A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

【私的フリージャズ史】纐纈雅代Group/今井和雄Quartet/佐藤允彦Group/インスタント・コンポーザーズ・オーケストラ@新宿PIT INN 2019.11.3 sun を観て考えたこと

2019年11月06日 02時04分09秒 | 素晴らしき変態音楽


あれから50年~ ニュージャズホールを知ってるか?

11月3日 開場19:00 開演19:30~22:30
前売¥4,000+税 当日¥4,500+税(共に1ドリンク付)

【MEMBERS】
〇纐纈雅代グループ
纐纈雅代(As)レオナ(タップダンス)中山晃子(アライブペインティング)
〇今井和雄カルテット
今井和雄(G)藤堂勉(藤川義明:reed)井野信義(B)山崎比呂志(Ds)
〇佐藤允彦グループ
佐藤允彦(P)立花秀輝(As)広瀬淳二(Ts)松本ちはや(Per)
〇インスタント・コンポーザーズ・オーケストラ(佐藤允彦)
纐纈雅代、立花秀輝、広瀬淳二、近藤直司、蜂谷真紀、井野信義、松本ちはや、中村達也…and more

New Jazz Hall(NJH)は、副島輝人の呼びかけに富樫雅彦、高柳昌行、佐藤允彦、吉沢元治、沖至、高木元輝、豊住芳三郎などが参集、1969年11月20日にオープンしました。その目的は新しい音楽を模索し表現する場を確保することで、当時のpit inn 2階の楽器倉庫を借り受けたものでした。そこは『実験の場』であり、ナウミュージックアンサンブル、阿部薫など新人の『揺籃の場』であり、詩やアングラ映画など他分野との『交流の場』でもありました。 あれから今年11月で50年。そこで11月2日、3日、新宿pit innに12人のリーダーのもと40数名のミュージシャンが集まり、フリージャズ、即興の現在と今後を見据えたライブを展開します。 (Pit Inn公式サイトコメント)



2002年に副島輝人著『日本フリージャズ史』と出会うまでの1977年から25年間、筆者がどのように日本のフリージャズと出会いどのように受容しどのように消化して来たのか追想してみた。

1977年中3でパンクロックに開眼した筆者は、78年春高校に進学するとブラスバンド部に入部してバリトンサックスを吹きはじめる。特にブラバンが好きだった訳ではなくサクソフォンを演奏したかっただけである。何故サックスを選んだのか今となっては覚えていないが、FMラジオで番組を持っていたサックス奏者・渡辺貞夫に憧れたことも一因だろう。もちろん同時にロックやパンクが大好きで、家でギターの主にカッコ良くジャンプする練習を欠かさなかった。79年になると海外の音楽シーンでニューウェイヴが主流になり、従来のロックのスタイルから逸脱するポストパンクバンドが雑誌やラジオで紹介されるようになる。その中にザ・ポップ・グループやレジデンツといった前衛的なサウンドを持つグループがいた。どちらも即興音楽ではなかったが、曲の節々に出てくる調性やリズムを無視した、平たく言えばメチャクチャなギターやサックスやオルガンが刺激的でワクワクした。最も好きだったのはレジデンツの『The Third Reich 'N' Roll』のA面「Swastikas On Parade」の9分40秒から出てくる機関銃のようなサックスソロで、今でもこれを超えるサックスは聴いたことがない。

Swastikas On Parade


80年高3の頃、音楽雑誌で知った前衛ロックのカリスマ、キャプテン・ビーフハートの『Trout Mask Replica』を中古盤で見つけた。脱臼しそうなキチガイアンサンブルとデタラメバスクラリネットとソプラノサックスに狂喜。次にいよいよビーフハートの親分格サン・ラの『Live At Montreux』を購入。豪快なオルガンとデタラメサックスソロが最高で、マーシャル・アレンとジョン・ギルモアがヒーローになった。そこからアルバート・アイラーのESP盤『Spirits Rejoice』を聴き解脱。82年大学入学と共にアルトサックスを手に入れ、心置きなくデタラメサックスを吹けるようになった。これ以降のあれこれは拙著『地下音楽への招待』に詳しいので参照されたい。

