Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

METライブビューイング「アクナーテン」

2020年02月25日 | 音楽
 METライブビューイングでフィリップ・グラスのオペラ「アクナーテン」を観た。「アクナーテン」は念願のオペラだった。数年前にドイツのボンで上演されたときには、本気で観に行くことを考えたが、仕事の関係で行けなかった。それが今回こんなに優れた舞台で観ることができて大満足だった。

 アクナーテンとは古代エジプトの王の名前だ。わたしは知らなかったが、人類史上初めて一神教を唱えた人物で、その奉ずる神は太陽神だった。妻のネフェルティティはベルリンにある胸像で、息子のツタンカーメンは黄金のマスクで、それぞれよく知られている。本作はそのアクナーテンの生涯を描いたもの。フィリップ・グラスの伝記オペラ三部作の第3作にあたる(第1作はアインシュタインを描いた「浜辺のアインシュタイン」、第2作はガンジーを描いた「サティアグラハ」)。

 全3幕で上映時間140分ほどの大作だが、グラスの音楽はそれを少しも飽きさせない。単調な短い音型の繰り返しだが、それが聴衆を陶酔させる。音楽の波に身を任せているうちに、時間の感覚が変わる、あるいは時間を忘れる。それは(極端な言い方かもしれないが)ロッシーニの音楽の陶酔感と似ているような気がする。ロッシーニの音楽もグラスの音楽も、ともに壮麗な音楽だ。

 もっとも、短い音型の繰り返しなので、通常のオペラの「AとBが愛し合った」とか、「CがDを殺した」とか、そんなドラマは生まれにくい。むしろ一つの場面を執拗に描く方向に進みがちだ。そんなとき、演出家はそれをどう舞台化するかに工夫を要するのかもしれない。

 今回の演出家のフェリム・マクダーモットは大道芸のジャグリングで処理した。ジャグリングとはボールなどの物体をいくつか空中に投げたり、取ったりすることを繰り返して、つねに物体が空中で動いている状態を保つ芸。たとえば上掲↑のスチール写真は新都の建設の場面だが、このようなジャグリングが全編にわたって登場し、音の動きを視覚化した。

 アクナーテン役はカウンターテナーのアンソニー・ロス・コスタンゾ。中性的な魅力のある役作りだった。ネフェルティティ役はメゾソプラノのジャナイ・ブリッジス。その声域はアクナーテンよりも低かった。

 オーケストラ編成はヴァイオリンを欠く。ストラヴィンスキーの「詩篇交響曲」はヴァイオリンとヴィオラを欠くが、本作ではヴィオラは使われる。そのヴィオラがオーケストラに穏やかで落ち着いた広がりをもたらした。指揮は女性のカレン・カメンセックだった。
(2020.2.24.109シネマズ二子玉川)

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