1月9日、
mass×mass関内フューチャーセンターにおいて、YMS(
ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)は2019年のスタートを切りました。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
新年の第1回目は、
(社)太陽光発電協会の鈴木尚様。過去に2度ほどYMSにお越しいただいており、今回は講師として登壇いただきました。タイトルは、「横浜市の再生成可能エネルギー100%達成を楽しみにしています!」。YMSとして環境をテーマとして扱った講座は今まで意外と少なく、
第88回以来ではないかと思います。
20分延長して熱のこもったお話を頂きました。あまりにも内容が膨大でしたので、レポートでは以下のような切り口でまとめさせていただこうと思います。
1.太陽光発電市場の現状について
世界の太陽光発電導入量は2017年時点で累計402.5GW。内32.5%が中国。2位のアメリカが12.7%ほどで、日本は12.2%で3位だそうです。
国内における住宅用太陽光発電搭載率は、住宅総数の8.1%。1軒あたり4KWとして既に原子力発電所8基分の発電能力を持っているのだとか。固定買取価格は下がっていますが、コストも家庭用電力料金に近づきつつあるということです。
日本における課題は初期費用の高さで、ドイツと比較して1.2倍。日本製の太陽電池パネルが高いということもありますが(1.2倍)、それ以上に高いのは工事費(3.7倍)や許認可等に要するソフトコスト(3.1倍)だそうです。ただ、日本が過去5年で平均8.46GWの太陽光発電を毎年導入しているのに対し、環境先進国のイメージがあるドイツは、わずか平均2GWにとどまっています。ドイツの経済規模がそこまで小さいとは思えませんが、何故なのでしょうか?この点について質問すればよかったと反省しています。
日本はパリ協定において、2030年までにGDP当たりのCO2排出を2013年度比で26%削減する目標を掲げています。主力電源としての太陽光発電の可能性ですが、エネルギー基本計画では2030年に太陽光発電の全電源に占める割合を7%と試算しています。一方、シェル社による「スカイシナリオ」という試算では、15.4%は可能であろうと見ています。
2.太陽光発電を基幹産業に育てる意義について
次に、太陽光発電を基幹産業に育てる意義としては、以下のようなものが挙げられます。
1.太陽エネルギーは国産エネルギーの中で賦存量が最大級である
2.将来、最もコスト競争力のある電源の一つになる可能性が高い
3.全国で導入可能であり、地域創生に貢献
4.用途が幅広い
5.長期的に投資を上回る便益が期待できる
ご存知の通り、太陽光パネルを設置するには場所を必要とします。日本の全電力量を太陽光で賄うには国土の1.8%の面積が必要と言われています。また、外国資本に買われた山林が切り拓かれ、太陽光パネルが設置されている報道に触れたりすると、イメージとしては「本当に環境に良いのだろうか」という疑問も湧いて来たります。しかし、日本には耕作放棄地が東京都と埼玉県の面積を足したほどもあり、それらの面積だけでも国土の1.6%に達するのだそうです。耕作地は元々日当たりが良いでしょうから、そうした土地を活用できるほか、太陽光パネルは水上にも設置可能だそうです。
また太陽光発電は日照による不安定性が問題視されます。しかし、ドイツにおける調査では日食の時でも問題なく乗り切ることができたそうです。また、電気自動車は巨大な電池のようなものなので、家庭においては今後電気自動車を活用した、安定した電力供給が期待できます。また、法律の変更が必要ではありますが、各家庭で余った電力を融通し合うことも技術的には可能とのことです。
3.世界規模の環境対策の動きに取り残されるリスク
三番目は、地球規模で進む環境対策の動きとそれに取り残されることへのリスクについて。
既に、SDGs(持続可能な開発目標)、COP(気候変動枠組条約締約国会議)、温室効果ガス排出削減等の新たな国際的枠組みとしてのパリ協定等、環境対策は世界規模の動きとなっており、各国の経済もそれとは無縁ではいられません。対応の遅れは産業競争力の低下にもつながります。
その上、今後、石油、石炭、天然ガスなどの化石燃料資産は、地球温暖化対策としてCO2削減目標を達成するためには活用できなく、資産価値が大きく下がる(座礁資産)と考えられています。したがって、今はまだ儲かるからと目先の損得で大量の潜在的座礁資産を抱え込んでいると、将来、その国の経済を結果的には大きく毀損することになりかねません。座礁資産に莫大な資産を注ぎ込んでいれば、それはサンクコストとなり戦略変更の判断を誤らせる大きなリスクともなります。
既にRE100(事業で用いる電力を100%再生可能エネルギーで調達することを掲げる企業の国際イニシアチブ)やTCFD(金融安定理事会が設置した気候関連財務情報開示タスクフォース。金融関係者による評価等に資する要素として、「気候関連リスク・機会を評価・管理するために使用する指標及び目標」が取り入れられた)といった動きが始まっています。対応に遅れた国や企業は取引条件、金融面からも不利な立場に置かれる可能性があります。
日本は今年6月に行われるG20の議長国であり、そこでパリ協定に基づく、気候変動(地球温暖化)問題への取り組みに対する長期戦略を発表する予定とのことです。どのような発表がなされるのか、注目されます。
4.エネルギーの安全保障について
EUでは既に系統線連携で集団的なエネルギーの安全保障と持続可能性実現を目指す動きが進んでおり、2008年時点で33.5GWの電力がEU域内で融通されているそうです。一方日本は、昨年の北海道地震に伴う大規模停電に見られたように、強固な電力インフラを持っているにもかかわらず、電力が地域寡占で分断されているため、他地域の余剰電力を融通することができませんでした。安全保障の観点から、この点も変えていく必要があります(系統増強の計画はあるそうです)。
最後に。太陽光に限らず、日本の国土の特性から、水力発電も安定供給に優れた、有力な再生可能エネルギーなのだそうです。元国土交通省河川局長、竹村公太郎氏の著書『水力発電が日本を救う』(東洋経済)によれば、新たにダムを増やさなくても既存ダムを活用することで発電量を2倍にすることは可能なのだそうです。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした