窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

教養としての「魚」文化―第151回YMS

2023年06月15日 | YMS情報


 6月14日、「夢・あいホール」にて第151回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。今回の講師は、おさかなコーディネータのながさき一生様。昨年秋に放送されたドラマ「ファーストペンギン!」の監修ほか、水産業の活性化、魚文化の普及にご活躍されています。実はながさきさんは、YMS黎明期の第3回(2010年12月)にもご参加いただいており、今回は久しぶりの再会となりました。

 そのながさきさんは、今年4月、『魚ビジネス 食べるのが好きな人から専門家まで楽しく読める本』という書籍を出版されており、早くも第3版を数えているそうです。今回は同書に沿いつつ、「『魚ビジネス』魚の教養を身につけて世界でも一目置かれる経営者になろう」と題し、YMSのためにアレンジされた内容でお話しいただきました。





 私たち日本人にとって有史以来大変身近な魚食文化。世界的な健康志向の高まりを受け、2013年に和食がユネスコの無形文化遺産に登録されると共に、魚食文化が大変注目を集めています。ながさきさん曰く、「今や魚についての知識は、フランス人にとってのワインと同様、魚食文化の発信源である日本人が身に着けるべき教養である」と。しかし、初歩的な魚の区別すら曖昧というのが実際のところで、とても外国の方に魚食文化を語れる水準にありません。ということで、今回短い時間ですが、しっかりと勉強させていただきました。

1.サバ缶の教養~100円のサバ缶と3000円のサバ缶は何が違う?



 早速ですが、ブームの中で今や魚の缶詰のトップに躍り出た「サバ缶」の食べ比べ「利きサバ」を行いました。試食したのは価格差5倍の水煮缶詰。どちらも原料はサバと食塩のみです。個人的には匂い、食感(但し、食感はたまたま当たった部位によって異なります)、塩味に差があるように感じました。確率1/2なので正解しましたが、安い方のサバ缶も十分に美味しかったです。

 日本の食卓に上がるサバには、マサバ ゴマサバ タイセイヨウサバ(ノルウェーサバ)の三種類があります。では、この価格差は何処にあったのかというと、原料であるサバ。安い方は外国産で、高い方は石巻の金華サバで、現地で加工されたものでした。

 サバの缶詰は元々安いサバに付加価値をつける目的で作られていましたが、2013年に美容、健康に良いという報道からブームが起こり消費層が拡大、2016年にはツナ缶を抜き、魚の缶詰の生産量トップに躍り出ました。また2020年からは新型コロナによる巣ごもり需要で消費が拡大しましたが、昨年の記録的な不漁で生産量はやや落ちています。

2.マグロの教養~「大間まぐろ」と「近大マグロ」は何がすごい?

 続いてマグロについて。一口にマグロと言っても、クロマグロ(本マグロ)、ミナミマグロ(インドマグロ)、メバチマグロ、キハダマグロ、ビンチョウマグロ(注)、コシナガマグロなど様々な種類があります。ここで取り上げる大間まぐろと近大マグロはクロマグロです。

注:胸鰭が長いので「びんちょう(鬢長)」というらしいです。英語の“fin”が訛ったのかと思っていましたが、「ひげ」なんですね。

 青森県下北郡大間のブランドマグロとして名高い「大間まぐろ」。大間のまぐろが美味しい理由は、流れの速い津軽海峡が漁場であること、まぐろを傷つけたり消耗させたりしない一本釣り、または延縄漁であること、そして水揚げしてすぐに市場に送られる流通の早さが挙げられます。意外とこの流通の早さが魚の品質の決め手になるそうです。

 一方の「近大マグロ」は何が凄いか?何よりも苦節30年、2002年、世界で初めて完全養殖に成功したことです。まず、天然の魚を生簀に入れて育てることを「畜養」と言います。これに対し、卵から孵化させた稚魚を生簀で育てることを「養殖」と言います。「完全養殖」とは、養殖で大きくした魚に卵を産ませ、孵化した稚魚をさらに養殖することです。

 マグロの完全養殖が難しかったのは、ご存知の通りマグロが極めて広範囲を泳ぐ回遊魚で、その生態に不明な部分が多かったためです。しかし近畿大学は試行錯誤の末、稚魚の飼い方にポイントがあることを突き止めました。完全養殖の意義は何といっても水産資源を減らさずに済むことです。

 なお、天然マグロと養殖マグロどちらが良いかについては、季節、嗜好、調理法などにより異なるため、一概に言えません。

3.鮮度保持の教養~誤解だらけ!?「生魚」と「冷凍魚」はどちらが良い?

