、
 ・B君はチームにとってなくてはならない人材である
 ・しかし、B君の給与は市場価格で比べて、とても低い
 ・B君がこの会社で働き続けてもらうためには、会社として彼を評価し、期待しているところをしっかり示す必要がある
 ・そのためには、市場価格にあわせた昇給が必要

 という、まあ、尤もといえば言えばもっともなのだ。

 自分なんかは、
 ・B君は営業マンなんだから、営業成果に応じてコミッションを貰って十分報われているだろう
 ・彼だけを例外的に扱うのは、他の社員に対して不公平ではないか
 ・仕事の報酬はお金だけじゃない。給料上げれば、いいってもんじゃないでしょ。
 ・今、本人が「他の会社に移りたいって、言っているわけじゃないんだろう」
 ・だから、年末の評価で良い点数つけて、来年、昇給させればいいじゃないか?

 と思うわけである。

 そうすると、Aさんは、

 ・会社が彼を評価しているというサイン、ポジティブなメッセージを的確に示すことが必要。
 ・B君が他の会社を探し始めてからでは遅い。もっと高い給与を出すところは幾らでもあるんだから。
 ・昇給に伴って、営業目標額も上げ、さらに頑張ってもらうから会社としても損は無い

 と言うのである。

 日本企業も転職率が高まって来ているとは言え、日本ではまだこうした考えで社員の報酬を考えている会社はまだ少ないのではないか。優秀な人はいつ抜けるか分からない、優秀な社員を引き止めるためにも、積極的に評価を示し、残ってもらうことが必要という、Aさんの考えやマネジメントは、自分の報酬や評価、人材活用に対する認識に新たな視点を投げかけてくれた。

 2010年7月7日
コメント
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