渋谷系と呼ばれる音楽スタイルの主要な要素はR&Bとフレンチではないか、というのが俄渋谷系ヲタの筆者の持論である。フレンチの神髄はセルジュ・ゲンズブール&ジェーン・バーキンの「ジュ・テーム・モワ・ノン・プリュ」(Je t'aime... moi non plus)に違いない。
「愛しているわ、愛している…。ええ、愛しているわ…。(男)…さあね?(女)ねぇ、あなた、つれない波みたい。(女)愛しているわ、愛している。ねぇ、愛しているのよ、(男)…うん、どうかな?…。ねぇ、あなた、あなたは波で、私は裸の島ね。私の腰の間で、あなたは行ったり来たり繰り返すのね。そして二人は結ばれるのよ」
エロエロな十八禁の世界をジェーンの喘ぎ声がより過激に彩る。渋谷のレコ屋に集う音楽好き男子たちは、店内に流れるこの曲に劣情を催し、自分の彼女が囁き声で歌う夢を見て、エロ妄想に耽ったのであろう。
【渋谷系女子】
●カヒミカリィ
で、夢見るだけじゃイカン、と実行したのが後のコーネリアスこと小山田圭吾であった。女友達ふたり、嶺川貴子とカヒミカリィを唆(そそのか)してユニットを組ませ歌手デビューさせる。歌唱力の劣るカヒミはウィスパー専門で地場を固め、青江三奈の「東京のためいき」の向こうを張って「渋谷系の囁き」として君臨する。昨年ゲッツ・ジルベルト・トリビュートに参加し、見事な囁きを聴かせてくれた。現在ニューヨーク在住だが、是非とも来日コンサートを開催して欲しい。夫でタップダンサーの熊谷和徳のゲストでもOK。
●ハイポジ
カヒミ以外にもフレンチ・ウィスパー女子が多数渋谷系界隈に出現した。現在ガーリー風水アドバイザーMireyとしても活躍するもりばやしみほを中心とするユニットがハイポジ(hi-posi)。88年結成、91年デビュー、94年リリースの「身体と歌だけの関係」において独自の世界観を確立。「がんがんやって 早くあきてね」と囁く魔性の魅力に参ったのは、渋谷系デザインの第一人者コンテムポラリー・プロダクション (C.T.P.P.) の信藤三雄だけではあるまいが、身体と歌以上の関係を求める信藤の熱烈なラブコールが通じてふたりは結婚。
●POiSON GiRL FRiEND
ポイズン・ガールフレンド(以下PGF)は、女子アーティストnOrikO(ノリコ)によるソロユニット。ユニット名はモーマスのアルバム『ポイズン・ボーイ・フレンド』 から採った。92年メジャーデビュー、ライナーノーツでは「ゲンズブールの映画のようだった」とPGFのフレンチ気触れが礼賛されている。産まれた時から囁くことが貞女(さだめ)だったのだろう。2000年代は日仏を股に駆けて活動し、現在は日本在住。今年PGFとして20年ぶりの『rondoElectro』をリリース。
【新世代ロック女子】
●やくしまるえつこ(相対性理論)
新世代の囁き系女子の筆頭は、"ポップ・シークレット・プロジェクト"=相対性理論のコンセプター、やくしまるえつこ。とは言ってもデビュー作『シフォン主義』が話題になった2008年には魅力に気付かず、5年後に突然まるえつウィスパーにビリビリ感電した後追い理論ヲタの筆者にはエラそうに語る資格はあるまいに。セクシー声優まるえつなら、5200円もする『ν TOWN AGE』アナログ12インチ 3枚組を間違えて2セット購入するという新規にありがちなヘマも囁き声で赦してくれるに違いない。
●浜崎容子(アーバンギャルド)
現代囁き系女子のもう一方の最左翼は、前衛都市アーバンギャルドの"ひとりアナ雪"=よこたんこと浜崎容子でキマリ。元々シャンソン歌手だから、下心ある仏(フレンチ)ヲタ男子に強制されたウィスパーヴォイスでは無い。セーラー服と血玉模様が日本一似合う前髪パッツン女子として、鬱向き女子&男子に支持層の厚いカルトヒロイン。まもなくバンド殺っている真っ最中。
⇒アーバンギャルド、2マンバンド対決<バンド殺ろうぜ☆三番勝負!!!開催
【アイドル系女子】
●浅香唯
3回に亘って掲載した『80'sアイドル洋楽COVERS』特集のキッカケになった浅香唯のスザンヌ・ヴェガ「ルカ」のカヴァーは、92年の12thアルバム『STAY』に収録。80年代後半トップアイドルとして君臨した浅香は、90年に「ロックをやりたい」と語り"脱アイドル宣言"し、音楽性とメッセージ性を深めて行く。同時に歌唱法も従来のアイドルらしい直線歌唱から、吐息混じりのウィスパー唱法に変わり、ルックス含めセクシーオーラ全開。メンズハートをそそり立(勃)たせる。93年に突然引退したのは、ボディとマインドのセクシー度数が食い違い、芸能活動と私生活に軋轢を生じたからかもしれない。
⇒【熱愛!アイドル洋楽COVERS①】浅香唯/倉田まり子/宮沢りえ/小林麻美/原田知世/中山美穂
●早瀬優香子
子役出身、85年に女優デビューし、翌年1月シングル「サルトルで眠れない」、アルバム『躁鬱 SO・UTSU』で歌手デビュー。おニャン子クラブで売れっ子の秋元康がプロデュースした早瀬優香子は、個性的な舌足らずヴォーカルと独特の欧州POP感覚で、アンニュイな魅力を振りまいた。デビュー時のフレンチ感覚が、徐々にエスニックサウンドに向かい、それと共に囁き系を卒業。女優活動も同時進行したが、90年代前半に芸能界からフェイドアウトし、死亡説、失踪説などの噂も流れる。2009年にテレビ出演し、生存が確認された。リリースした作品はすべて現在入手困難。再発を強く望む。
囁き系
呟き系
ぼやき系
●最上もが(でんぱ組.inc)
今一番動向が気になる女子6人組・でんぱ組.incのボーカルワークは日本の最先端!と、西新宿在住のスーパーギタリスト"マーティ・フリードマン"に絶賛された。
「彼女たちの声は本当に特徴的だよね。アニメの声優さんっぽいというか、極端な萌え声だったり、キンキン声だったり、ほんわかした声だったり。その声でラップ風(ボカロのような?)の超高速なメロディを歌ったりするのだから(中略)、これだけシンガーの声質、メロディ、サウンドがクレイジーな音楽は世界にないからね。サイコーだよ! 」。
でんぱ組のMCは全員超高音のアニメ声で、誰が誰だか判別不能だが、歌になると6人それぞれ超個性的。マーティの言う"キンキン声"は最愛のえいたそ☆成瀬瑛美に違いないが、"ほんわかした声"こそ、金色の異端児・最上もがしかいない。総じて高周波が乱れ飛ぶ中で、吐息たっぷり囁き系のもが歌唱は、アルファー波を発して、ハイテンションなでんぱ現場に癒しの時を齎(もたら)すのである。言葉がわからなくても確実に伝わるこの絶妙なバランスこそ、でんぱ組の元気が世界に届く大きな要因に違いない。
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