クラフトワークのオリジナル・メンバーの一人、フローリアン・シュナイダーが癌のため73歳で死去したというニュースがゴールデンウィーク明けの5月7日に報じられ、国内外で大きな反響を呼んだ。彼は2009年正式にクラフトワークを脱退しているので、筆者が観た2013年の日本公演には参加していなかったようだ。オールスタンディングで3Dメガネを着用しての赤坂ブリッツ公演は、アミューズメントパークのアトラクション並みにメチャクチャ楽しいエンターテインメントだった。個人的な好みでは、初期3枚の実験的電子音楽がお気に入りだが、音楽シーンへの影響力は『アウトバーン』(74)以降のシンセポップ~テクノポップが絶大。その時代の代表作『人間解体』(78)収録の「ザ・モデル」は筆者が最も親しんだクラフトワークの曲であるが、彼らのオリジナル・ヴァージョンではなく他者のカヴァー・ヴァージョンで耳に馴染んだという特異なナンバーである。シュナイダーへの追悼文では「アウトバーン - Autobahn」を代表作として評価する傾向が高いが、筆者にとってのNo.1クラフトワーク・ナンバーは、シュナイダー作品ではない「ザ・モデル - The Model - Das Model」なのである。という訳で、天国のフローリアン・シュナイダー氏には申し訳ないが、筆者なりに追悼を捧げたい。
●クラフトワーク(1978)
78年5月にリリースされた7thアルバム『人間解体 - The Man-Machine - Die Mensch-Maschine』は、『ロック・マガジン』誌上で阿木譲が世界で初めて「テクノポップ」という言葉を使って紹介したという記念碑的作品。「ザ・モデル」は78年にシングルカットされ、その後81年に「コンピューター・ラヴ」のB面に収録されると人気となり、AB面を入れ替えて再リリースしたところイギリスでNo.1に輝いた。単調なエレクトロビートに乗るマイナーなメロディが琴線に触れ、華やかなモデルさんの人知れぬ悩みに思いを馳せる。
Kraftwerk: The Model
●スネークフィンガー(1979)
サンフランシスコの覆面コンボ、ザ・レジデンツの重要な共演ミュージシャンとして知られるスネークフィンガーことフィリップ・リスマンの1stソロ・アルバム『Chewing Hides the Sound』(79)の1曲目に「ザ・モデル」のカヴァーが収録された。レジデンツの奇妙奇天烈な世界を期待した筆者にとっては、あまりに真っ当な曲調に拍子抜けした記憶がある。ライヴ動画を観て、トレードマークのエキセントリックなスライドギターがスチールギターだったことを知り、ジョニー・ウィンター張りにスライドバーを指に嵌めて必死に練習した当時の自分を慰めてやりたくなった。
Snakefinger 09 - The Model
●ヒカシュー(1980)
巻上公一率いるアヴァンロックバンド、ヒカシューのデビュー・アルバム『ヒカシュー』(80)にも「モデル」として日本語カヴァーが収録されている。当時スネークフィンガーとヒカシューのどっちを先に聴いたのか記憶ははっきりしないが、日米それぞれの変態ロッカーがほぼ同時期にカヴァーした事実の裏には何か隠された秘密があるのではないだろうか。いつか巻上氏に尋ねてみたい。当時テクノ御三家として話題になったが、ヒカシューの不気味な笑いは、地下日本の陰鬱精神が流れている。なお、1stアルバムの現物が行方不明のため、2nd『夏』のジャケットをメインの写真に掲載したことをお許し願いたい。
ヒカシュー モデル PV
●ビッグ・ブラック(1987)
81年にデビューしたアメリカン・パンク・バンド、ビッグ・ブラックの2ndアルバム『Songs About Fucking』(87)に収録。骨太ベースにノイジーなギターが絡むオルタナロック・ヴァージョンだが、曲の基本にある哀愁のポップセンスは引き継がれており、ダウナーな演奏がヴェルヴェット・アンダーグラウンドやジョイ・ディヴィジョンに通じる。
Big Black (Seattle 1987) [05]. The Model
●バラネスク・カルテット(1992)
現代音楽演奏で名高いアルディッティ・カルテットのメンバーだったヴァイオリニスト、アレクサンダー・バラネスクが、1987年に結成した弦楽四重奏団、バラネスク・カルテットによるクロスオーバー・アルバム『ポゼスト』(92)に収録。クラフトワークは他にも4曲「ロボット」「アウトバーン」「コンピューター・ラヴ」「電卓」カヴァーされている。テクノポップの反復ビートはそのままミニマルミュージックになる。ビートルズやプログレのクラシック・アレンジより断然聴いていて違和感がない。
Balanescu Quartet - The Model (Short Circuit presents Mute 2011)
●ロベール(1993)
90年にデビューしたフレンチポップ・シンガー、ロベール(RoBERT)の1stアルバム『シィヌ Sine』(93)に収録。本国フランスではほとんどヒットしなかったにもかかわらず、渋谷系・フレンチポップスブームに乗って日本ではヒットした。ウィスパー・ボイスと姫カットの美貌は確かに日本人好みだが、ブックレットに掲載されたヌード写真の意外な貧乳に萎える。
RoBERT - Das Modell
●ジェネレーター(1996)
90年代ハウスミュージックやテクノのブームで7,80年代ダンスヒットが多数再利用(リミックス/サンプリング)された。特にクラフトワークはドイツのクラブシーンでは定番で「Das Model」も数多くのカヴァー/リミックスが存在する。いろいろ聴いた中では、ドイツの人気女性シンガーBlümchenを手掛けるプロデューサー・チームによるプロジェクトGenerator名義の96年のカヴァーが一番心地よい。
Generator Das Model
●ラムシュタイン(1997)
94年にデビューしたドイツのインダストリアル・メタル・バンド、ラムシュタインの97年のシングル曲。タイトルは「Das Modell」となっており、フランス語のナレーションで始まる。ドイツらしい硬質なデジタルメタルにアレンジされているが、展開や構成はオリジナルに忠実。今や世界的な人気メタルバンドだが、どこか野暮ったい印象が否めないのは筆者の偏見だろうか。
Rammstein - Das Modell (Official Video) HD lyrics Multilanguage Version
●ザ・カーディガンズ(2000)
90年代スウェディッシュ・ポップ・ブームの人気バンド、ザ・カーディガンズによるカヴァー。CD Maxi『For What It's Worth』(2003)に収録。さわやかなオシャレポップを期待したら、歪んだビートのインダストリアルサウンドで驚いた。この曲だけセルフプロデュースなので、本当はイメージとは裏腹に毒のあるバンドなのかもしれない。
