A Challenge To Fate

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【Disc Review】リセットエイジの到来〜クリス・ピッツィオコス『ファンシー・ニューヨーク・アーティスト』Chris Pitsiokos/ Fancy New York Artist

2019年11月03日 01時26分10秒 | 素晴らしき変態音楽


Chris Pitsiokos/ Fancy New York Artist
Download only : bandcamp
https://chrispitsiokos.bandcamp.com/album/fancy-new-york-artist

Chris Pitsiokos - alto saxophone, electronics (synthesizer and sampler), voice
Richard Lenz - amplified violin on tracks 2, 3, and 6

1. Modern Romance 02:11
2. McAvant Garde 04:08
3. Two Album Reviews in Translation 02:53
4. Hot Stamps 01:25
5. I Fell in Love with the Monad 02:39
6. 99cent Dreams 04:41

Recorded, mixed, composed by Chris Pitsiokos
2019年9月5日リリース

理論と技術をリセットすべき時代の到来を告げる未完結作。

1990年生まれのサックス奏者クリス・ピッツィオコスのソロ・アルバムがBandacmpでダウンロード限定でリリースされた。ソロとしては2015年4月の『Oblivion​/​Ecstasy』、2017年5月の『Valentine's Day』に続く3作目。これまではサックスのみだったが、今回はアルトサックスに加えエレクトロニクス(シンセとサンプラー)とヴォイスも使った多重録音で、3曲にヴァイオリンのリチャード・レンツがゲスト参加。全6曲20分の満たないミニアルバムだが、これまでこの若きサックスインプロヴァイザーがリリースして来た作品の中で最も左翼的なもしくはアナーキーな作品と言って問題なかろう。

悶えながら捻転するサックスのフリークトーンに極力ノイズ成分多めで絡みつくエレクトロニクス、暴虐なヴォイス、さらに2,3,6で被さる電気ヴァイオリンのヒステリックな悲鳴、周波数と音の位相がズレた音響のレイヤーの軋みから産まれるカオスが、聴き手の認知脳をコーティングする常識の膜をヤスリのように研磨する。一聴して、混沌こそ我が命と豪語して憚らないオルタナティヴカルチャーの残滓が漂っていた2011年にピッツィオコスがコロンビア大学の悪友と結成したノイズロックバンド、ボブ・クルーソーの悪夢のパフォーマンス(褒め言葉)を思い出す、実際リチャード・レンツはボブ・クルーソーのメンバーだった。だから本作はピッツィオコスのソロの体裁を借りたボブ・クルーソーの復活作と捉えることも出来る。

テクニックは演奏の妨げになるとして楽器を次々持ち替え、とにかく大音量で演奏することを自らに課した初期ボブ・クルーソーのスタイルは、徐々に楽器が固定化することで別のフェイズに変化して行ったが、その過程でNY前衛音楽界きってのドラマー兼レーベルオーナーのウィーゼル・ウォルターに出会ったことが切っ掛けで、2012年にピッツィオコスはブルックリン即興シーンに参入することになる。その7年後に当時の盟友と再びタッグを組んだ本作は、即興音楽の先を目指して磨きあげた高度な理論と技術を一旦初期化し動作性のクオリティを回復させる再起動(reset/reboot)作品と言えるのではなかろうか。しかもそれが単なるデモテープや試作品ではなく、高いプレイヤビリティーに支えられた完成型であると同時に未だ完結することのない現在進行形の即興の記録として我々の前に提示されたことは、「即興死すとも前衛は死なず」(またはその逆)精神が2020年代も有効であることの証明として、干渉され鑑賞するための手引きへと導くものに違いない。

もちろん、こんなイキった解釈は『高級でオシャレなニューヨークの芸術家』というタイトルに籠められたピッツィオコス特有のウィットの前には風前の灯火の如く無力化されてしまうかもしれないが。

Subway Practice - Chris Pitsiokos/Katharina Huber


リセットし
リスタートして
リブートす

現在クリス・ピッツィオコスはオルガン作品と弦楽作品を制作進行中。「フリーインプロヴィゼーション来るべきも」への期待が高まる。



コメント (1)
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