20世紀初頭のオーストリアで私生児として生まれたアンドレアス・エッガー。
幼少の頃に母親を亡くし、親戚の農場に引き取られるが、奴隷のようにこき使われる。
養父に酷い虐待を受けて足を骨折し、片足が不自由な身となるが、逞しく成長しする。
唯一彼に優しくしてくれた老婆が亡くなると農場を出て日雇い労働者となり、やがて渓谷地帯を走るロープウェーの建設作業員になると、マリーと出会い結婚する。しかしその幸せも長くは続かなかった…
暴力、離別、貧困、自然災害、戦争と、アンドレアスを取り巻く環境はあまりにも厳しい。
山間の小さな村にも近代化やナチスの手が伸び、彼もそれに巻き込まれていく。
しかし彼は、誰を恨むこともなく、境遇を嘆くこともなく、ただ淡々と生きていく。
最愛の妻を亡くしてからは、ひたすら彼女へ手紙を書いて、彼女の墓にそれを入れる。
あまりに「我」がなさ過ぎて、正直取りつく島がないというか、じれったくもなる。
背景の雄大なアルプスの風景は、美しくもあり厳しくもあり、人生のメタファーなのか。
激動の時代の、名も無き男の波乱に満ちた生涯。
オーストリアの作家ローベルト・ゼーターラーの原作は、世界的ベストセラーになったと言います。
こんなに淡々とした物語が何故、それほどのベストセラーになったのか、読んでみたくなりました。
農場で虐待される日々、唯一アンドレアスに優しくしてくれたお婆ちゃんは、「バグダッド・カフェ」のゼーゲブレヒトだそうです。
原題は「Ein ganzes Leben」 英題は「A Whole Life」。