Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

インキネン/日本フィル

2016年04月23日 | 音楽
 インキネン指揮の日本フィル定期は、庄司紗矢香の登場とオール・イギリス・プログラムで興味を惹いた。

 1曲目はブリテンのヴァイオリン協奏曲。作曲当時25歳だったブリテンの若き日の傑作だ。成熟した音楽は、まだ駆け出しの若手作曲家とは思えない。早熟の天才という言葉はブリテンのためにあるのではないかという気がする。

 庄司紗矢香の演奏は、いつものとおりフレーズの一つひとつの意味をしっかり伝えるもの。揺るぎない存在感が現れてくる。音の大きさで聴かせるタイプではないので、オーケストラに埋もれ気味になることもあったが、その存在感は不動だ。今回はとくに第3楽章(最終楽章)パッサカリアの後半に向けての集中力が凄かった。

 オーケストラは慎重かつ正確にそれを支えていたと思う。だが、もう少しこなれた演奏でもよかったのではないか。硬さというか、遊びのなさが感じられた。

 山崎浩太郎氏のプログラム・ノーツを読んで、あァ、そうだったのかと思ったことがある。アルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲が1936年にバルセロナの国際現代音楽祭(ISCM)で初演されたとき、ブリテンがそれを聴いて、深い感銘を受けたとのこと。

 その初演の様子は、同曲の委嘱者であり、初演者でもあるルイス・クロスナーの手記で伝わっている。わたしは何度も読んだ。感動的なドキュメンタリーだ。当初はウェーベルンが指揮をする予定だったが、盟友ベルクの死の翌年だったその演奏会のリハーサルで極度にナーヴァスになり、演奏会の前日に逃亡してしまった。急場を救ったのはヘルマン・シェルヘンだった。シェルヘンは急きょスコアを読み、翌日の演奏会を成功させた。

 あの演奏会にブリテンがいたとは――。ブリテンとベルクを結ぶ糸がこれでまたひとつ強固になった。

 2曲目はホルストの「惑星」。第1曲「火星」の激烈な演奏に驚いた。速めのテンポをとった鋭角的な演奏。インキネンがマーラーやブルックナーでは決してやらない種類の演奏だ。金管が例の4分の5拍子のリズムを強烈に刻む。そのリズムは全体の中に埋もれることなく、支配者となって君臨する。黙示録的な演奏。

 インキネンには、わたしたちには未知の部分が、まだありそうだ。そういえば、日本フィルのある楽員が「クールに見えるかもしれないが、ものすごく熱いものを持っている」と言っていた。
(2016.4.22.サントリーホール)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする