《フィリップス現代音楽シリーズ・第5巻》「実験的現代音楽の展望」制作:ピエール・アンリー
フィリップス・レコード SFL-7757〜8 発売元:日本ビクター株式会社
2019年1月、松村正人著『前衛音楽入門』が出版された。バンド湯浅湾のベーシストにして、2000年に雑誌『STUDIO VOICE』の「ADDICTED TO NOISE テクノの果て、ノイズの彼方」や2012年『捧げる 灰野敬二の世界』を編集し、拙著『地下音楽への招待』のあとがきを担当した編集・文筆家でもある松村が、学究的なイメージの強い現代音楽を分かりやすく解説した入門書である。予てより現代音楽に惹かれ、理論や思想を知らないまま愛聴して来た筆者にとってはなるほど感慨深い出版であるが、結局「音」を「音」として自分なりに歪曲して楽しむ従来の聴取姿勢に変化はない。
筆者が偏愛するフランスの現代音楽家ピエール・アンリは、あらゆる「音」を「自己主張する物体 Object」として蒐集することに79歳で死ぬまでこだわり続けた。そしてポップミュージックは邪教の儀式であり、エレクトリックミュージックは音楽の汚染であると弾劾した。そうした頑迷さこそが過去のアヴァンギャルディストの神髄であり、『前衛音楽入門』の帯に“アヴァンギャルド”とはなんだったのか!?と過去形で記されたことはAcross The Boarder(越境)からBoaderless(無境界)、さらにGlobalism(世界主義)へと変容し、多様性と柔軟性を以て良しとする現代社会への逆説的なアンチテーゼと言えだろう。
The Art of Sounds (2007) - Pierre Henry
今年の秋にヤフオクで落札したこの2枚組LPボックスは、64年に仏Philipsからりリースされた原題『Panorama Des Musiques Expérimentales』の60年代半ばの日本盤である。West German Radio (Cologne), Italian Radio (Milan), French Radio and Television (Paris)の協力のもと、パリのStudio Apsomeにてピエール・アンリのディレクションのもとで制作された。ルチアーノ・ベリオ、ヤニス・クセナキス、デュフレーヌ・バロネ、ヘルベルト・アルメイト、アンドレ・アルティクラティオン、マウリツィオ・カーゲル、リュック・フェラーリ、ブルーノ・マデルナ、アンリ・プッスール、ジョルジ・リゲティ、そしてもちろんピエール・アンリの電子音楽&ミュージックコンクレートの古典が収録されている。
Iannis Xenakis - Orient-Occident
Luciano Berio: Momenti, per nastro magnetico (1960)
電子音楽黎明期らしく比較的起伏のない平板な曲調が多く、70年代以降の曼荼羅のような雑食性を期待すると肩透かしだが、先に挙げたアンリの頑固なまでの潔癖主義を思わせるストイックな感覚に満ちあふれ、アカデミズムの優越感を味わうことも可能である。しかし藤原義久氏によるライナーノーツの最後に書かれた「提示された音を虚心に聴くことが一番大切なこと」という一文に、現代も過去も「音」の受容の在り方に違いがないことを発見し、目から鱗ならぬ耳から鯱の安堵の至福に身悶えしながら誕生日を迎えた筆者であった。
Pierre Henry – Mise En Musique Du Corticalart De Roger Lafosse 1971 Electronic Avantgarde, Experime
電子音
コンクレートの
天城越え