Zooey's Diary

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「ハムネット」

2022年04月19日 | 


「シェイクスピアは、なぜ亡き息子の名を戯曲の題にしたのか?
 あの名作誕生の舞台裏には、400年前のパンデミックによる悲劇があった!」
裏表紙のキャッチコピー。


シェイクスピアの妻といえば、“未来の大劇作家を篭絡した8歳年上のしたたかな悪女”というイメージが定着していると思いますが、この本にはまるで別の視点から捉えた魅力的な妻アグネスが登場し、生き生きと活躍します。
アグネスは地主の娘で、森の動物や植物と交流し、ある種の霊能力を携え、魔女とも噂される個性的な女性だった。
18歳のラテン語教師のシェイクスピアは一目で恋に落ち、二人は結婚し、3人の子供を設ける。
一人息子のハムネット(当時はハムレットもハムネットも同音)が11歳の時、流行り病のペストに罹って亡くなる。
その4年後、父親は「ハムレット」という戯曲を書き上げる。
「死別の深い悲しみを味わった夫婦、家族が、ゆっくりと立ち直ってゆく物語」(訳者後書きから)です。


16世紀のイギリスの生活様式、家族の会話などが面白い。
鷹匠でもあるアグネスがチョウゲンボウを扱う様子、若い二人が貯蔵庫の沢山の林檎の中で結ばれる様子、結婚前に妊娠してしまったアグネスと「種を仕込んだ」男の、それぞれの家族との大騒動の様子。
当時のロンドンのグローブ座辺りの、糞便の山があちこちにあり、路地の隙間で男女が交合しているという、猥雑極まりない様子。
しかし私には、息子が亡くなったシーンがやはり圧巻でした。


”アグネスの頭のなかでは、思念がどんどん広がって、それから狭まり、拡がって、狭まり、それが何度も繰り返される。
彼女は思う。こんなことが起こるはずがない、あり得ない、わたしたち、どうやって生きて行ったらいいんだろう、どうすればいいんだろう、ジュディスはどうやったら耐えられるだろう、他の人たちになんて言えばいい、どうやって暮らしを続けていけばいいのか、私はどうすればよかったんだろう、夫はどこにいるんだろう、あの人はなんていうだろう、どうすればあの子を救えたのだろう、どうして救えなかったのか、危険なのはあの子の方だと、なぜ気が付かなかったんだろう?それから焦点は狭まり、彼女は思う。あの子は死んだ、あの子は死んだ、あの子は死んだ。”



この物語の舞台であるストラトフォード・アポン・エイヴォン、2009年に行きました。
ハーフティンバー様式の漆喰の壁に木枠の家が立ち並び、川にナローボートがのんびりと浮かぶ、小さな美しい町。
シェイクスピアの家はこんな感じで、この町の観光拠点になっていました。
その中に入り、当時のままに保存されているという、部屋の様子を見ることもできました。
場所や時代が異なっても、文豪であっても庶民であっても、子供を思う親の気持ちは変わらないのですね。
この作品、映画化が決まったのだそうで楽しみです。

「ハムネット」 


コメント (4)
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