コロナ禍で外出できず家に閉じ籠っているサックス吹きたちよ。ステイホーム環境で近所の苦情を恐れて思いっきり楽器を吹き鳴らせずフラストレーションが溜まっていないかい?爆発寸前の表現欲求を思う存分発散できず、ミュージカル・インポテンツ(音楽的不能者)になっていないだろうか?このままじゃ演奏家としての才能が衰えるだけじゃなく、人間として無力の欠片になってしまうぞ。そういう時は外へ出よう。川でも庭でも街でも橋の下でもどこでも吹けるサックスの強みを活かしていろんな場所でヤッてみよう。誰もいない自然の中でもいいし、衆人環視の中でもいい。誰憚ることなく欲望のままに思い切り音を発射すれば、天にも昇る快感を感じられるだけでなく、今まで知らなかった新しい自分を発見し、今までにない新鮮なサウンドが生まれるに違いない。レッツ・ゴー・アウト!「サックス・アウトサイダー」として異次元の表現レベルへアップするチャンスだ!
●白石民夫 Tamio Shiraishi
野外サックスの先駆者と言えば70年代末から地下音楽界のリーダーとして活躍するサックス奏者・白石民夫だろう。リードをきつく嚙んで悲鳴のようなフリークトーンを鳴らす演奏は日本地下音楽の象徴である。ニューヨークでは地下鉄のホームでの演奏が定番だが、帰国時には新宿カリヨン橋で野外演奏を敢行する。高層ビルに反響するハイトーンサックスは都会の癒しの音色である。
白石民夫/2020/07/12@新宿カリヨン橋
●阿部薫 Kaoru Abe
日本のフリージャズ界の伝説的アルトサックス奏者・阿部薫は高校時代から高速道路沿いの多摩川の河原でサックスの練習をしていたという。独学で身に付けた驚異的なテクニックと誰よりも速いスピードは、クラクションを鳴らしながら通り過ぎる自動車を威嚇しようとして生まれたのかもしれない。
「13人連続暴行魔」より 阿部薫
●川島誠 Makoto Kawashima
若手即興サックス奏者・川島誠は以前は川越駅前の陸橋で野外演奏していたが、昨年以降は埼玉県を流れる越辺川沿いの橋の下で演奏することが多い。敬愛する阿部薫に倣ったのではなく、元々自然の中で暮らすのが好きな彼自身の性向によるものだ。越生の山猫軒や近江八幡・酒游館など、川島が好きな演奏の場は自然に近い環境にある。
川島誠 高坂橋下 Makoto Kawashima
●クリス・ピッツィオコス Chris Pitsiokos
2020年のパンデミック以降すべてのライヴ会場が閉鎖されたニューヨークでは、ミュージシャンの演奏の場はストリートしかなくなった。ブルックリン即興シーンを代表する若手アルトサックス奏者クリス・ピッツィオコスもストリートに出て街や風景との対話を通じて演奏することで、新しいスタイルやサウンドを追求し続けている。
Chris Pitsiokos - solo alto saxophone - in Red Hook Brooklyn - Aug 23 2020
●フローリアン・ヴァルター Florian Walter
ドイツでもすべてのコンサートが中止され演奏の場が失われてしまった。2021年半ばになっても屋内のコンサートは禁止され、ミュージシャンは屋外で演奏することしか許可されていないという。そこでエッセンでは即興サックス奏者フローリアン・ヴァルター等を中心に、ミュージシャンがクレーンに乗って建物の高層階の部屋の前で演奏するコンサートが企画された。ヴァルターは自作楽器Hechtyphoneを手にクレーンに乗る予定。
Kläääsch Fassadenservice
Das Hechtyphon | Unser instrumentales Maskottchen des Internationalen Musikfests 2021
●マーシャル・アレン Marshall Allen
異能サックス界の最長老にしてサン・ラ・アーケストラの総統であるマーシャル・アレン師も野外プレイ好きで知られる。野外フェスへの出演も多いが、昨年8月にはフィラデルフィアの「サン・ラ・ハウス」の裏庭でクインテットのコンサートを開催した。アーケストラの選抜メンバーのコズミックな演奏に庭の木々や野鳥や虫たちも喜んだことだろう。
MARSHALL ALLEN'S COSMIC TONES: We Out Here 2020
野外プレイ
解放感が
気持ちいい
▼今年1月に配信されたオンラインライヴの映像。23:20~40:20クリス・ピッツィオコスがニューヨークのストリートでソロ演奏している。
Pool 21 | Winant | Chase | Pitsiokos | Fraser