2021年1月13日、
mass×mass関内フューチャーセンターにて、第122回YMS(
ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。1都3県の緊急事態宣言発令に伴い、今回は開催時間を繰り上げての開催となりました。
11年目を迎える新年最初の講師は、
オルト都市環境研究所・代表取締役の岡田信行さん。岡田さんは、都市緑化研究の仕事をされる中で、都市に花を植えることのフィードバックを得るためミツバチと関わるようになり、ミツバチの飼育を通じた「ひと・まち・環境」をつなぐ市民活動「Hama Boom Boom!」を立ち上げ、地域づくり、教育活動などを行っていらっしゃいます。ということで、今回は「ミツバチたちとマネジメント」と題してお話しいただきました。
1.なぜミツバチなのか?
前述の通り、元々都市緑化を研究する仕事をしており、都市に花を植えることの効果についてフィードバックを必要とされていたことがミツバチと関わるようになったことの始まりだそうですが、グローバル化が進展する中、一見地球規模で人がつながるようになったように思われますが、むしろ眼前では産業と地域、自然と地域、つまり人と自然とそれが形作る地域のつながりが希薄化しているというのが現実です。人と人とが、人と自然とがつながらなくなり、私たちの身の回りの環境は、人が集まり、多少の木や花があっても、それぞれがバラバラで孤立感を深め、活力を失っています。
こうしてバラバラになってしまった「つながり」を再生し、地域に活力を蘇らせるには、再び結びつこうとする何か地域の資源を活用した「面白いこと」が必要ではないか?そうして白羽の矢が立ったのが「ミツバチの飼育」、つまり養蜂だということです。数式的に言うと、地域に眠るa、b、c、dといった多様な資源にミツバチの飼育というxを掛け合わせる。するとxが共通因数となり、x(a+b+c+d)といった形で括れるというイメージになります。
2.養蜂は目的ではなく手段
ミツバチの飼育は人と人とを繋げ、生産したハチミツは地域ならではの特産として、さまざまな地域の産物と結びつき、それらを活性化します。また、ハチミツを作るには花が必要であり、花を必要とする地域はその環境を保全することにもつながります。
養蜂は大抵誰もが初心者であり、下手をすると刺される可能性があるので少し怖さを伴います。また、防護服というユニフォームを着用し、共同で作業に当たります。まさにこうした性質が、達成感、仲間意識を育くみます。
つまり、養蜂は地域づくりに貢献すると共に、地域と共にかかわる人々も成長していく格好の媒体と言えるのです。
3.完璧に調和したミツバチの社会
ミツバチの群れ(2群)は、あたかも大きな会社組織のようです。そこには約3万匹(内女王バチ1匹、雄バチ1,500匹、ほか働きバチ)のハチがおり、営業部、ハチミツ事業部、総務部、営繕部などのように、群れの遺伝子の継承を目的とした分業制が存在し、しかもそれらが完璧に調和しています。
まず働きバチですが、
日齢3日ごろ:掃除
日齢7日ごろ:育児
日齢10日ごろ:巣作り
日齢14日ごろ:貯蔵
日齢20日ごろ:門番
日齢20日以降:ミツ集め
というように、経験(?)に応じて果たす役割が分かれます。働きバチの役割で我々が一番イメージしやすいのは最後の「ミツ集め」(会社で言うなら営業部)だと思いますが、この仕事は一番のベテランがこなすのですね。
ミツを採取する範囲は半径2㎞、良く知られた8の字ダンスで営業報告を行い、どこに花があるかを共有し、採蜜の効率を上げます。5月、6月が最もミツの採れる時期で、季節の花の移り変わりと共に、ミツの色も変わります。つまり、地域のハチミツには地域の花の特性ばかりでなく、季節も反映されるのですね。
門番は外敵の侵入に備えます。外敵が来たらまずは羽音で威嚇。次に体当たり。針で刺すのは最後の手段だそうです。ミツバチは一度針で刺すと、毒袋と共に内臓が抜けてしまい、死んでしまいます。こうした自己犠牲が起こるのは、ミツバチが個体としてではなく群れという超個体として遺伝子の継承を目的にしているためです。
「働きバチ」というと、下っ端のようなイメージですが、実は群れの人事権を握っているのは女王バチでも雄バチでもなく、働きバチなのだそうです。例えば、女王バチも孵化した幼虫の時点では働きバチと変わりありません。しかし、働きバチがこしらえた王台と呼ばれる小部屋で産まれ、ローヤルゼリーを与えられた幼虫だけが女王バチとなることができるのです。
