
9月に初の単独来日ツアーを成功裏に終えたNY即興サックス奏者クリス・ピッツィオコスは10/1に成田空港からNYではなくヨーロッパへ飛んだ。数日間休養した後デンマークを中心に6日間連続ツアーを敢行した。今回は日米欧の個性4人からなる新たなサクソフォン・カルテットのヨーロッパ・ツアーである。このカルテットについてピッツィオコスは語る。
このサクソフォン・カルテットは、今まで聴いた中で、最も聴くにたえない音楽のひとつ― 僕にとっては褒め言葉 ― です。ボルビトマグースよりもずっと不快で耳障りです。アルトサックスはとてもうるさい楽器です。4人のアルトサックス奏者が一斉に大音量でプレイすると、途轍もなくうるさい。だからこそ、このサクソフォン・カルテットが僕にとって面白いのです。元々はヨーロッパ・ツアーを企画したルイーズ・ヤンセンの発案です。
デンマーク出身の女性サックス奏者ルイーズ・ヤンセンの発案によるカルテットは『Skyggerige』と名付けられた。デンマーク語で「影の帝王」という意味だという。
メンバー:
白石民夫 Tamio Shiraishi - alto saxophone
クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos - alto saxophone
マット・ネルソン Matt Nelson - tenor saxophone
ルイーズ D.E. ヤンセン Louise D.E. Jensen - alto saxophone
音楽の歴史が忘れ去られ、インターネットの渦巻きの中で失われ、音楽は音楽そのものの品質と創造性によってではなく、その実践者の起業家としての能力により評価されるこの時代にSkyggerige(スキードリィ?と聞こえる)がシーンに登場する。 ニューヨークのアンダーグラウンドで最も勇敢で残忍で正直なサクソフォン奏者の4人は、私たちが住んでいる世界の腐敗の惨事と戦うために影の中から現れる。
日本人サックス奏者兼ヴォーカリストの白石民夫(1949年生)は日本の芸術的音楽の中心で演奏する。タコ、A-Musikなど影響力のあるノイズバンドで演奏してきた。超高音の突き刺さる演奏は唯一無二。
デンマーク/アメリカ人サックス奏者/ヴォーカリスト/作曲家のルイーズ・ダム・エッカード・ヤンセン(1980年生)は、NO-WAVE即興バンドSweet Banditryやポスト黙示録即興バンドThe Home of Easy CreditやThe Gauntlet Quartetのメンバーとして活動する。
アメリカ人サックス奏者/作曲家/即興演奏家のクリス・ピッツィオコス(1990年生)は、強度の強いロックとノイズをジャズのプログレッションやヤニス・クセナキスやエルムート・ラッヘルマンなど偉大な現代音楽の抽象性と融合させる。
アメリカ人テナーサックス奏者マット・ネルソン(1985年生)はサックス・カルテットBattle Tranceや Skeletons, Bongo Junction, Timosaurus、そしてtUnE-yArDsでの活動で知られる。

この4人でカルテットとして演奏したのは2016年7月ブルックリンのCDショップDowntown Music Galleryでのこと。この時点でレギュラー・グループとして活動する予定があったかどうかは不明だが、アルトサックスが3人いても音の張り合いにならず、役割分担がハッキリしているのは個性の違いが大きいからだろう。我の張り合いだと1回限りで懲りてしまうが、予定調和の無いアンサンブルが見事に成立している演奏に将来の可能性を感じたに違いない。
DMGのパフォーマンス以降の活動についてはやはり不明だが、今年10月デンマーク・ツアーを企画したのはヤンセンだと言う。サックス・カルテットという見様によってはクラシック音楽風のユニットは、アメリカよりもヨーロッパの方が受け入れられると考えたのかもしれない。初日のフレデリカ公演ではワークショップも開催された。
Skyggerige Sax Quartet October 2017 Danish/German tour
10/4: Tøjhuset Concert plus workshop, Fredericia, DK
10/5: Studenterhuset, Aalborg, DK
10/6: Toftlund Lydfest, Toftlund, DK
10/7: Flensburg, Germany
10/8: TBA
10/9: Mandagsklubben at 5E, Copenhagen, DK
白石民夫のビデオカメラで定点撮影された動画は動きこそ少ないものの、各メンバーのプレイの違いを活かしたハーモニーやアトモスフィアが醸し出す不思議な浮遊感と感情の襞を震わせる情感の横溢に心奪われる。すべて完全即興だと思われるが、メロディやフレーズをなぞるのではなく、感性で共振し合う同時多発的集団演奏は「即興=インスタントコンポージング(即時作曲)」の本質を詳らかにする、挑戦的な試みだと言えるだろう。
嬉しいことに彼らのアルバムが12月にリリース予定されている。
先行デモ曲試聴⇒Louise D.E. Jensen bandcamp:SKYGGERIGE - saxophone quartet
7,80年代世界を驚かせたワールド・サクソフォン・カルテット(ジュリアス・ヘンフィルas、オリヴァー・レイクas、デヴィッド・マレイts、ハミット・ブリューイットbs)以来の革命的サックス・カルテットの登場を歓迎すると共に、いつの日かライヴ・ステージを観られることを心から祈りたい。
サックスが
4人寄れば
姦しい
World Saxophone Quartet - Basel 1980