 三番目は魚の「鮮度」について。鮮度とは新鮮さの度合いのことですが、客観的に判断する基準として、「K値」と呼ばれる指標があるそうです。K値の試験方法は2022年に農林水産省がJAS規格で制定しています。簡単に言うと、魚の筋肉に含まれるATP(アデノシン三リン酸)が、魚の死後うまみ成分であるイノシン酸、さらには苦み成分であるイノシン、ヒポキサンチンに分解されていきます。K値はこのイノシン、ヒポキサンチンの割合のことで、値が低い程鮮度が良いということになります。

 魚の鮮度を保つ方法として、締める、冷凍するといった方法が知られています。

① 氷締め…氷水に入れて凍死させる
② 脳締め…脳を刺すなどして即死させる
③ 血抜き…血をできる限り抜く(腐敗の進行を遅らせ、臭みを防ぐ)
④ 神経締め…魚の中骨上部に沿って走っている神経束を抜く(体の細胞に死んだという情報を伝えず、うま味成分が残る)

なお、以前このブログでご紹介した、屋久島の「首折れサバ」は一本釣りしたゴマサバを船上で首を折り血抜きをした後、氷水で冷やしたものです。

 冷凍は、船上あるいは水揚げ後直ちに冷凍することで時間の進行を止め、鮮度を保ちます。水分子が結晶化することで細胞壁を破壊し、解凍した際、細胞液が漏れ出るドリップという現象が起こる場合があります。これを防ぐため、急速冷凍を行います。水は0度~ー5℃で膨張するので、細胞壁を壊さないようにするためにはこの温度帯の時間を短くする必要があります。そこで超低温で一気に凍らせてしまうのです。急速冷凍の方法としてCAS(過冷却(注)を利用して一気に凍らせる)、3D冷凍(高湿度で均一に冷却することで、水分を保持したまま急速冷凍する)などがあります。なおご家庭で冷凍魚のドリップを防ぐには魚を袋に入れ、氷水に漬けて解凍するのが良いそうです。

注:凝固点より温度が低くても固体に変化しない現象のこと。この過冷却状態で衝撃を与えると、急速に液体が凝固して固体になる。下の写真は僕が昨年2度成功した、過冷却によるビールの「みぞれ酒」。



 生魚と冷凍魚どちらが良いかについても、冷凍の仕方や熟成させた方が美味しい調理法もあるなど、場合によります。

4.お買い物の教養~漁港で海鮮丼は食べない方が良い?



 結論から言うと、その漁港で揚がる魚を選びましょうということです。これは経験的にも良く分かりますね。漁港の売りは何といっても鮮度であり、漁港ごとに揚がる魚も異なります。漁港の魚売り場へ行けば山地が表示されているので、そこでこの漁港ではどんな魚が揚がるか確認できます。

 逆に魚市場の売りは、世界各地から魚が集まる種類の豊富さ。小売店は手軽さだと言えるでしょう。最近、いわゆる魚屋さんは少なくなりましたが、素人である私たちが魚の目利きを目指すより、良い魚屋を見つける方が良いということです。良い魚屋を見分ける手掛かりとして、対面販売であること、店員が多いことが挙げられます。

5.最新の教養~ゲノム編集とは?細胞水産業とは?

 初めに培養サーモンの写真を見て、そんなものがあるのかとビックリ!魚の可食部の生きた細胞を培養して増やすのだそうです。一方、ゲノム編集というのは、しばしば異なる種の遺伝子を組み合わせる「遺伝子組み換え」と混同されますが、狙った遺伝子の塩基配列を変化させる(編集する)技術です。魚では京大、近大などの研究で真鯛が先行しており、成長を抑制する遺伝子の機能を欠損させ筋肉量を増やした真鯛の写真を見ました。すでにネットで購入できるのだとか。遺伝子組み換えは自然界では起こり得ませんが、ゲノム編集は遺伝子異常など自然界でも起こり得ることを人工的に操作したものです。

6.水産資源の教養~バイアスの極み「魚が食べられなくなる」は本当か?

