1月10日、新たに貸会議室NATULUCK関内セルテ 801をお借りして、2024年最初の第159回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。
今回の講師は、寺澤孝史さん。実は今回講師をしていただくのは2回目で、前回は第106回YMS(2019年4月10日開催)「コーヒーは楽しい!〜まだまだ広がるコーヒーの楽しみ方〜」にて、コーヒーのお話をしていただきました。
その時もご紹介しましたが、驚いたことに寺澤さんは元歯科医。学生中にコーヒーに目覚め、2003年に本物のエスプレッソを日本に広める会社に入社。10年間、スペシャリティ・コーヒーの普及に努められました。その後、銀座で台中(台湾)のコーヒーショップが期間限定で開いたお店で、コーヒーと中国茶を同時にドリップする手法に出会い、そこから中国茶の道へ。現在は横浜中華街で40年の歴史を持つ「悟空茶荘」にてお仕事をされながら中国茶の勉強に専念されています。
ということで、今回は「中国茶を楽しむ」、お茶のお話しです。
さて、後半の試飲に時間を割くため、講義の方は比較的簡単に(その代わり詳しい資料を頂きました)。日本ではお茶と言えば緑茶ですが、中国茶は発酵の度合いに応じて6種類(6大茶)に分類されるそうです。発酵の度合いが低い順に
①緑茶:まず発酵させていないのが緑茶です。日本茶は蒸しますが、中国の緑茶は釜炒り茶で炒ることによって発酵を止めます。お茶と言えば長江より南のイメージがありますが、中国全域で広く生産され、日本茶と比べ繊細な香りと甘さが特徴です。僕も先日中国のお客さんから「日照緑茶」というお茶を頂きましたが、それは北方の山東省のお茶でした。中国でも圧倒的に生産量の多いのは緑茶です。代表的なものとして、杭州の龍井茶があります。
②白茶:少しだけ発酵させた(微発酵茶)を白茶といいます。昔、缶紅茶で「ピコー」というのが売っていました。これは茶葉の芽の部分を意味する「白亳」に由来する「ペコ―」のことですが、僕は学生の頃、これが白茶なのだと誤解していました。白茶はビタミンが豊富で、現在化粧品に使われるなど美容業界で注目されています。種類として3種類ほどしかなく、非常に高級だそうです。白茶を寝かせて熟成させた「老茶」も人気があるようです。
③黄茶:もう少し発酵が進むと黄茶(弱発酵茶)となります。日本ではほとんど知られていませんが、元は皇帝への献上品(黄色は皇帝を表す色でもあります)で、製造が難しく貴重なお茶です。高値がついていますが、美味しいのかというと疑問符がつくとか。
④青茶:さらに進んで半発酵茶を青茶と言います。半発酵茶と言えば烏龍茶ですが、烏龍茶はこの青茶に分類されます。しかしながら、現在は青茶自体を指して烏龍茶と呼ばれているようです。烏龍茶は非常に幅が広く、台湾を代表する「凍頂烏龍茶」も色は緑茶に近いですが、青茶です。
因みに、凍頂烏龍茶の産地である台湾の凍頂山はいかにも寒そうな高山を連想しますが、標高800mほどです。他の有名な産地である阿里山は2,663m、梨山は2,000mあります。これらのお茶は高山茶と呼ばれ、そんな高地でお茶が育つのかと感心してしまいますが、一般に高地ほど香りが良くなるのだそうです。ただし、高山茶を称した偽物も多いので、お土産を買う時にはご注意とのこと。
烏龍茶の産地として最も有名なのは、何といってもサントリーが広めた「鉄観音」の福建省ではないでしょうか?鉄観音茶は岩場で栽培した「岩茶」の一つです。非常に力強いのが特徴で、栽培した木ごとに名乗れる名前が決まっているのだそうです。
台湾、福建と並ぶ三大産地の残りの一つは広東省です。有名なのは鳳凰単叢「蜜蘭香」。鳳凰山で栽培され、単叢(たんそう)というのは、一つの木から栽培されたという意味です(ウィスキーでいう、「シングルカスク」のようなものかもしれませんね)。その名の通り、南国果実を思わせるフルーティーな香りと蜜のような甘い香りが特徴だそうです。
⑤紅茶:完全な発酵茶が紅茶です。よく紅茶は「ヨーロッパ人が緑茶を運んでいる間に発酵してできた」なんて通説がありますが、18世紀に福建省で青茶の発酵をさらに進めて誕生したものです。お茶を最初にヨーロッパに紹介したのは17世紀のオランダ人ですが、それは紅茶ではなく緑茶でした。因みに、学生の頃講演を聞いた、角山栄先生の『茶の世界史』によれば、当時のオランダ人は肝心のお茶の方を捨て、茶葉をバターで炒めて食べていたなんで書いてあった記憶があります。30年も前の話なので定かではありませんが。
⑥黒茶:紅茶までは茶葉に含まれる酸化酵素による発酵ですが、黒茶は麹菌を添加して発酵させます。なので「後発酵茶」と呼ばれます。よく知られているところでは、プアール茶が黒茶に分類されます。意外にも生産量が多く、2021年の中国茶統計によれば、緑茶、紅茶に次いで3位となっています。
6大茶以外に、ジャスミン茶、菊花茶、薔薇茶、金木犀(佳花茶)のような花の香りを足したり、造形茶として花を足した「花茶」があります。北京ではジャスミン茶がポピュラーだそうですが、水質の良くない土地で匂い消しのためにジャスミンの香りをつけたというようなことがあるようです。また、造形茶の歴史は意外と浅く、1980年代ごろからだそうです。
また、一般に発酵の度合いが低いものほど身体を冷ます作用があり、発酵が進むほど身体を温める作用があるそうです。寒冷のヨーロッパで紅茶が普及したのは、理に適っていたのかもしれません。
さて、後半は試飲に移りました。中国茶の多彩さの一端に触れるため、先ほどの烏龍茶三大産地から3種類のお茶を味わってみました。
①四季春(台湾)
②白芽奇蘭(福建省)
③蜜蘭香(広東省)
四季春。左は比較のための、サントリー烏龍茶(ペットボトル)です。台湾南投県で栽培されており、一年中茶葉が採れることから四季春と名付けられたのだそう。やさしくほのかな甘み。わずかにコーンのような香ばしい香りがします。
続いて福建省の白芽奇蘭。四季春と色が全然違うのが分かりますね。その名の通り、花のような香りがするそうですが、僕は鼻がおかしいのか、海苔のような香りがしました。軽いタンニンを感じます。茶杯の残り香は、やはりコーン菓子のような香ばしさを感じます。
そして先ほどお話しした広東省の蜜蘭香。まさに蜜のような甘い香り、色から連想されるイメージとは裏腹に渋みもなく、乾いた喉にすっと入ってくる優しさがありました。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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