トンチエ・ツァンTung-Chieh Chuangという若い指揮者が東京シティ・フィルの定期を振った。ツァンは台湾出身。アメリカのカーチス音楽院とドイツのワイマール音楽大学で学び、2015年のニコライ・マルコ国際指揮者コンクール(デンマーク)で優勝した。
1曲目はハイドンの交響曲第102番。今回が日本デビューとなる若い指揮者が、ハイドン晩年の傑作「ザロモン・セット」の中の1曲を取り上げるという、その大胆さに驚く。逃げも隠れもできない曲。よほどの自信がないとプログラムには組めない。
その演奏は、弦がノンヴィブラート奏法で、ピリオド様式を取り入れた、目の覚めるような演奏だった。一瞬たりとも惰性に流れることのない、やりたいことが明確な演奏。ツァンは暗譜で指揮した(プログラム後半のプッチーニとレスピーギも暗譜だった)。オーケストラの反応もよかった。
2曲目はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番(ヴァイオリン独奏は三浦文彰)。ツァンは合わせ物もうまそうだ。ヴァイオリン独奏としっくりかみ合った演奏。弦は軽くヴィブラートをかけていた。
三浦文彰はアンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番からガヴォットを弾いた。若い人のバッハもいいな、と思った。背伸びをしない、等身大のバッハ。ヴァイオリンがよく鳴っていた。プロフィールを読むと、使用楽器はストラディヴァリウスと書いてあった。
3曲目はプッチーニの「交響的前奏曲」。プッチーニのミラノ音楽院在学中の作品だが、後年のプッチーニらしさがすでに現れている。ツァンの指揮は旋律を甘く歌わせ、プッチーニへの適性もありそうだった。
4曲目はレスピーギの「ローマの松」。みずみずしい音色が溢れ出た演奏。ツァンは色彩豊かな近代管弦楽曲が得意なのかもしれない。そうだとすると、1曲目のハイドンへの共感のこもった演奏と相俟って、ツァンは抽斗の多い指揮者ということになる。
オーケストラも演奏しやすそうだった。ツァンの指揮に力みがないので、落ち着いて演奏できるのではないか。もちろん「ローマの松」のエンディングでは強烈な音が出たので、ツァンにはパワーもあるが、力任せの感じはしなかった。第2曲「カタコンベ付近の松」でのオフステージからのトランペット・ソロと第3曲「ジャニコロの松」でのクラリネット・ソロも見事だった。
(2018.10.19.東京オペラシティ)
1曲目はハイドンの交響曲第102番。今回が日本デビューとなる若い指揮者が、ハイドン晩年の傑作「ザロモン・セット」の中の1曲を取り上げるという、その大胆さに驚く。逃げも隠れもできない曲。よほどの自信がないとプログラムには組めない。
その演奏は、弦がノンヴィブラート奏法で、ピリオド様式を取り入れた、目の覚めるような演奏だった。一瞬たりとも惰性に流れることのない、やりたいことが明確な演奏。ツァンは暗譜で指揮した(プログラム後半のプッチーニとレスピーギも暗譜だった)。オーケストラの反応もよかった。
2曲目はモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第3番(ヴァイオリン独奏は三浦文彰)。ツァンは合わせ物もうまそうだ。ヴァイオリン独奏としっくりかみ合った演奏。弦は軽くヴィブラートをかけていた。
三浦文彰はアンコールにバッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第3番からガヴォットを弾いた。若い人のバッハもいいな、と思った。背伸びをしない、等身大のバッハ。ヴァイオリンがよく鳴っていた。プロフィールを読むと、使用楽器はストラディヴァリウスと書いてあった。
3曲目はプッチーニの「交響的前奏曲」。プッチーニのミラノ音楽院在学中の作品だが、後年のプッチーニらしさがすでに現れている。ツァンの指揮は旋律を甘く歌わせ、プッチーニへの適性もありそうだった。
4曲目はレスピーギの「ローマの松」。みずみずしい音色が溢れ出た演奏。ツァンは色彩豊かな近代管弦楽曲が得意なのかもしれない。そうだとすると、1曲目のハイドンへの共感のこもった演奏と相俟って、ツァンは抽斗の多い指揮者ということになる。
オーケストラも演奏しやすそうだった。ツァンの指揮に力みがないので、落ち着いて演奏できるのではないか。もちろん「ローマの松」のエンディングでは強烈な音が出たので、ツァンにはパワーもあるが、力任せの感じはしなかった。第2曲「カタコンベ付近の松」でのオフステージからのトランペット・ソロと第3曲「ジャニコロの松」でのクラリネット・ソロも見事だった。
(2018.10.19.東京オペラシティ)