 最後に、水産資源の減少で「魚が将来食べられなくなる」というのは本当か?という話です。水産資源の変動は、海洋環境の変化、漁獲の影響、人間による環境の変化など様々な要因が複雑に絡み合って起こります。メディアの報道には偏ったものや媒体によって矛盾しているものも多く、適切に管理すれば大丈夫とのことです。水産資源管理の基本には、

① インプット・コントロール…網を入れる回数を制限する
② テクニカル・コントロール…網目の大きさや漁獲能力を制限する
③ アウトプット・コントロール…漁獲量を制限する

の三種類があり、日本は①②、欧米は③が主体だそうです。

 知らないことばかりであっという間の90分でしたが、より詳しくお知りになりたい方は、冒頭に挙げたながさきさんのご著書をぜひどうぞ。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

過去のセミナーレポートはこちら
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【WBN】Making of the GRITS(アイスホッケーチーム横浜GRITSの歩み)

2023年06月04日 | WBN情報


 6月1日、WBN(早稲田ビジネスネット横浜稲門会)の分科会に参加してきました。コロナの影響により実に久しぶりの開催であり、僕自身2019年以来4年ぶりの参加になります。



 今回は、プロアイスホッケーチーム「横浜GRITS」共同代表の御子柴高視様より、「横浜GRITSの軌跡とこれから」と題してお話しいただきました。

 また、初代キャプテンの菊池秀治様をはじめ、以下の現役選手にもお越しいただきました。

小野航平選手
鈴木ロイ選手
杉本華唯選手
務台慎太郎選手



 西武鉄道、コクド、王子製紙、古川電工、雪印等々、アイスホッケーを全く知らない僕でも名前だけは聞いたことがある日本アイスホッケーリーグの衰退に伴い、現在アイスホッケーは2004年から始まった、アジアリーグという形で、日本、韓国、ロシアのプロクラブチームによるリーグ戦で行われているそうです。一時は中国のチームが参加していたこともありましたが、昨シーズンはコロナやウクライナ戦争の影響もあり、日本5チーム、韓国1チームで行われました。

 横浜GRITSはアジアリーグへの参画を目指し、2017年に準備が始まり、2019年に発足しました。「夢と活力に満ちた社会を作る」を理念に掲げ、その大きな特徴は、選手全員がプロ選手と一般社会人としての仕事の二つを両立させる「デュアルキャリア」と呼ばれるシステムにあります。これはチームの母体企業の社員としてプレーする実業団や、別に仕事を持ちながらアマチュアとしてプレーする形とも異なります。アイスホッケーに限らず、日本における多くのスポーツがプロ選手としての収入だけでは生活できない中、多くのアスリートが生活のため競技を諦めざるを得ない現状があります。また、プロ一本でやれていた場合でも、引退後のセカンドキャリアは大きな問題となっています。そこでGRITSは、当初から二つの仕事を両立させる「デュアルキャリア」を土台としてスタートしたのです。これはアイスホッケー以外の競技でもロールモデルとなり得る画期的な試みだと思います。そんなチームのクレド(信条)は、「やり抜く力を以て、常に新しいことに挑戦し続ける」、チーム名GRITSは、「やり抜く力」を意味するGRITから来ています。



 アイスホッケーをプレーするためのリンクは、競技が盛んな北海道には21、東北で14あります。しかし、合計で2,300万人もの人口を擁する東京には9つ、神奈川には3つしかありません。しかし、それでも横浜にチームを作ることを選んだのは、既に北海道に2チーム、岩手に1チーム、栃木に1チームあるということもさることながら、実は東京都はアイスホッケー連盟に所属している大学だけでも38校あり、それなりに競技人口を持った地域であること、さらに横浜は土地柄、巨大な東京より地域密着を打ち出しやすいといったことがあったようです。

 「氷上の格闘技」とも呼ばれるアイスホッケーをしながら仕事も両立させるというのは、惰眠を貪っている僕からすればどれだけ大変なことかと思いますが、さらに驚いたのは練習が週3回、仕事前の早朝に行われるということです。これは仕事後では疲労や残業などで一緒に集まるのが難しいということもありますが、タダでさえ練習できるリンクが少ない上にメインの時間帯はより人気のあるフィギュアスケートなどに抑えられてしまっているということが大きいようです。さらに驚いたのは、そんな事情ですから大学生などは深夜2時などの練習が当たり前なのだとか。加えてシーズンに入れば北海道、東北のみならず韓国への遠征もあるでしょう。その他にもスクール開催などの地域活動もあります。デュアルキャリアは、我々は想像する以上に過酷だと思いますが、それでも競技、仕事どちらにも手を抜かない、文字通り「やり抜く」を信条とされている選手の皆さんのお話を窺うと、それだけで込み上げてくるものがあります。

 さて、アジアリーグ参入前の創成期。母体企業があるわけではないので、何より資金集めに奔走。運営スタッフもボランティアだったそうです。そしてとにかく試合をしなければ、ということで大学チームや招待された香港のチームと練習試合を行いました。

 本格始動した2019年~20年シーズン。アジアリーグ参入を目指して、20年3月、王子イーグルス(現レッドイーグルス北海道)、ひがし北海道クレインズとチャレンジマッチを行います。ところが、これからという時にコロナが本格化し、その後の試合が中止。そんな中で御子柴さんは「選手に鼓舞された」とおっしゃっていました。

 2020年~21年シーズン。アジアリーグ参入が認められ、いよいよ最初のシーズン。新型コロナウィルスの蔓延により、海外の招待チーム参戦が見送られ、国内5チームのみで争うシーズンとなりました。結果は16戦全敗に終わりましたが、開幕第二戦の12vs0という惨敗から、シーズン終盤は善戦に持ち込めるようになりました。



 2021年~22年シーズン。前年同様、新型コロナウィルスの蔓延により、国内5チームのみのシーズンとなりました。2021年11月21日、対H.C.栃木日光アイスバックス戦で、3vs4と念願の初勝利を挙げます。さらに12月26日、対東北フリーブレイズ戦で1vs3と2勝目。2勝26敗でシーズンを終えました。

 2022年~23年シーズン。前横浜DeNAベイスターズ監督のアレックス・ラミレス氏がGRITSの共同代表になりました。大型新人や外国人も加わり、開幕2戦目で東北フリーブレイズから6vs3で初勝利を挙げると、最終戦のひがし北海道クレインズ戦では3vs0の初完封勝利。この試合ではKose新横浜スケートセンター(収容人数2,500人)の観衆が1,300人を超えたそうです。11勝29敗の躍進で初の最下位脱出(この年は、優勝した韓国のHLアニャンが復帰し6チームで行われ、5位)となりました。プロチームらしくなってきた実感を得たシーズンだったそうです。



 2023年~24年シーズンの初戦は9月16日だそうです。デュアルキャリアでやり抜く姿は、チームを強くしていくばかりでなく、アイスホッケーやその他多くのアスリートたちに勇気を与え、地域をそして日本を活気づけていくことでしょう。そしてここにも、「人生は自分のものであるのに、それを何と粗末に扱ってきたことか」と臍を噛む50歳にならんとする男がいます。

 9月にはぜひ生観戦を!

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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2023年5月アクセスランキング

2023年06月01日 | 人気記事ランキング


 「2023年2月アクセスランキング」で旧本社兼自宅の最後の写真を掲載しましたが、今やすっかり跡形もなくなってしまいました。ここの更地を見たことがあるのは、一族の中にも最早誰もいません。初めて見る光景です。

 さて、2023年5月にアクセスの多かった記事、トップ10です。5月も比較的頑張って更新できたかと思いますが、このところYMS関連の記事が安定して上位に来ており、今回も個別記事ではトップです。セミナー系ということで言えば、燮会の記事も8位に入りました。

 5月は野球関連で3回投稿しました。意外だったのは甲子園の記事より横浜スタジアムの記事の方が上位にきたことです(ファン歴45年でこんなこと言っては失礼かもしれませんが)。そして、前回も言いましたが、野球のシーズンが始まるとアクセスが伸びる「初めてのスカイバーカウンター-日本プロ野球2019 横浜vs中日10回戦」(3ヶ月連続)が今月も4位。そして前月に続き、「『上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会』に参加してきました」は今回もギリギリ圏外から最後の最後に滑り込みました。

 大阪で食べたお好み焼き、7位:「これは経験したことのない食感のお好み焼き-TEPPAN MAN(美章園)」は、5月29日の投稿だったにもかかわらず、あっという間にトップ10内に駆け上がりました。

 最後に、定番記事の動向は以下の通りです。
 
3位:「Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子」(20ヶ月連続)
6位:「久村俊英さんの超能力を目撃してきました」(36ヶ月連続)
5位:「エコノミーとエコロジーの語源」(101ヶ月連続)
10位:「『上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会』に参加してきました」(7ヶ月連続)

1 トップページ
2 間は兵の要にして、三軍の恃みて動く所なり-第150回YMS
3 Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子
4 初めてのスカイバーカウンター-日本プロ野球2019 横浜vs中日10回戦
5 エコノミーとエコロジーの語源
6 久村俊英さんの超能力を目撃してきました
7 これは経験したことのない食感のお好み焼き-TEPPAN MAN(美章園)
8 事例発表三本立て-第60回燮(やわらぎ)会
9 シーズン初観戦は拙攻12残塁!-日本プロ野球2023 横浜vs広島4回戦
10 「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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