A Challenge To Fate

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【日本地下音楽の秘宝DD.Records】Juma『Selected Works』/Naoki Kasugai(春日井直樹)『DD.Records works 1983-84』

2019年05月20日 08時26分28秒 | 素晴らしき変態音楽


80年代日本地下音楽最大の謎と呼ばれるカセットレーベル「DD.Records」の謎の一部がベールを脱いだ。現在広島でフィルムメーカーとして活動する吉松幸四郎が1978年から山口県の大学在学中に結成したプロジェクト「Juma」のDD.Records音源がニューヨーク・ブルックリンのレーベルBITTER LAKE RECORDINGSから2枚組LPでリリースされたのである。
【幻のレーベルを求めて】謎の地下音楽カセットレーベル『DDレコーズ』全貌解明の糸口

1981年に雑誌『MARQUEE MOON Vol.6』に掲載されたDD.Recordsの紹介記事に興味を持って甲府のレーベル主宰者・鎌田忠に注文した中にJumaの1stリリース『Faust and Lost』も含まれていた。ソロ名義の宅録作品中心のラインナップの中で逆説的ポップバンドと紹介されており、ドイツのプログレバンド「ファウスト」をもじったタイトルに惹かれた。どんな音楽だったか、今となっては正確には覚えていないが、ファウストにも通じるシュールなポップロックと感じた記憶がある。

JumaのほかにK.Yoshimatuとしてソロ名義・共同名義で多数の作品をリリースした吉松は、間違いなくDD.Recordsを代表するミュージシャンのひとりである。今回リリースされた『Selected Works』は、タイトル通りJumaとして81-82年にリリースした6作のアルバムから選曲されたコンピレーション。1st『Faust and Lost』は7人編成のバンドだが、それ以外は曲によってヴォーカルにF.Yasumura、サックスにT.Isotaniを加えただけでほぼ吉松のソロプロジェクトである。Side AとSide Dはそれぞれ片面1曲の長尺ナンバー。シンセ、ギター、リズムボックス、シーケンサーを駆使してオーバーダビングで作り上げたサウンドは、マイク・オールドフィールドやマニュエル・ゲッチングを思わせるミニマルなプログレ組曲。最近海外で再評価されるシンセウェーヴやアンビエントミュージックに通じる音楽性だが、Side A「Enigma」では心地よいミニマリズムの裏で脳神経を逆撫でするノイズ音響がループされていたり、Side D「Jurasic Cycle」では軽やかなギターの向こうに寂寞とした虚無を孕んでいたり、いわゆる環境音楽やヒーリングミュージックとは次元の異なる実験性と冒険心に満ちた世界である。

Side BとCには短めの曲が収録されている。瞑想的なサウンドループや音響的なインストナンバーに交じって、ニューミュージック風ポップなヴォーカルナンバーもある。特にロリータ性を帯びたF.Yasumuraのヴォーカルナンバーは、80sニューウェーヴポップに通じるキッチュな魅力がある。Jumaが前衛的な実験音楽だけを目指していなかったことは明らかであり、それはフィルムメーカー/映画監督として活躍する現在の吉松幸四郎のスタイルに通じている。

モノクロを基調としたジャケットは、レーベル主宰者の鎌田忠によるシンプルなモノクロコピーのDD.Recordsオリジナルアートワークに倣ったもの。アルバム全体を通してクールで洗練された印象があるのは、元々のJumaの世界なのか、それともアメリカ人による選曲だからなのか判断できないが、有象無象の自主音楽家の作品を統一したイメージで世に送りだしたDD.Recordsの精神が、40年近く経った今でも生き続けていることは明らかである。

Juma - Ocean Zero(DD. Records DT37)1982



同じことが昨年秋にDAYTRIP RECORDSからアナログLP5枚でリリースされたNaoki Kasugai『DD.Records works 1983-84』にも感じられる。こちらは後期DD.Recordsを代表する名古屋在住の音楽家・春日井直樹自身が、DD.Recordsからリリースした作品を選曲したコンピレーションである。吉松より少し下の世代の春日井は、81年高校生の頃フライング・リザーズに触発されて身の回りの雑多な楽器や物体を駆使して自宅録音を始めた。パンク、ニューウェイヴ、インダストリアルミュージックに影響を受けた音楽性は、過剰な実験性や攻撃的なスタイルを持っており、ほぼ同世代で精神的パンクスだった筆者にとってより共感できる世界である。露悪的なノイズミュージックの要素もあるが、通して聴くと制作した当時の(おそらく)暗い情念よりも、表現行為として昇華されたポップミュージックとしての完成度に驚くしかない。LP5枚分、3時間以上の独創的な音楽が形に残されることに感謝するとともに、現在も精力的に独創的な音楽活動を続ける春日井直樹の不屈の創造精神に敬服するしかない。

DD.Records works 1983-84 part 1~part5 / Naoki Kasugai Commercial Video

JazzTokyo #01 『Naoki Kasugai(春日井直樹)/‎ DADA1981』
【感情解放ノ為ノ音楽〜アシッド・フォークの極北】春日井直樹『呪歌』
【地下音楽の原点回帰は電気牧場の煩悩か?】Naoki Kasugai ( 春日井直樹 ) / Normal Electronics

DAYTRIP RECORDS公式サイト

地下音楽
基本DD(誰でも大好き)
愛好家

えてして「フラストレーションの発散」「若さの無駄遣い」などと呼ばれがちな10代・20代の無軌道な音楽活動だが、このふたつのアーティストが産み出した作品は、溢れ出る才能の結晶であり、それを記録したDD.Recordsの功績を含め、日本の地下音楽の秘宝として高く評価されるべきである。DD.Recordsの全容解明は不可能かもしれないが、このレーベルに残された秘宝がこの先陽の目を見ることを愛好家として楽しみにしている。

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