The Cardigans - Das model
●スカラ&カロクニ―・ブラザーズ(2006)
ベルギーのモダン・クラシカル合唱団スカラのアルバム『It All Leads To This』(2006)に収録。元々ロックやポップスのヒット曲をレパートリーとしており、ニルヴァーナ、レディオヘッド、ポリス、カイリー・ミノーグなどのカヴァーもやっている。ピアノと合唱だけで演奏される「モデル」を聴くと、メロディの良さがヒットの秘訣であることを実感する。
Scala & Kolacny Brothers - Das Model
テクノポップや電子音楽でも、人の心を掴むのは「印象的なメロディ」であることは間違いない。その意味ではクラフトワークを「エレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートルズ (the Beatles Of Electronic Dance Music)」と評価したジャーナリストは的を得ていたことになる。
世界中
みんな憧れる
モデルさん
個人的にはポール(と言えばモーリア)による「ザ・モデル」ラブサウンド・ヴァージョンを聴いてみたかった。
▼こんなロシア語のサイトを発見した。音源がダウンロードできるとか書いてあるが、”新型モデルウィルス”に感染したら怖いのでやめておこう。
70 каверов "Das Modell"(70曲の「ザ・モデル」カヴァー)
01. Rammstein - Das Modell
02. Tremolo Beer Gut - Das Modell
03. Novocaine 2001 - The Model
04. Das Reut - The Model
05. Scala & Kolacny Brothers - The Model
06. The Members - The Model
07. Ambidextrous - The Model
08. Generator - The Model
09. The Cardigans - Das Model
10. Polkaholix - Das Modell
11. Somegirl - The Model
12. Funkstar Deluxe - The Model
13. Elakelaiset - Das Model
14. Stelsi - Модель
15. Veronika Zemanova - The Model
16. Canasta - The Model
17. Digital Hero - The Model
18. Papa Dee - The Model
19. The Last Ninja - The (8-Bit) Model
20. Banda Los Breggas - Bole Rebole
21. Megabeat - The Model
22. Overproof Sound System - The Model
23. Dr. Flanger - The Model
24. The Klopeks - The Model
25. Index - The Model
26. Balanescu Quartet - The Model
27. Wunderkind - The Model
28. Moby - The Model (live)
29. Commodore 64 Orchestra - The Model
30. Malcolm McLaren - The Model
31. Warm Jets - The Model
32. Garden Eden - Das Modell
33. Brian Eno, David Byrne & Balanescu Quartet - The Model
34. DJ Murphy - The Model
35. 30-Sicks - The Model
36. Mannequin Depressives - The Model
37. Fink - The Model
38. Zoot Woman - The Model
39. Ed Starink - The Model
40. Green Hill - The Model
41. Flamman & Abraxas - The Model
42. Aqua Vista - The Model
43. Zhou Qisheng - The Model
44. Nigra Nebula - Das Model
45. Treble Spankers - The Model
46. Hikashu - The Model
47. Die Schwiegersöhne - Das Model
48. Big Black - The Model
49. Spizzenergi - The Model
50. Demolition Group - The Model (live)
51. Nullsleep - The Model
52. Ride - The Model
53. King Automatic - The Model
54. The Divine Comedy - The Model (live)
55. Electric Six - The Model
56. DJ TA - The Model
57. Snakefinger - The Model
58. Terrorvision - The Model
59. Kollo - Das Modell
60. Sky Gravity - The Model (live)
61. Dance Robots - Das Modell
62. Sopor Aeternus & The Ensemble of Shadows - Modela Est
63. Carter The Unstoppable Sex Machine - The Model (live)
64. Markus & Kristian - Hän Malli On
65. Kröger - The Model
66. Niños Del Brasil - La Modelo
67. MakroSoft - Das Modell
68. Terra Cadaveris - The Model
69. Планетарий - Модель
70. Gaudi & Nusrat Fateh Ali Khan - Dil Da Rog Muka Ja Mahi