先日の引越しで最も苦労したのはアナログレコードとCDの整理・梱包だった。現在の住居に転居してから約20年間、それ以前から買い集めたコレクションは数倍に増え、今回の引越しでその全貌がついに明らかになった!......などと大袈裟な話ではないが、買って帰るたびに部屋の棚や床に適当に放置してきたレコードやCDをかき集め、要不要を判断し、必要なものだけを段ボールに詰める作業は、50余年の筆者の人生の中でも、35年前に大学の卒論を3日完徹して書き上げた時に劣らず苦痛に満ちた経験だった。その結果まとめたレコードは40枚入段ボールが130個=5200枚、CDは半分近く処分したにも関わらず150枚入段ボール20個=3000枚という厄介極まりない重量級の荷物となった。
これに懲りて、家族の前で「もう二度とレコードもCDも買わない」と宣言したのが6月下旬、しかしそれから3週間も立たないうちに、その誓いはあっさりと破られることとなった。それは決してそろそろ食傷気味の「レコードストアデイ(RSD)」と言う名の業界キャンペーンの魔力に屈した訳ではなく、たまたま自分の人生に於いて聴かねばならない/入手しなければならない/所有しなければならない塩化ビニール盤と運命の出会いをしてしまったからに違いない、などと自嘲的な言い訳をしながら、自らの過ちをブログとして世に晒そうという露悪的な一面は筆者の人格のどこかにしっかりと根を下ろして、もはや取り返しのつかないほど人格崩壊もしくは異常行動の兆候をきたしていることは間違いないが、悲しいかな人生を辞任することは今の私にはしたくてもできない。レコード中毒という十字架を背負ったまま、残り少ない人生という荊の道をレコ買いしながら終点まで歩んでいくしか術はない。
●TV Smith & Richard Strange / 1978
ドクターズ・オブ・マッドネスのリチャード・スミスとジ・アドヴァ―ツのTV スミスが1978年に二人だけでレコーディングしたデモ音源が世界初公開。TVスミスはアドヴァーツを結成する前からドクターズのファンで、1976年にリチャード・ストレンジと知り合って意気投合し、77年頃最初に共作した曲「Back From The Daed」は両バンドがそれぞれレコーディングしアルバム/シングルとして発表された。1978年にドクターズからヴァイオリンのUeban Blitzが脱退し解散に向かっていった頃、リチャードからの誘いでTVスミスとのコラボレーションがスタートした。二人で曲や歌詞のアイデアを出し合い、リチャードの自宅で2トラックのオープンリールレコーダーでレコーディングされた8曲は、レコード会社のバックアップがない分、二人のやりたい方法でやりたいように制作できたという。その後リチャードはソロ活動、TVスミスは新グループTV Smith's Explorersとそれぞれの道へ進んだため、発表されないまま43年間眠っていたデモテープがRSDのために発掘され世に出た意義は大きい。サウンド的にはあくまでデモテープだが、すべての曲にふたりのエッセンスが結晶化され、両グループのファンにとっては溜まらなく魅惑的な世界を味わえる。真っ赤なレコード盤のようにロック詩人と愛好家の血は争えないのである。
'BACK FROM THE DEAD' by TV Smith & Richard Strange.
●XOXO EXTREME / Le carnaval des animaux -動物学的大幻想曲-
プログレッシヴ・アイドル、キスエクことXOXO EXTREMEが一色萌、小嶋りん、浅水るりの3人に2020年に加入した真城奈央子と研修生の星野瞳々が加わった新体制で制作した2ndオリジナル・アルバム。サン・サーンスの「動物の謝肉祭」を意味するアルバムタイトルからわかるように全曲動物に因んだタイトルの楽曲からなる。1曲以外は2019年にメンバー二人が卒業して“そして3人が残った" 編成になって以降に発表された曲ばかりで、現在進行形のキスエクの活動を集約し未来を予感させる作品である。プログレをはじめとするロックの閉塞感をぶち壊すポジティブなパワーと無限大の希望を感じるとともに、コロナ禍により声出しや移動を禁じられ、かつてのような熱狂的なライブをすることができず、活気を失いがちな地下アイドルシーンに於いて、ここまで完成度の高い音楽性を持ち、レコード/CDとして十二分に楽しめる作品を発表したことキスエクは、“音楽第一”という当たり前の事実を改めて思い出させてくれる救世主と言えるだろう。フルート好きの筆者にとっては吉田一夫のフルートが活躍する「十影」と「Hibernation(冬の眠り)」がライヴで披露される日が待ち遠しい。P-Modelの1stアルバムを思わせるショッキングピンクのレコード盤には十代の頃にパンクやニューウェイヴに感じたトキメキが詰まっている。
Altair(孤高の荒鷲)/ XOXO EXTREME
●O'CHAWANZ / EARTH
ゆるふわなラップを聴かせる文化系ヒップホップユニット O'CHAWANZ (オチャワンズ)初のアナログ・シングル。過去に1,2度観た時はボーダーシャツにベレー帽のゆるふわファッションだったが、7/18下北沢Flower Loftで開催されたキスエクとのダブルレコ発ライヴイベントでは、ホワイトTにエスノパンツのオシャレなストリートファッションになっていた。「サポーターズ」と呼ばれるサポートメンバーを加えた3人組となったパフォーマンスは、持ち前のユルさに、ヒップホップらしい切れ味が加わり、ラップが苦手な筆者も思わずフリコピしてしまうほどカッコいいステージで、約1か月ぶりのアイドルライヴで溜まっていたフラストレーションを発散させてくれた。シングル盤にはエンドレストラックやヴォイスのサンプリング・トラックも収録されていて、筆者のレコ愛が刺激される。ライヴで披露されたA面「EARTH」のマッタリ感もいいが、個人的にはB面の早口ラップ「SPARK!!」の疾走感が気に入った。レーベルのさかさまお茶碗キャラクターの愛らしい眼が「いつまでも聴いてね」と訴えかけてくる。
EARTH / O'CHAWANZ
レコ買いは
一生終わらぬ
愛の道