A Challenge To Fate

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【特集:フォー・アルト#1】クリス・ピッツィオコス 2ndソロ・アルバム『Valentine's Day(バレンタインデー)』

2017年05月22日 01時29分25秒 | 素晴らしき変態音楽


『Chris Pitsiokos / Valentine's Day』

2017 .5.18 Release
Self Release Digital album
Bandcamp DLサイト

Chris Pitsiokos - alto saxophone and composition

1. Ballad25 04:47
2. Four Alto (dedicated to Anthony Braxton) 07:20
3. Flutter 02:28
4. Arentwe 02:58
5. Waiting 06:30
6. blue24 04:38
7. Kettle of Birds 04:20
8. Two lines one dotted 07:12

All tracks recorded at Issue Project Room in Brooklyn, NY in March of 2017. Track 2 contains several overdubs--all other tracks done without overdubbing. No effects used on any tracks.

Recorded and Mixed by Chris Pitsiokos
Mastered by Philip White
Cover photo by Anna Ekros
Special thanks to Bob Bellerue, Zev Greenfield, and Issue Project Room

祝福の日の慈愛に満ちたアルトサックス独演の進化のしるし

NYハードコアジャズの台風の目クリス・ピッツィオコスの2ndソロ・アルバムが突然リリースされた。
ピッツィオコスは6月2日にニューヨークの実験芸術の会場ISSUEプロジェクト・ルームに出演予定で告知にはこうある。

クリス・ピッツィオコスは、2017年3月下旬にISSUE Project Room 22 Boerum劇場で録音されたサウンドを組み込んだ作曲作品を初演する。特に劇場のユニークな反響効果を活かして、ピッツィオコスの叙情的な音楽的精神をこのスペースの音響的性格に統合する。 これらの新しい作品の中には、(アンソニー・ブラクストンに捧ぐ)「4つのアルト」があり、4チャンネルサウンドで演奏される。劇場の空間内の位置や場所や場所の違いにより、劇的に聴こえ方が異なる画期的な試みである。

『Valentine's Day(バレンタインデー)』と題されたデジタル・アルバムには、告知文の記載通りにISSUEプロジェクト・ルームで2017年3月にレコーディングされた8つのトラックが収録されている。M2「Four Alto」でサックスを四重にオーバーダブしている以外は、オーバーダブ無しの一発録音で、エフェクトは一切施されていない。

2015年4月にリリースされた1stソロ・アルバム『Oblivion/Ecstasy(忘却/恍惚)』から丸2年。同じアルトサックスによる無伴奏演奏作品でありながらその性質・感触・意義は全く異なる。1st制作時にピッツィオコスが語ったのは、自らのアルトサックスへの愛を楽器への学習・実験・探求に昇華させ、何種類の音色を産み出せるかの実践であった。それは演奏している自分の魂が忘却の彼方に消え去り、ただ恍惚だけが残る無償の愛の行為の記録であった。息継ぎのないフリークトーンの超音波に始まり、裏も表もフラジオだけの急旋回、目にも留らぬ高速運指の連打音、これでもかと繰り出される驚異のテクニックは、ピッツィオコスがブルックリンにやって来た頃の即興セッションで、共演者を驚かせた怒濤のプレイの幻影が宿っていた。
『バベルへの帰還』NY即興シーンの新鋭、クリス・ピッツイオコス・ミニ・ドキュメンタリー

それから2年の間に、ピッツィオコスの活動範囲は即興セッションだけではなく、レギュラー・ユニットでの作曲作品の実践へと進化してきた。それがこの2作目のソロ作品に如実に表れている。最初の曲「Ballad25」で聴ける、自然な深いリバーブの中に立ち現れる静謐なアルトの音色は、教会の賛美歌の独唱を思わせる。メロディというよりドローンの旋律がグレゴリア聖歌のレチタティーヴォを形作る。M-2が敬愛するアンソニー・ブラクストンに捧げた「Four Alto(4つのアルト)」。ハイトーンのフラジオを含め途中から加わる中音域のロングトーンも殆ど音程を変えることなくカモメの鳴き声/サイレン/警報のように鳴り響く。5分経過すると聴覚が麻痺して管楽器ではなく電子音楽にいたぶられる快感に溺れていく。生演奏で、しかも4チャンネル(前後左右のスピーカーから立体的に音が放射される)で聴いたら、耳ばかりか五感すべてに影響が出そうである。

アルト管の中を息が通過する摩擦音(M-3)が、短いフレーズが繰り返されるミニマリズム(M-4)に転化する。遠くで木霊するアルトの音色が聴き手を包み込み柔らかい残響が安心感を育むM-5「Waiting(待ち合わせ)」は、タイトル通り暫しの憩いの時間(とき)。M-6「blue24」は1曲目と同じくフリークトーン一本のナンバーだが、ブルージーなしわがれた音が延々と続く哀しい歌。本作で最も音の躍動感に富んだM-7「Kettle of Birds(鳥のケトル)」は鳥のさえずりを模した微細なフレーズが反復されるミニマル狂想曲。ジャズやロックではなく、クラシカルな基礎に基づいた超絶技巧を遺憾なく発揮する。怒濤のテクニックに眩惑された聴き手に深い残響の霧に煙るジャジーな旋律(M-8)が別れを告げる。

ピッツィオコスのアルトと一緒に薄明の森の中を旅する41分間。即興ジャズの攻撃性とも、現代音楽の冷淡さとも異なる、豊潤な音色と温かい反響の中に溢れる慈愛に心を拓かれる体験。バレンタインデーの愛の誓いの祝福がハードコアジャズの進化を促している。

母の日も
お祝いしよう
アルトサックス

『Antony Braxton / For Alto』
Delmark Records ‎– DS-420/421


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