雄バチの場合は、働きバチが必要な雄バチの分だけ、大きさの違う穴を作ります。女王バチは雌雄の産み分けが可能ですが、穴の大きさによって本能的に雌雄を生み分けるのだそうです。つまり、女王バチの誕生も、雄バチの誕生も働きバチが制御しているということになります。
同じ巣に複数の女王バチが存在した場合、新旧の女王バチが女王の座をかけて争います。力が同等であった場合、旧女王バチが群れの一部を引き連れ別の巣を作ります(これを分蜂と言います)。
良く知られているように、ミツバチの巣は、精巧なハニカム構造(正六角形または正六角柱を隙間なく並べた構造)をしています。その完璧な構造には驚嘆せずにはいられず、美しささえ感じます。そもそも「ハニカム」という言葉自体が、「ミツバチの櫛(=蜂の巣)」に由来します。材質は蜜蝋で、隙間をプロポリス(蜂ヤニ)で埋めます。
雄バチの仕事は交尾のみ。針もありません。エサも働きバチから与えられて過ごしますが、冬になると用済みということで巣から追い出される運命にあります。雄バチは英語で”drone”、例の小型無人航空機「ドローン」と同じです。ブーンという音という意味の他、「のらくら者」といった意味があります。何だか可哀想ですね。
4.飼育のマネジメント
このように奇跡とも思える、システムが完璧な調和を見せるミツバチの社会。その飼育を通じて、私たちは自然と組織を俯瞰して見るようになります。そして飼育プロジェクトを通じ、自分たちの地域社会というシステムを蘇らせ調和させる。いわばプロジェクトそのものが、調和したシステムのフラクタル(相似的)構造になっているとも言えます。
ミツバチの飼育は1年を通じて、おおよそ以下のようなライフサイクルがあります。
3月:準備期
4月~6月:成長期(女王バチ交代もこの時に起こる)
7月~9月:成熟期(ハチの数が最も多い。外敵との争いも激しくなる)
10月~2月:衰退期(ハチの数は1/3に減る)
養蜂で果たす人の役割は、常に巣箱のモニタリングをすることです。ハチミツを生み出すミツバチのマネージャーと言えますね。例えば巣箱、巣枠の追加を行うか、分蜂の兆候はないか、逆に群れの状態が良いので意図的に分蜂させるか、悪ければ統合させるかなど。
よく養蜂家さんが巣枠を扱うのに煙を焚くのをご存知の方も多いのではないかと思います。なぜ煙を焚くのかと言えば、ハチが煙を吸って動きが鈍くなるからではなく、山火事が起こった際、ミツバチは別の場所へ移動するため、必要最小限のミツなどを身体にため込む準備に入り、外敵を攻撃するという優先順位が下がるためだそうです。
ミツバチの巣にもそれぞれ個性があるそうです。それは先天的な場合もありますが、人間の扱い方によって後天的に変わる場合もあります。例えば、巣を乱暴に扱えば、ミツバチも攻撃的になるのだとか。
ミツバチにとって、ハチミツは燃料となります。寒い時は羽を振動させ、熱を起こし、逆に暑い時は水分を扇いで巣を冷やします。飼育する人は、こうした負担をなるべくミツバチにかけず、ハチミツの生産性を上げるため気を配ります。
手間ひまかけてできたハチミツは、遠心分離器で収穫します。僕もぜひこの作業を見てみたいですが、教育現場でもこの作業は子供の関心を惹くようです。
5.プロジェクトとSDG’s
養蜂のプロジェクトは、SDG’sの17目標のどれに当てはまるというより、5つのP(People、 Prosperity、Planet、Peace、Partnership)をつなげるという概念そのものが非常に近いのではないかと岡田さんは考えていらっしゃいます。いわば、プロジェクトは地球規模ではなく、半径2㎞のただし目に見えやすいSDG’sの実現。上記のように、ミツバチの生態はそれ自体が奇跡的とさえ思える完璧な調和です。『サピエンス全史』の著者、歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏によれば、人間と他の動物との違いは、たとえ現実でなくても想像したルールや基準、価値観に従って、大規模な集団が行動できるという点だそうです。しかし、我々の社会が「群という超個体としての遺伝子の継承」を目的とするミツバチほど調和しているようには思えません。ミツバチを凌駕する人数での協調行動をとれるのが人間だとすれば、欠けているのは協調行動をとらせる価値観だということになります。この点にこそ、このミツバチ・プロジェクトの意義があるように思いました。企業のCSR活動、引きこもりの人の自立支援、福祉施設などとの連携など、可能性はまだまだありそうです。
我々YMSにとっても示唆に富むお話しでした。まだまだできることがありそうです。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした