一気に読み終えました。『論語』や『孫子』などの古典を現代ビジネスの観点から解釈、解説した本は数多くありますが、ともすると断片的になりがちな印象を持っていました。しかし、本書は著者の価値観と経験に基づき、営業に対する考え方から実践、そして同じ価値観を共有する他の経営者の事例へと、「論語営業」という一つの体系の中に、主として『論語』と『伝習録』からの言葉を織り込んでいます。それが、すらすらと読み通すことのできた要因かもしれません。『伝習録』は、「知行合一」、「事上磨錬」など、孔孟をはじめとする「聖賢」の教えを自分で咀嚼し、実践することを説いた書と言えますから、『論語』を実践的に解釈する上で必然的に伴うものであったでしょう。
論語営業の基本は「お役立ち」であると言い、他者との相互作用を通じて、学び内省することで自分を成長させ、自他の幸福に貢献する。これは非常に共感できる部分でした。このスパイラルによって、自分の世界までもが広がっていきます。「列伝」として設けられた他の経営者の事例集は、まさに著者が「論語営業」を実践し続けてきた精華なのだろうと思います。また、欄外にイラストで登場するネコや達磨が、様々な役立つツールや推薦図書などを紹介しており、本書自体が「お役立ち」の書として構成されているのも著者の想いが反映された一冊になっていると思います。
営業とは人間の相互作用そのものですから、古典が読み手によってさまざまな解釈を許容するように、本書は営業職に携わっていない人にも役立つと思います。その意味では、本書は営業という仕事を通じた著者による『論語』と言えるかもしれません。
個人的に、一度手にした本で繰り返し読むものはそう多くありません。しかし、本書は何度も実践し戻ってきたい思いに駆られます。それは本書を読んで得心するところが多かったばかりでなく、励まされるような感覚を得られたからです。内省するに、励まされた箇所が今の自分の弱い部分なのだろうと思いました。
知行合一、事上磨錬の一冊です。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした