1月11日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、2017年初となる第79回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。
今回の講師は株式会社有隣堂の市川紀子様。「初笑い!ビブリオバトル講習会~ビジネス交流編~」と題し、ビブリオバトルの体験講座を行いました。
ビブリオバトルとは、立命館大学準教授の谷口忠大氏が考案した、「好きな本の紹介を通して、コミュニケーションを楽しむゲーム」の事で、「ビブリオバトル普及委員会」というものがあり、日本のみならず海外にも広がりを見せつつあるそうです。
ルールはシンプルで、参加者が読んで面白かった本を持ち寄り、それぞれを5分間で発表。2~3分のディスカッションを経て、一番読みたいと思う本(プレゼンの巧拙ではなく)を投票で「チャンプ本」として選出するというゲームです。今回はYMS理事の中から代表として5名の皆さんに発表していただきました。
発表のテーマは、お正月に因み「初」です。
トップバッターは、山口さん。
推薦図書:『もっとも美しい数学-ゲーム理論』
ノーベル経済学賞受賞の数学者で映画『ビューティフル・マインド』の主人公でもあるジョン・ナッシュの物語。ゲーム理論を発展させたナッシュですが、理論の創始者であるフォン・ノイマンとの天才同士の裏表が上手く描かれている作品だそうです。タイトルだけ見ると数学の本かと思ってしまうのですが、本文中に数式は一切出てこないとのこと。
著者であるトム・ジークフリートは「サイエンス・ライター」と呼ばれる、科学を素人にも分かるように書き下す作家だそうです。日本でもこういう作家がもっと増えてほしいと山口さんはおっしゃっていました。テーマの「初」ということについて言えば、山口さんは今年新しい仕事に挑戦する予定とのことで、それもあってこの本を手に取ったとのことです。
もっとも美しい数学 ゲーム理論 (文春文庫) | |
クリエーター情報なし | |
文藝春秋 |
ビューティフル・マインド [DVD] | |
クリエーター情報なし | |
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン |
二番目は茂野さん。
推薦図書:『エクサスケールの衝撃』
まずテーマの「初」ということについて言えば、茂野さんにとってこの本は初めて読んだ「未来本」とのこと。即ち、同書はスーパーコンピュータの発達によって我々の未来がどう変わるかを描いた、未来予測本だということです。非常に分厚い一冊。
その未来ですが、一言でいえば極めて楽観的な予測を立てているとのことです。例えば、コンピュータの発達により、エネルギーコストが下がる。エネルギーコストが下がることにより植物プラントのコストが下がり、食糧問題が解決、さらには藻の石油化により様々な製品コストが下がる。最終的には大半の労働が不要になるほか、「死」さえも乗り越えることができるのではないか、等々。
茂野さん曰く、全面的に賛成はできないものの、テクノロジーが我々の生活を一変させる時代は、想像より近い未来なのではないかと感じたということです。
エクサスケールの衝撃 | |
クリエーター情報なし | |
PHP研究所 |
三番手は竹田さん。
推薦図書:『大人の時間はなぜ短いのか』
感覚的に我々の世代であれば恐らく誰もが感じているであろうテーマを実験心理学に基づく様々な検証を通じ、素人にも分かりやすく説明した本だそうです。新書なので読みやすそうです。「新年にはあれもやろう、これもやろうと思いを巡らすのに、つい目の前のことに忙殺されているうちに1年があっという間に過ぎてしまう。何故なんだろう?」という毎年訪れる年初の疑問が、竹田さんにとっての「初」ということです。
さて、本当に大人の時間はなぜ短いのでしょう?同書によれば、人の時間感覚というのは、心理的な時計と物理的な時計の進み方のギャップ、つまりその人の感情状態や知覚に影響されているとのことです。例えば、ポジティブ感情の時、人は時間を早く感じ、ネガティブ感情の時、時間をゆっくりと感じるというように。これを実験的に説明しているところが興味深いですね。
では、何故子供より大人がより時間を短く感じるのかということですが、これは加齢による代謝の低下が関係しているそうです。代謝が落ちると人は時間をゆっくりと知覚する、しかし実際の時間はそれよりも速く過ぎているので、結果として感覚としては「時間が早く過ぎた」ということになるようです。
実は今回のビブリオバトルで「チャンプ本」に選ばれたのが、この本でした。それだけ皆さん共感するテーマだったのではないでしょうか?
大人の時間はなぜ短いのか (集英社新書) | |
クリエーター情報なし | |
集英社 |
四番手は渡邉さん。
推薦図書:『初秋』
ロバート・パーカーによる小説。渡邉さんにとって、中学の時に読んだ初めての翻訳本だそうです(他にもいろいろな「初」がありました)。
新しい価値観に揺れる1970年代に生きる昔気質の不器用な探偵が、ひょんなことから自閉症の子供を預かることになる。その子供と過ごす中で様々な葛藤に悩みながら、自身も成長し、時代を受け入れていく。そんなお話だそうです。
渡邉さんはこの本を何度も読み、ご家族も読まれているそうです。渡邉家にとって大切な一冊なのかもしれません。変化しつつも「ありたい自分」も忘れずに生きること、そこに渡邉さんが大切にする価値観があるように感じました。
初秋 (ハヤカワ・ミステリ文庫―スペンサー・シリーズ) | |
クリエーター情報なし | |
早川書房 |
最後は、僕からの発表です。
推薦図書:『プロ野球の男たち-野村克也の目』
選んだのは子供でも読める野球本(事実、僕の友人はこれを小学校二年生の時に読んだと言っていました)。36年も前の本なので既に絶版ですが、テーマの「初」は、1983年にプロ野球中継「初」の試みとして導入され、後に「野村スコープ」として有名になった、ストライクゾーンを9分割した配球解説。その原型が同書に掲載されています。
内容については、以前このブログでご紹介していますので、そちらをご覧ください。
プロ野球の男たち―野村克也の目 (1982年) | |
クリエーター情報なし | |
朝日新聞社 |
やってみて感じたのは、5分という短い時間の中で本を読んだことのない人たちにも分かるように伝えることの難しさです。小学生の頃苦労した読書感想文を思い出しました。また、人それぞれ異なる興味・関心がある中で、新たな本との出会いばかりでなく、発表者の人柄や価値観が短時間で共有できる、優れたコミュニケーションツールだと感じました。
節目となる第80回YMSは、2月8日(水)開催予定です。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした