「のれないR&R」レコ発 ライブ
割礼
宍戸幸司(vo.g) 山際英樹(g) 鎌田ひろゆき(b) 松橋道伸(ds)
ゲスト:村瀬"Chang-woo"弘晶(perc)
open 18:30 start19:30 ¥3000/¥3500+drink
11月にリリースされた割礼9年ぶりのスタジオ録音アルバム『のれないR&R』を聴いてこのバンドの凄みを再発見した。2002年に初めてライヴを観て以来必ず年に数回観に行くお気に入りのバンドだが、その間スタジオアルバムは『セカイノマヒル』(2003)、『星を見る』(2010)の2枚しか発表していない。その代わりにCDRで過去・現在のライヴやデモ音源を数種類リリースしており、そのいずれも割礼独特のスローモーションの音空間を捉えていて貴重なドキュメントとなっている。それにも関わらず正式なスタジオ録音作品はライヴやデモ録音とは異なる緻密なサウンドメイキングのこだわりが貫かれていて、Perfect World of 割礼と呼びたくなる完成度を誇っている。89年・90年メジャーからリリースした『ネイルフラン』『ゆれつづける』の2作が同時代のバンドブームの安易な「ライヴ再現」録音とは次元の異なるハイクオリティなアレンジを施した工芸品であったように、21世紀が20年過ぎようとしている今、世の中に投下された『のれないR&R』は時代や世代に関係なく、己の道を貫く希有なバンドの理想の生き方を表明している。その潔さは、微睡むようなサウンドの幻覚性に似合わぬ意識の覚醒を呼び覚ますクールミント効果を発揮する。漫画家山本ルンルンのファンタジックでありながらブラック要素の漂うイラストに包まれた6曲は、ノードラッグの意識の覚醒と死の微睡みの狭間に産まれた生死の軋轢の環境音楽に他ならない。鏡の中に立つ私の意識は向こう側の私の無意識の産物なのだろうか。誰もが抱く素朴な疑問の答えを提示しない謎掛け仕様の怪奇骨董音楽箱である。
この日と翌日2日間開催されるレコ発ライヴの初日に足を運んだ。マンダラ2を訪れるのも久々。前回も割礼だったような気がする。15年前くらいまではサイケデリックなライトショーを交えたコンサートをやっていたが、ここ10年くらいはライティングに凝ることもあまりなく、演奏だけをじっくり魅せるスタイルが多い。殆どすべてが10分前後の長尺演奏だが、極普通の生活感のあるメンバーの何気ない動作に目を凝らしているうちに、長さだけではなく密度の濃い演奏の深淵に身を委ねることになる。前半は往年の名曲を中心にした割礼のパブリックイメージ通りの演奏。「溺れっぱなし」という曲を持つ割礼らしくサウンドの海の中に意識が滲み出る渾身のパフォーマンスだった。
後半はゲストに以前割礼のメンバーだった村瀬弘晶を迎え5人編成の演奏。普通ならダンスビートを強要する高圧的な楽器になり得るパーカッションが、アコースティックな響きで人間性を賛美する方向に演奏を導き、最終的にはスペースオディッティの如くシナプス宇宙空間に身を投じるサイキックな自己肯定の発露となる。夢みがちな子供のような妄想世界が、リアルライヴ空間と滲み合うコンデンスミルクの甘い誘惑を存分に楽しんだ。
のれないと
のれるときより
のりたがる
割礼 / オレンジ (Live Session)