Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

アントニオ・ロペス展

2013年06月01日 | 美術
 アントニオ・ロペス展。チラシ(↑)やポスターでマドリッドの大通りを描いた「グラン・ビア」を観て、写真と見紛うばかりの迫真性に驚いた。どんな画家だろう。調べてみると、1936年生まれの現存の画家だった。著書もあった。「アントニオ・ロペス~創造の軌跡~」(木下亮訳、中央公論新社)。2001年12月~2002年1月に行われた3回の講演会の記録だ。講演会といっても、聴衆と対話しながら、興に任せて、あれこれおしゃべりする、くつろいだものだ。ロペスの肉声が聞こえてくる感じがした。

 さて、準備万端、いつ行こうかと思っていた。会期終了が迫ってきたので、気になってきた。そこで、先日、出かけてきた。

 「グラン・ビア」はもちろんすばらしかった。チラシでは気が付かなかったが、左の建物の正面に06:30と時刻が描かれていた。夏の早朝、午前6時30分というわけだ。その時刻の、まだひんやりした空気をとらえた作品だった。

 面白いことに、もう一つ、時刻が描かれた作品があった。前掲の「アントニオ・ロペス~創造の軌跡~」の表紙にも使われている「トーレス・ブランカスからのマドリード」がそうだ。左手の大きなビルの屋上に21h40と描かれていた。これにも気付かなかった。夏の夕暮れ、午後9時40分というわけだ。この季節の、遅い夜が訪れる、その前の夕映えをとらえた作品だった。

 この作品では、もう一つ意外な点があった。左右両端の、手前の建物が、もうどうでもいいかのように、大雑把に描写されている点だ。それに気が付くと、他の風景画(マドリードの俯瞰図)にも同じような点が見つかった。それでいいのだろう。ロペスの場合は、リアリズムとはいっても、たとえばヴェネチア市街を描いたカナレット(1697‐1768)のような、写真のように克明な描写を目指すのではなく、なにかの主題を提示するタイプなのだろう。

 本展で一番感銘を受けた作品は、素描の「マリアの肖像」だった。これもチラシで観ていた。鉛筆だけで描いたとは信じられなかった。実際に観ても、やはり信じられなかった。すばらしいというか、すごいというか――。澄んだ眼差し、コートの材質感、その両方に圧倒された。繰り返していうが、鉛筆だけでこれを描いたのだ。

 帰宅後、前掲書をパラパラと読み返した。実際に作品を観た後なので、よくわかる気がした。作品を観る前よりも、ロペスの言葉が身体に入ってきた。
(2013.5.30.Bunkamuraザ・ミュージアム)

↓公式ホームページ
http://www.antonio-lopez.jp/
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