A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

森重靖宗@原宿カーサ・モーツァルト 2017.10.15 sun

2017年10月17日 02時17分12秒 | 素晴らしき変態音楽


WINDS CAFE 250 in 原宿
森重靖宗 チェロ独奏による即興演奏と自作曲のピアノ弾き語り

森重靖宗 / Yasumune Morishige (cello, piano, vocal)
一部、チェロ独奏による即興演奏
二部、自作曲のピアノ弾き語り

14:00 open 14:30 start
入場無料 投げ銭



前衛チェロ奏者・森重靖宗(元不失者)からワンマンライヴの案内メールが前日に届いた。最近突然にクラシック音楽を聴きたくなり、中古レコード店でストラヴィンスキーの管弦楽集5枚組LPボックス (500円)やエリック・サティ・ピアノ曲集4枚組LPボックス(560円)などを買ってきて徒然に聴きながら、亡き父のコレクションの中にあったバルトークの弦楽四重奏曲全曲集ボックスを売り払ったことを悔やんでいたところだった。森重のメールを読んで、弦楽カルテットの、特にチェロが好きだったことを思い出し、空いた時間に観に行くことにした。ちなみに森重のチェオ演奏を観るのは、2015年1月以来2度目である。
橋本孝之+森重靖宗@下北沢 BAR APOLLO 2015.1.23(fri)

日曜昼間のでんぱ組シークレット・イベントの本編は予定通り終わったものの、特典会の順番が遅かったためにちょっと遅れて原宿に到着した。ラフォーレ原宿の裏にあるカーサ・モーツァルトは3階建ての家屋の最上階にあり、落ち着いた雰囲気のサロン風の会場だった。30人くらいの座席はほぼ満席。チェロの上に覆いかぶさるように身を曲げた森重の微弱音の演奏に、みんな息を潜めて聴き入っている。ピリピリする緊張感が漂う中、チェロの弓の動きが次第に大きくなり、ゴゴゴ、ギギギ、キュキュキュと軋む弦の叫びが放たれる。摩擦・軋轢・摩耗・研磨・千摺・愛撫・・・。弦を留めたブリッジの先の奥、普段は触ることすらない敏感な部分に指と弓を延ばしてフリクションして喘がせる。これが愛撫だとすれば、何と容赦のない徹底的な愛し方であろうか。痛みや苦しみを与えかねない激しい摩擦熱の割には、森重の周りの空気は寧ろ冷やかな狂気を纏っている。この冷徹さと摺ることへの執念は、チェロという楽器が自らの身体の延長、というよりも自分の身体そのもの、最も大切な部分だからこそ可能なのであろう。どんなに痛みを感じても快感を得られるならば是とする快楽嗜好と混同してはならないが、チェロから発生するすべての音を自分のものにしたいという際限のない表現欲求が、完全に自己流で演奏をマスターしたと言う森重のチェロ独奏を成り立たせているに違いない。

Yasumune Morishige cello solo improvisation / 15 Aug 2014



その一方で、十数年前にギターの弾き語りをしていたという森重が、それ以来久々に人前で披露するピアノの弾き語りは、別の方向から彼の知られざる面を浮き彫りにする演奏であった。歌声は予想外にいい声で、甘いラヴソングを歌ったら女性なら蕩けてしまいそうなイケメンヴォイス。ピアノは意識的に極力ミニマルな単弾きに徹する。一曲目は1音だけの「ワンノート」ソング。「あなたが欲しい」というフレーズを目的語や装飾詞を微妙に変えながら執拗に繰りかえす演奏は、余りに大袈裟で赤裸々に本能的で、どんどん狂気の色を濃くしていく。愛の言葉を吐き過ぎて、もうこれ以上歌ったら/聞いたら完全に正気を失う臨界点の寸前で、思いもよらず奈落の底の突き落とすような残忍なセリフを口にする。時速150kmのスピードで突進するバイクのギアを一瞬でローに入れ替えたらどうなる?それと同じことが森重の弾き語りでも起こった。脳の髄があんぐり開けた口から外へ飛出すかと思った。コンビニで見た日常風景を殊更淡々と写実的に歌う2曲目の冷徹な観察力と語り口に、笑顔で人を刺し殺すシリアルキラーの夢に出てくる創造主の満足げな溜め息が聴こえたような気がした。

Yasumune Morishige piano solo improvisation / 15 Aug 2014


残念ながら夕方に別の約束のあった筆者は、2曲目の途中で退出したが、果たしてその後の弾き語りで何が暴かれたのか興味は尽きない。少なくとも話すと常に礼儀正しく明瞭な言葉で受け答えする朗らかな印象だけで森重を語る訳にはいかない、ということは確かである。もっと深く知りたいような知りたくないようなチェロ奏者/ピアニスト/シンガーソングライターである。

擦るだけ
摺って擂って
腰砕け

投げ銭を入れるのをすっかり忘れていたことに今気がついた。。。汗

Béla Bartók - String Quartets


コメント
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