Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

始原楽器の進行形

2014年08月25日 | 音楽
 サントリー芸術財団のサマーフェスティヴァル第2夜、木戸敏郎のプロデュース公演で「始原楽器の進行形」。

 正倉院で見つかった古代楽器の数々。中にはルーブル美術館やカイロ博物館に収蔵されている古代エジプトの楽器と同属のものもあるそうだ。そのような古代楽器の構造を解明し、復元を試みた楽器、それを‘始原楽器’と名付けた。木戸敏郎の造語だ。

 木戸敏郎の生涯のテーマの一つとして、それらの始原楽器を製作・改良し、現代の作曲家に作品を委嘱する活動がある。始原楽器の可能性をさぐる試みだ。その成果を披露する演奏会が「始原楽器の進行形」。

 海のものとも山のものともつかない楽器、そんな楽器には興味がないと思う人も多いだろう。でも、海のものとも山のものともつかないからこそ、聴いてみようと思う人も(少数ながら)いるだろう。わたしもその一人だ。

 今回使われた楽器は、竪琴に似た「くごう」(以下、漢字は略)、その古代エジプトの同属楽器「アングルハープ」、簫(しょう)(=パンパイプ)に似た「はいしょう」、篳篥(ひちりき)の古代エジプトの同属楽器(ではないかと思う)「アウロス」、大小さまざまな金属片を吊るした「ほうきょう」。

 これらの楽器は‘試作品’の要素を残すものかもしれない。でも、だからといって、否定的には考えなかった。そんな気にはならなかった。試みとして面白かった。

 演奏された曲は、(演奏順に)一柳慧、三輪眞弘、石井真木、川島素晴、ルー・ハリソン、野平一郎の各氏の作品。もっとも古い曲は一柳慧の「時の佇い(たたずまい)Ⅱ」(1986)、もっとも新しい曲は今回の委嘱作、川島素晴の「アウロスイッチ」(2014)、その前は三輪眞弘の「逆シミュレーション音楽・蝉の法」(2003)。

 個々の作品の品定めよりも、全体を通した感想を記すと、意外に作曲家の個性が出るものだなと思った。完成された楽器ではなく、‘試作品’の要素があるからこそ、各氏の持っているイディオムで曲を書いているようだった。

 もう一つの感想は、‘古代を想像する’音楽ではないことだった。エジプト出土の壺などを見ると、楽器を演奏する人々が描かれているので、どんな音楽だろうと想像する。でも、もう復元はできない。音楽は復元できないし、復元しようとしても意味がないのかもしれない。歴史は元に戻らないということか――。
(2014.8.22.サントリーホール小ホール)
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