Sun Ra Montreux 1976 (II): Take The A Train

LOFT BOOKS地下音楽への招待公式サイト

前置きが長過ぎた。さて日本のフリージャズを聴きはじめたのが何時頃なのか?たぶん高校時に山下洋輔のことは知っていた筈だ。『寿限無』のライヴ録音をラジオでエアチェックして良く聴いていた。円周率を音符に置き換えて演奏するなんてすげえ!と思った。坂田明がハナモゲラ語でテレビに出ていたが、サックス奏者だと知ったのは82年に大学に入ってからだろうか。バイトをしていたライヴハウス吉祥寺GATTYに置いてあった灰野敬二『わたしだけ?』やオムニバスライヴ盤『愛欲人民劇場』と一緒に阿部薫・吉沢元治『北<NORD>』を借りて帰って聴いた。灰野の<漆黒>も凄かったが、阿部薫の<極北>も恐ろしいほど魅惑的だった。方や黒、方や銀、どちらも最小限の楽器編成で魂の奥まで届く<歌>を絞り出す。今聴いても真っ黒な壁に赤い電球が灯るGATTYのトイレのカビ臭く湿った空気の重さが皮膚に触れるのを感じる。灰野が吉祥寺マイナーを中心に活動していたのは知っていたが、阿部薫がどこで演奏していたかなんてことは考えもしなかった。

Kaoru Abe - Motoharu Yoshizawa - Duo 75 Nord (Full Album)


GATTYと同時に荻窪グッドマンというライヴハウスで月一で開催されていた「即興道場」という誰でも楽器持参で即興セッションに参加できるイベントに通いはじめた。グッドマンの店長・鎌田雄一はフリージャズのソプラノサックス奏者だった。少しあとにたまたま大学生協の中古レコードセールで購入したNew Jazz SyndicateのLPに鎌田の名前を見つけて昂奮した。解説書にNJSは法政大学の学生会館で活動していると書いてあった。パンクやニューウェイヴや地下音楽のライヴで有名な法政学館はフリージャズの「場」でもあったのだ。「即興道場」にはゲストとして年配のサックス奏者・井上敬三が参加してこともあった。荻窪グッドマンも即興音楽の「場」であったことは間違いない。

Keizo Inoue - In Moers '81 - Side A


その他にはラジオや雑誌で話題になっていた生活向上委員会(レコードはギャグっぽくっていまいち)と梅津和時(RCサクセションでテレビに出ていた)、ピナコテカからLP『PIYO PIO』をリリースしたサックス奏者・芳賀隆夫(阿部薫の弟子とのこと)、ICPオーケストラの来日公演を企画したトランぺッターの近藤等則、近藤とともに法政学館でペーター・ブロッツマンと共演したドラマー豊住芳三郎、80年代に知っていた日本のフリー系ミュージシャンはそれくらいだろうか。間章はアルバート・アイラー、パティ・ウォーターズ、ブリジット・フォンテーヌや、やはり生協のセールで見つけたEvolution Ensemble Unity(高木元輝・近藤等則・吉田盛雄)『Concerte Voices』などの小難しい長文の解説で知っていた。

Takao Haga and Osamu Tamaguchi -- Tidal Wave (Complete Album)


90年代に高柳昌行やタージマハル旅行団などをロック/ノイズ文脈で知るようになるが、日本のフリージャズの豊潤な世界に触れることは『日本フリージャズ史』がなければ一生有り得なかったかもしれない。日本のフリージャズに50年以上もの歴史があること、富樫雅彦、佐藤允彦といったジャズのベテランがフリージャズの闘士だったこと、80年代以降も進化・深化していたこと、など新たな知識に心が拓かれる感動を覚えた。70年代後半に『ZOO』でパンクに、80年代に『Fool's Mate』『Marquee Moon』でユーロロックに、90年代『G-Modern』で地下音楽に感じたのと同じ自己革新体験であった。その流れで言うと10年代は紙媒体ではなく、ライヴ会場で地下アイドルに啓示を受けたことになる。

Masahiko Sato - Palladium (Full Album)


日本のフリージャズの震源地のひとつにニュージャズ・ホールがある。その解説は冒頭の公式コメントを参照されたい。50年前にその「場」の創出に関わった演奏家と聴衆、後追いで歴史を引き継ぐ演奏家と聴衆、大きく分けてふたつに大別される参加者により演じられた50年の歴史の重みは、完全な孫世代の纐纈雅代グループの溌剌とした音と動作と映像の戯れ、ほぼ現役世代の今井和雄カルテットの血肉化された禁欲と修練と求道、多世代混合の佐藤允彦グループの生真面目な悪巫山戯、即席部隊インスタント・コンポーザーズ・オーケストラを操るオリジネーターの悦楽が、目に見えない魔法の金粉を降り注いだ。激しい躍動感に満ちた演奏に於いても多少身体を揺らす程度で多くはじっと頭を垂れて聴き入っている観客の姿に、自らの牙城を守らんとする異端音楽戦士の心意気を感じた。

五十年
過ぎて変わらぬ
至上主義

▼一方で生きる歓びに身を任せて踊り狂うスタイルの「場」が30年続いたことも奇跡ではない。
渋さ知らズオーケストラ(20190916渋大祭)

コメント (1)
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