Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

中川賢一の流儀

2014年01月14日 | 音楽
 世田谷美術館で「実験工房」展が開かれている。それだけでも興味を惹かれるが、さらにその関連コンサート「中川賢一の流儀」が開催された。武満徹のピアノ作品(ほぼ全曲)とオリヴィエ・メシアンの2台ピアノのための「アーメンの幻影」。これには飛びついた。

 第1部は武満徹のピアノ作品集。最初に武満徹の没後に発見された最初期の作品「ロマンス」(1948/49)とTV番組「ピアノのおけいこ」のために書かれた「こどものためのピアノ小品」(1978)が演奏された。あとは作曲順の演奏。初期の「二つのレント」(1950)を改作した「リタニ」(1989)は、構造がほとんど変わっていないという理由で、1曲目に演奏された。

 「リタニ」の第1曲はわたしの大好きな曲だ。そこには実験工房に参加するころの武満徹の詩心が刻印されていると思う。まだ世界のタケミツへと羽ばたく前の時期。「弦楽のためのレクイエム」(1957)に至る道程の最初の数歩の一つ。

 「ピアノ・ディスタンス」(1961)は同年のオーケストラ作品「樹の曲」を連想させる点描風の曲。試行錯誤の時期か。そして迎える「フォー・アウェイ」(1973)はオーケストラ作品「鳥は星形の庭に降りる」(1977)へと至る実り豊かな道程の第一歩。

 途中休憩が30分ほどあったので、「実験工房」展を見学した。湯浅譲二氏のアルバムが展示されていた。当時(実験工房は1951年に結成)の写真なので、一枚一枚が小さい。それらがアルバムに几帳面に貼られていた。

 会場に戻ったら、湯浅氏ご本人の姿をお見かけした。聴きにいらしてるのだ――。

 第2部はメシアンの「アーメンの幻影」。まず中川氏によるアナリーゼがあった。これがひじょうに面白かった。普通の音階とメシアンの音階とのちがい、この曲のテーマとその変容の過程、第1ピアノと第2ピアノの役割など。

 演奏に入る前に湯浅氏がスピーチをした。「アーメンの幻影」は実験工房が初演したが、そのとき、秋山邦晴が某音楽評論家(武満徹の「二つのレント」を「音楽以前である」と書いた人)に聴きに来るようにお願いに行ったら、「ほう、メシアンか、有名になったら聴きに行くよ」といわれたそうだ。そんな時代を歩んできた湯浅氏とこの空間をともにして、今その曲に耳を傾けていると思ったら、感動がこみ上げてきた。演奏にも圧倒された。共演は稲垣聡氏。
(2014.1.12.世田谷美術館講堂)
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