筆者がハートブレイク(Heartbreak)という単語を知ったのは廚二時代にラジオで聴いたエルヴィス・プレスリーの「ハートブレイク・ホテル」だった。スローテンポの艶かしいロケンローはハートブレイク=失恋の切なさを語っていた。当時住んでいた金沢のダイワデパートの中古レコードセールでグランド・ファンク・レイルロードの「ハートブレイカー」というシングルを買って、プレスリー以上に切ない絶唱にエクスタシーを感じた。60・70年代ロック界には「ハートブレイカー」を称するロッカーが少なくない。青春の苦しみや欲求不満をロックで発散したロック界の「失恋者」の歴史を紐解いてみよう。ところで厳密には「ハートブレイカー(Heartbreaker)」とは失恋した本人ではなく「胸が張り裂ける思いをさせた人」つまり恋愛の相手を差す。
●グランド・ファンク・レイルロード『ハートブレイカー』(1969)
「レッド・ツェッペリンもぶったまげたゴキゲンなサウンド!!」というキャッチコピーは69年のデビュー当時レッド・ツェッペリンのアメリカ公演の前座をやった際に、その歌と演奏力で聴衆を熱狂させ、ツェッペリンを食ってしまったという実話に基づく。シングルカットされた「ハートブレイカー」を井上陽水がパクった「傘がない」は筆者のカラオケの十八番。演歌に通じる絶唱は最高にアガる。1971年雷雨の後楽園球場での来日公演は洋楽ロック伝説として今もロックおやじの自慢話の定番である。
Grand Funk Railroad - Heartbreaker
●レッド・ツェッペリン『ハートブレイカー』(1969)
ブリティッシュロックの雄レッド・ツェッペリンの69年の2ndアルバム『レッド・ツェッペリンII』に「ハートブレイカー」という同名異曲が収録されている。発売日はGFRが69年8月、ツェッペリンが69年10月22日とGFRの方が2ヶ月早い。アメリカ公演でGRF喰われた仕返しではないか?という説は妄想かもしれないが、英米ハードロックの巨匠が時を同じくして失恋ソングを発表した事実は興味深い。
Led Zeppelin - Heartbreaker - Live Earls Court
●フリー『ハートブレイカー』(1972)
GRF、ZEPの3年後、英国を代表するブルースロックバンド、フリー (Free)がリリースした6作目にしてラスト・アルバムが『ハートブレイカー』。日本人ベーシスト山内テツ迎えた新編成で再スタートを切ったが、力及ばず73年に解散。そんな苦しみを象徴するスローブルースは失恋になぞらえて「ハートブレイカー」と呼ぶしか無かったのだろう。
Free-'Heartbreaker'-1973
●トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズ『アメリカン・ガール』(1976)
「ハートブレイカー」というバンド名はそれ以前にもあったに違いないが、世界レベルで名をなしたのはトム・ペティが最初だろう。1950年10月20日 アメリカ合衆国フロリダ州ゲインズビルで生まれたトムは、マッドクラッチというバンドを経て、1976年にトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズとしてデビューを果たし、ソロやボブ・ディラン等とのバンド活動を含めアメリカを代表するロック・アーティストとして君臨した。筆者は決して熱心なリスナーでは無かったが、リッケンバッカーを弾くブロンド長髪のルックスは、エリオット・マーフィーを思わせカッコいいし、アメリカらしい骨太なギターロックは折に触れて聴きたくなる。2017年10月2日心拍停止で66歳で逝去。合掌。
TOM PETTY & THE HEARTBREAKERS - American Girl (1978 UK TV Performance)
●ジョニー・サンダース&ザ・ハートブレイカーズ『L.A.M.F.』(1977)
トム・ペティと同じ頃ニューヨークで、ニューヨーク・ドールズを脱退したギタリストのジョニー・サンダース(1952年7月15日 - 1991年4月23日)が結成したバンドが同じハートブレイカーズ。77年ロンドンに渡り『L.A.M.F.』 (Like A Mother Fucker)をリリースし、セックス・ピストルズとツアーを行いニューヨークパンクとロンドンパンクを結ぶ存在となった。リリース当時は単に「Heartbreakers」名義だったが、トム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズの商標の関係で後に「Johnny Thunders and The Heartbreakers」に改められた。
Johnny Thunders & The Heartbreakers - Born To Lose (Punk Rock Movie, 1977)
●ザ・ハイロウズ『ハートブレイカー』(1997)
日本側のハートブレイカー代表は元ブルーハーツのヒロト&マーシーが95年に結成したTHE HIGH-LOWS。97年にリリースしたEP『4×5』(フォー・バイ・ファイブ)に収録。ブルース好きな甲本ヒロトの作詞作曲で、マイナーメロディの失恋ブルースロケンローになっている。ライヴで披露されたことはほとんどないと思われるレア曲。
ハートブレイカー/THE HIGH LOWS
失恋は
何歳になっても
悲劇的