懐かしの懐中電灯

　私の田舎は九州の西の辺境だ。
　子供の頃は夜になると、漆黒の闇に包まれた。

　外の灯りといえば、細い県道沿いの電信柱に取り付けられた、笠のある裸電球だった。
　照らす範囲は電信柱を中心に半径1メートルほどだ。
　それもすべての電信柱に設置されていたわけではなく、ほんのところどころだった。

　そんなわけで、夜道を歩く時には懐中電灯が必需品だった。
　懐中時計が文字通り懐中に入れる時計だったのに対して、懐中電灯を懐中に入れて持ち歩く人はいなかった。
　それは手に持つものだったので、手持ち電灯の名が相応しいかもしれない。

　昔は停電が珍しくなかったので、そんな時にも懐中電灯のお世話になった。
　停電の時間が長引くと、祖母が電池がもったいないからと、仏壇からローソクを持ち出してきた。

　現在では、懐中電灯はキャンプや災害時の備えで、日常で使用することは皆無と言っていいだろう。
　懐中時計がレトロと化した今でも、懐中電灯の名は依然として残っている。
　ホームセンターや100円ショップで見かけると、遠い昔の夜道を思い出す。
　

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