A Challenge To Fate

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映画『ボヘミアン・ラプソディ』に思うロックの二面性〜“伝説のチャンピオン”『クイーン』vs “お前は売女”『セックス・ピストルズ』

2018年11月15日 02時23分58秒 | ロッケンロール万歳!


クイーンのフレディ・マーキュリーの半生を描いた映画『ボヘミアン・ラプソディ』が話題である。かくいう筆者も40年来のクイーン・ファンの家人と一緒に応援上映を観てきた。飛行場の荷物運びがロックスターに成り上がるまでのドタバタ劇はまるで『スパイナル・タップ』のリメイク版だが、実話に基づくノンフィクションという点で興味深い。家人に依ると史実と異なる部分が何ヵ所かあるそうだが。つまり70年代のロック・スターは名声や性欲や酒やドラッグに溺れ常人には思いもつかない愚行を重ねる一方で、救いを求める孤独な魂を宿していたという事実である。よくやるな、と感心するやら呆れるやらしたのは、ラストのライヴ・エイドの演奏シーンの完コピ振り。森村泰昌のセルフ・ポートレートの映画版のようなこだわりと狂気に恐れ入ってしまった。

ラミ・マレック主演!映画『ボヘミアン・ラプソディ』予告編


映画の中に「ウィ・ウィル・ロック・ユー」の誕生が描かれている。自分たちの演奏に観客を参加させたいと考えたブライアン・メイが、スタジオでメンバーやガールフレンドに足踏みと手拍子をさせて「ドンドンパッ」のリズムを作り出したという。このエピソードは史実ではないらしいが、クイーンがレコーディングをしていたロンドンのウェセックス・サウンド・スタジオで、セックス・ピストルズがデビュー・アルバムのレコーディングをしていたことは映画には登場しないが史実である。ピストルズは当時EMIと契約していてクイーンのレーベル・メイトだった(すぐにテレビでFUCKを連発した事件が発生し契約破棄に至った)。

The Great Rock 'n' Roll Swindle (1980) Trailer


当然ながらスタジオで顔を会わせることになり、シド・ヴィシャスとフレディ・マーキュリーがケンカをしたという逸話が伝えられている。⇒QUEENフレディー・マーキュリー VS ピストルズ シドヴィシャス
それはともかく、注目すべきはオールド・ウェイヴの代表格のクイーンと、ニュー・ウェイヴの急先鋒ピストルズが由緒正しいスタジオできちんとした機材とプロフェッショナルなエンジニアを使って録音されたことである。ピストルズはピンク・フロイドやロキシー・ミュージックを手がけたクリス・トーマスのプロデュースで「パンク=チープ」ではないハイクオリティなサウンドを作り上げた。

Freddie Mercury Vs. Sid Vicious(Sex Pistols) 1977


完成した2枚のアルバム、クイーン『世界に捧ぐ』 (News Of The World) とセックス・ピストルズ『勝手にしやがれ!!』(Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols)はイギリスで同じ1977年10月28日にリリースされた。アメリカでの発売日は不明(州によって違っていた)だが、イギリス盤とほぼ同じ頃だった可能性が高い。つまりこの2枚は同じ日にレコード店に並び、どちらが売れるか競ったのである。その結果本国のUKチャートではピストルズ1位・クイーン4位でピストルズの勝利。アメリカではクイーン3位・ピストルズ106位、日本ではクイーン3位・ピストルズ29位とクイーンの圧勝だが、『勝手にしやがれ』はアメリカでロングセラーになり15年後の1992年にプラチナディスク(100万枚)に輝いた。

Queen - We Will Rock You (Official Video)


それ以上に面白いのは両アルバムのオープニングSEである。『勝手にしやがれ』の1曲目「さらばベルリンの陽 Holidays in the Sun」は逼迫した軍靴の行進の足音でスタート。一方『世界に捧ぐ』の1曲目「ウィ・ウィル・ロック・ユー We Will Rock You」は映画に出てきた通りのドンドンパッの足踏み&手拍子ではじまる。パンクは戦争や危機を予感させる軍靴の響き、大物ロックは「みんなで仲良く手を叩こう」。似たような音でも両者の意識の違いを如実に物語っている。また「伝説のチャンピオン We Are the Champions」で自らを勝利者として誇ったクイーンに対し、ピストルズは「アナーキー・イン・ザ・U.K. Anarchy in the U.K.」で無政府主義者になりたいと無法者宣言をした。 経済危機に喘ぐ70年代末の大英帝国で、革命を求める欲求不満の若者たちがどちらを支持したかは明らかだろう。

Sex Pistols - Holidays In The Sun


しかし1年半後にピストルズのパンク性を象徴するシド・ヴィシャスがオーバードーズで死去。14年後にクイーンの顔だったフレディ・マーキュリーがエイズで死去。二人とも伝説のロッカーとして今でも多くの信奉者を産んでいる。ライフスタイルや政治思想は違ってもロックンロールの神に見初められたことは間違いない。

映画【シド・アンド・ナンシー 30周年デジタル・リマスター版】予告


現在も活動する元メンバーたちの魂もロック天国へ召される日がいつか来る。それは聴き手である僕等も同じである。ロックンロールが楽しめるうちは思い切り楽しみたいものである。ねえ。

あの世でも
喧嘩してるか
仲良しか

Queen - Live In Japan 1985 (5/11/85) - Part 1


Sex Pistols Live at Budokan, Tokyo Japan ● The Filthy Lucre Tour ● Full Performance (1996)

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