Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

ロートレック展

2011年12月09日 | 美術
 三菱一号館美術館で開催中の「トゥールーズ=ロートレック展」は、思いがけず、ほのぼのとした気分になれる展覧会だった。一夜明けた今日もまだその余韻が残っている。年末にこのような気分になるのはよいものだ。

 ロートレックというと、「蕩児の帰郷」というイメージがある。貴族の生まれだが、パリのモンマルトルで放蕩の生活を送り、そのあまり体を壊して、母のもとに帰って36歳の短い生涯を終えた。子どもの頃の骨折がもとで両脚の発育が止まり、畸形だったことが、そのイメージを彩っている。

 ところが本展から感じられるニュアンスは、少しちがっていた。

 本展は三菱一号館美術館が保有する「モーリス・ジョワイヤン・コレクション」を主体とするもの。同コレクションは、ロートレックが手元に保管していた250点あまりのポスターと版画(リトグラフ)を、ロートレックの死後、学生時代からの親友であったジョワイヤンが一括して保管したものだ。三菱一号館美術館が、オープンに当たり、これを購入した。

 同コレクションを初公開するのが本展なので、本展はそもそも二人の友情から成り立っている。全体に温かさが感じられる。最後のコーナーで1900年(ロートレックが亡くなる前年)の写真を見たとき、熱いものがこみ上げてきた。これは、衰弱したロートレックを慰めようと、友人たちが海辺で鵜狩りを催したときの写真だ。ボートを降りて、ジョワイヤンに背負われるロートレック。ロートレックは子どものように楽しそうだ。

 この時期に描かれた油彩画「モーリス・ジョワイヤン」は、ロートレックによる友情のあかしだ。衰弱にもかかわらず、精一杯の輝きが感じられる。本作は、三菱一号館美術館の姉妹館の、ロートレックの生地アルビのトゥールーズ=ロートレック美術館から来ている。同館の設立に尽力したのもジョワイヤンだ。

 もう一枚、気持ちのよさそうな木陰のテーブルで、母とくつろぐ写真があった。場所はマルメロ城。ロートレックの実家はお城だった。上品で美しい母。ロートレックも満ち足りて見える。撮影は1892年。エッと驚いた。ムーラン・ルージュのポスターが大ヒットして、一躍売れっ子になった翌年だ。当時はモンマルトルに入り浸っていると思っていたが、そうではなかった。モンマルトルの喧騒を離れて、実家で静かに過ごすこともあったようだ。
(2011.12.8.三菱一号館美術館)
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