Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

鈴木雅明/読響

2018年10月27日 | 音楽
 指揮に鈴木雅明、合唱にベルリンのRIAS室内合唱団を迎えた読響の定期。1曲目はスウェーデンのモーツァルト、ヨーゼフ・マルティン・クラウスの「教会のためのシンフォニア」。華やかで晴れ晴れしく、コンサートの開幕にふさわしい曲だ。読響の音がクリアーなことに驚く。

 2曲目はモーツァルトの交響曲第39番。音を短く切り、アクセントを強く付けた、ピリオド・スタイルの演奏。その演奏がさまになっている、といったら失礼だろうか。流麗で、かつ刺激的な演奏だ。

 読響は直前まで、イル・ジャルディーノ・アルモニコの創設者、ジョヴァンニ・アントニーニの指揮で演奏会をこなしていた。その余韻が残っているのか、と思った。現代のオーケストラは、定期的に古楽系の指揮者と共演することが望ましいようだ。

 プログラム後半はRIAS室内合唱団が入って、メンデルスゾーンの宗教合唱曲が2曲演奏された。まずオラトリオ「キリスト」。未完のオラトリオのための2つの断片で、メンデルスゾーンが亡くなる年の作品。第1部「キリストの誕生」、第2部「キリストの受難」からなる。イエスの物語の中でも、もっとも平安な部分と、もっとも劇的な部分だ。その「受難」が悲しみのコラールで結ばれるとき、メンデルスゾーンのこの世との別れを想った。

 プログラム・ノートによれば、その未完のオラトリオは「地上、地獄、天国」という構想を持ち、作曲された2つの部分は「地上」の部に属する場面だそうだ。その構想の壮大さは想像を絶する。バッハの2つの受難曲を超えるスケールだ。完成していたらどんな曲になったのか。

 最後は詩篇第42番「鹿が谷の水を慕うように」。起伏が豊かで、メンデルスゾーンらしい悲哀にみちたアリアがあり(第2曲。美しいオーボエのオブリガートを伴う)、大変充実した曲だ。感心してプログラム・ノートを読んだら、メンデルスゾーンが結婚して、新婚旅行に出かけた、その滞在先で作曲したそうだ(翌年に改訂)。私生活の充実も反映しているのかもしれない。

 RIAS室内合唱団もすばらしかった。ハーモニーの純度が高く、また、それだけではなく、作品の文化的な背景を知り尽くして、わたしたちにその深奥の部分を伝える演奏、といったらよいか。技術だけではなく、技術を超えるものを感じた。

 ソプラノ独唱のリディア・トイシャーのピュアな声といったら!
(2018.10.26.サントリーホール)
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