
"Spiritual Dance Music MIX"
実のところ最初は「地下アイドルMIX」を作るつもりだったのだが、そうするとアイドルソングの間に挿入したフリーインプロヴィゼーションや電子音楽やサイケデリックロックが単なる埋め草と捉えられてしまいかねない。当初の意図は、アイドルソング目当てで聴く人の無意識下にサブリミナル効果で前衛音楽の種を蒔くことだったが、そもそも『盤魔殿』を聴く人にとっては、アイドルソングのほうが馴染みのない音楽ではないだろうか、という疑問に苛まれ、折衷案として浮上したのが「魂のダンスミュージックMIX」であった。
音楽の起源が太古の時代の祭祀でトランス状態になった古代人の踊りの伴奏であるとすれば、肉体で踊ることを目的としない音楽は異端として迫害されても可笑しくはない。しかし、例えば環境音楽/アンビエント/ドローンと呼ばれる、肉体が1mmたりとも動くことのない音楽が音楽として存在することを許されている現実に、人間という種にしか持ち得ない寛容さと許容力を与えたもうた創造主の存在の証を見ることもできるかもしれない。ところが筆者は生粋のAtheist(無神論者)である。だからこう断定したい。音楽を頭で理解するのではなく、心が感じるままに受け入れれば、肉体ではなく魂が踊れるダンスミュージックになる。さらにこう付け加えたい。このMIXは『地下アイドルへの招待』入門編でもある。
1. LiLii Kaona / オトダマ

2017年10月デビュー。オーガニック+エレクトロニカ=『オーガニカ』という新たなジャンルを掲げ独自の世界観を演出するヴォーカルユニット。略称「リリカオ」。浮遊するエレクトロニクスとクラシカルでアヴァンギャルドなピアノやストリングスが配されたサウンドは、エンヤやケルティック・ウーマン、サラ・ブライトマンやエニグマと言った90年代ニューエイジミュージックを思わせる。役者としても活動する二人ならではの、幻想的なストーリーを描く振り付けは、HAMIDASYSTEMにも通じるが、たった二人の孤独な舞は、より儚げにヲタクの純情に忍び込む。何の予備知識もなく観たステージは、水が流れる音がどこかから聴こえる気がして、ケルトの民の土呉れた顔が頭蓋の中を覗き込む、幻聴と幻覚に溺れる夢の映像美だった。素顔の二人はきっと、森の妖精の微笑みを宿しているに違いない。
2. 川島誠 / you also here - 2016.12.13 Kid Ailack Art Hall

3. Necronomidol / the festival

2014年春結成の暗黒系アイドルユニット。ブラックメタルやポストブラック、ダークウェーブ、NWOBHMといったヘヴィメタルのサブジャンルを取り入れた音世界と猟奇的なビジュアルは唯一無二。メンバーの個性的なヘアやメイク、異様なオカルト衣装に惑わされがちだが、実はかなりの美少女揃い。重低音がフロアを振動させる濃厚空間に展開されるパフォーマンスは、ダンスというより即興芝居かパントマイム。最大の魅力はクリスタルなフィメールヴォイス。初期は日本のホラーやクトゥルフ神話に倣っていたが、表現の幅を広げ世界を拡大している。ファンクラブを「暗黒教団」と呼ぶなど、神秘主義者の秘密結社をモデルにしている。最近体制が大きく変わったが、コロナ禍終息後の動きが楽しみ。
4. Han-earl Park, Catherine Sikora and Nick Didkovsky / Hypnagogia II

5. xoxo EXTREME / アイドルの冥界下り

前身は2015年5月始動したプログレッシヴ・アイドルxoxo(Kiss&Hug)。いったん解散するも2016年12月にメンバーを一新してxoxo(Kiss&Hug) EXTREME(キスエク)として再始動。マグマの公認カヴァーを始めイエスやクリムゾン、ジャズロックなど往年のプログレ・フレイバーあふれる楽曲で親父の心を掴む。最初はおやじ狙いの意図が見え隠れして避けていた筆者だったが、ライヴを観て「プログレって何か知らないけど歌と踊りが楽しい」アイドル・オーラ全開のパフォーマンスに開眼。キュートな声が萌えポイント。爆裂女子とは真逆の普通のアイドル現場のノリも新鮮。個人的にシンフォニック系プログレはほとんど聴かないが、キスエクの王道プログレ路線はヲタ心の琴線に触れる。
6. 沖縄電子少女彩 / 憎悪の階層

