Enoの音楽日記

オペラ、コンサートを中心に、日々の感想を記します。

サラエヴォの銃声

2017年04月06日 | 映画
 第一次世界大戦のきっかけとなったサラエヴォ事件。1914年6月28日にセルビア人の青年ガブリロ・プリンツィプが、サラエヴォを訪問中のオーストリア皇太子夫妻を狙撃して殺害した事件だ。映画「サラエヴォの銃声」はその100年後の2014年6月28日のサラエヴォを舞台にしている。

 現実にサラエヴォでは当日およびその前後に、サラエヴォ事件100周年の記念行事が行われた。たとえばオーストリアからはウィーン・フィルが訪れて演奏会を開いた。でも、それは和解の象徴になったかどうか。本作の登場人物の台詞からは、あまり楽観的な見方はできない。

 本作はサラエヴォの老舗ホテル‘ホテル・ヨーロッパ’での出来事を描いたもの。屋上では女性ジャーナリストが歴史学者などにインタビューしている。サラエヴォ事件とは何であったかを多角的に解明しようとする試みだ。ゲストの一人としてガブリロ・プリンツィプという(100年前の狙撃者と同じ名の)青年が現れる。

 セルビア人であるガブリロ・プリンツィプと、おそらくクロアチア人の女性ジャーナリストとの間で激しい口論が起きる。1992年から95年にかけてのボスニア・ヘルツェゴビナ紛争は、人々の心の中ではまだ終わっていない。その憎しみの深さに暗然とする。

 だが、その口論がエスカレートして、腹の底から憎しみをぶつけ合ったとき、二人はお互いを理解し、人間的な暖かい感情が通い始める。和解のきっかけが生まれたのだろうか‥。その希望がどうなるかは、今後本作を観る方のために書くのを控える。

 本作は3つのストーリーが絡み合って展開する。1つは上記のストーリー。もう1つはホテルの労働争議。2ヶ月間も賃金不払いの同ホテルでは、従業員がストライキを計画し、それをサラエヴォ事件100周年の記念行事にぶつけようとする。それを阻止しようとする支配人。緊迫したホテルの中を、女性レセプショニストが走り回る。

 3つ目のストーリーは、記念行事として一人芝居を上演するためにフランスから訪れた俳優が、スイートルームでリハーサルに余念がないというもの。

 この3つ目のストーリーはサラエヴォ事件100周年の記念行事として、現実に上演された芝居だそうだ。それを劇中劇のように組み込んでいるのだが、本作ではこの部分の発展性が乏しいことが惜しいと思った。
(2017.3.31.新宿シネマカリテ)

(※)本作の予告編 YouTube

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