2000年8月7日生まれ。沖縄出身。身長:160cm。2016年6月沖縄アヴァンギャルドテクノアイドルTincyに加入、Tincyメンバーとして、沖縄を中心に東京や台湾でライブ活動の他にテレビや雑誌などへの掲載、4枚のCDをリリース。沖縄電子少女彩名義で2017年3月より活動開始。沖縄音楽、ノイズ、アンビエント、アブストラクトヒップホップ、フレンチポップなど多岐に渡る楽曲を展開。今年9月から東京に活動拠点を移し、アイドル現場はもちろん、ノイズイベントや路上パフォーマンスをはじめとするゲリラ活動も行う。初めて観たのは秋葉原グッドマンでの『GIGA NOISE』。ブロンドヘアにJK制服でエレクトロニクスノイズを鳴らすルーズソックスのおみ足にエレクト仕掛けて半立ちになったのは筆者だけではあるまい。現在18歳にして弾ける長身のスレンダー女子には、ドラびでおやASTRO、中原昌也などがお手合わせしている。アイドルや女子の枠に関係なく若手ノイジシャンとしても期待したい。
7. Boris / Peaches

8. Rent Romus' Lords Of Outland / Interstellar Deletion

9. でんぱ組.inc / 形而上学的、魔法

秋葉原ディアステージの従業員「ディアガール」により前身ユニット「でんぱ組」を踏まえ2009年6月に結成され、メンバー変更を経て2019年1月7日に6人体制となる。全メンバーが生粋のヲタク(オタク)的要素を持ち合わせており、キャッチコピーは「萌えきゅんソングを世界にお届け」。2012年に筆者が初めて体験した新世代アイドルがでんぱ組だった。ヲタ芸に興じるアイドルヲタクを別人種を見る思いで立ちすくんでいた筆者が、数年後に最前列でモッシュやリフトをキメているのは、すべてでんぱ組のせいである。活動歴10年を超えても攻めの姿勢を崩さない先取性は、地下アイドルがアヴァンギャルド(前衛)であることの生きる証に違いない。
10. クロスノエシス / インカ―ネイション

2019年4月1日、HAMIDASYSTEMの第1期のメンバーを中心に結成。グループ名は交差する「クロス」と、思考作用を意味する「ノエシス」から名付けた。略称「クロノス」。「メロディック・エレクトロニカ」を標榜した前進グループの音楽性を引き継ぎつつ、より激しいダンスとドラマティックな展開で大きくスケールアップした。アイドルにしては露出度過少の衣装や無表情なパフォーマンスは、低血圧なアート系女子を想像するが、反対にゆるふわの素顔に癒される。
11. 割礼 / のれないR&R

12. Hair Stylistics / Final Violent Shit Part 1

13. 爆裂女子 / 超革命

2017年10月結成、セルフ運営・セルフプロデュースの暴れまくりパンクロックアイドルグループ。グループ名は石井聰亙監督映画『爆裂都市 BURST CITY』(82)より。主題歌のバトル・ロッカーズ「セル・ナンバー8」をカヴァーしたり、スターリンやアナーキーのロゴを衣装にしたり、パンク親父が「こんな若い娘がなぜ?」と突っ込みを入れたくなるポイント多数。偶ドロ時代から推しだった筆者にしても、パンクをメインに打ち出したことで推し度が急上昇、モッシュ/ダイヴOKの激しい現場の最前列で暴れてしまう。オリジナル曲が増えるにつれパンクだけでない多様性を発揮するが、パンク精神はそのままに、四人四様のカッコいいアイドル像を突き進んで欲しい。
14. Pascal Niggenkemper Le 7ème Continent / Ideonella Sakaiensis

15. Zoltan Jeney / OM

盤魔殿
なんだか気分が
楽になる(笑)
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