窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

これだけ身近なのに、知らなかったお米の世界

2024年09月25日 | レビュー(本・映画等)


 海外出張中に、奥歯が欠けていることに気づいた窪田です。帰国したらまた歯医者さんのお世話にならなければなりません。

 さて、行きの機内で芦垣裕さんの『米ビジネス』を読みました。アメリカのビジネスではなく、文字通りお米(ご飯)の話です。読み終わっての感想ですが、日本人の主食といわれ、これほどまでに身近な存在にもかかわらず、ほんのちょっとしたことさえ全く知らなかったのだなという、自身の無知を再認識させられました。

 本書は、僕のような素人でも楽しく読めるように書かれ、まるでお米の博物館を見学しているような気にさせられる、お米に関する豆知識、生活に役立つヒントの宝庫です。まず開くと、小さな字がびっしり。予想以上の充実した内容に驚きました。

1章:米ビジネスの概要
2章:品種について
3章:稲作について
4章:加工について
5章:流通について
6章:小売について
7章:炊き方について
8章:外食とお弁当について
9章:お米のこれからについて

 個人的な見解ですが、大まかに見て、お米は米単体として食べることを前提に「美味しいご飯」を追求した縦方向の発展と、加工の多様化といった横方向の展開があったように思います。前者の美味しいご飯の追求は、淡白な穀物であるお米の繊細な味や香りに深く拘る。それと付随して、美味しく炊けるお釜の開発も繊細な方向に深まっていく。結果として、そうしたことが日本の米食文化の特徴となっていくわけですが、そういう姿勢はこれからも失わないで欲しいなと思います。例えば、カレーライスのためのお米のブレンドとか、まったく驚きました。

 本書を通じて初めて知ったことですが、それぞれの品種に大まかな特徴がありつつも、気候、土壌、水、肥料、育て方などによって、違った味わいのお米になってしまう。安定した品質を出すためにお米をブレンドすることもあれば、1農家で個性的なお米を生産することもある。品種によって、合うおかずも異なる。これらのような特徴は、まるでワインやウィスキーのようであり、お茶碗に盛られた、見慣れた白いご飯に、それほどまでの繊細さ、奥深さがあろうとは本当に思いもよらぬことでした。こうしたことを知ると、これからのご飯の見え方が変わってきますし、本書がくれるちょっとしたヒントを頼りに、日々の食事がもっと楽しくなっていくと思います。

 現在、東南アジアにいますが、ここにはまた日本と異なるお米の文化があります。芦垣さんの本を読んだことで、異国のお米文化についても相対的に見えるようになると思いますし、それもまた楽しみです。



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ

2024年08月12日 | レビュー(本・映画等)


 株式会社マインドシーズの丹羽亮介さんが、去る8月9日に著書『マーケティングの大事なところを3時間で学ぶ』を出版されたというので、早速拝読しました。丹羽さんと知り合ったのは15年ほど前、8年前には我々が主催する勉強会(第68回YMS)でも講師としてお話しいただいたのですが、その後シンガポールに拠点を移されたため、時折メルマガを拝読するくらいになっていました。

 同書はオンライン教育プラットフォーム「Udemy」で配信された人気講座『はじめてのマーケティング』(2024年5月現在、受講生総数約9.5万人)を加筆して書籍化したものです。丹羽さんは僕がこれまで出会った中で屈指の切れ者ですが、タイトルが示す通り、僕のような初学者にも分かりやすく、かつ簡潔にまとめられているので、一気に読み終えることができました。古典的なものから今日的なものまで事例も豊富なので、恐らく読者はそれぞれのマーケティング・フレームワークに自らの体験当てはめながら、理解を深めることができるのではないでしょうか?また、豊富な事例を読むことで、周囲のビジネスの見え方が変わるかもしれません。専門ではないが、マーケティングの概要を掴みたいビジネスマン、経営学部などでこれから勉強を始める学生さんなどにお勧めです。事例が豊富なので、単純に読み物としても楽しいですが。

 同書は、「顧客の視点に立って継続的に行う企業活動すべて」という、マーケティングの定義における「顧客の視点に立つ」ことの重要性を強調し、まずそのために1章を割き、一貫してその立場から2章以降の議論を展開していきます。これは現実の私たちが、分かっていてもつい「顧客視点という名の自分視点」に陥りがちだからであり、せっかくマーケティングを学んでも、錯覚の顧客視点のために似て非なるもの、成果の上がらない結果なってしまうことが往々にしてあるためだと思います。それゆえ、同書ではその「似て非なるもの」になってしまった失敗事例も随所に散りばめられ、読者が「顧客視点」という原則に立ち返ることを助けてくれます。このように、入門書でありながら楽しく読め、かつ実用性も兼ね備えた一冊と言えるでしょう。



 因みに、購入者特典として、価格戦略への理解を深めるための補足資料がダウンロードできます。

 個人的には、「交渉相手(顧客)の立場の背後にある利害関心を明らかにし、それに見合った価値を創造する」という点において、交渉理論とマーケティング理論は重なり合う部分が多いと感じました。むしろ、利害関心を明らかにする、価値を創造するという点においては、マーケティング理論の方がより長い歴史の蓄積があり、これらのフレームワークは大いに参考になると思います。



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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論語営業のすすめ

2021年12月16日 | レビュー(本・映画等)


 一気に読み終えました。『論語』や『孫子』などの古典を現代ビジネスの観点から解釈、解説した本は数多くありますが、ともすると断片的になりがちな印象を持っていました。しかし、本書は著者の価値観と経験に基づき、営業に対する考え方から実践、そして同じ価値観を共有する他の経営者の事例へと、「論語営業」という一つの体系の中に、主として『論語』と『伝習録』からの言葉を織り込んでいます。それが、すらすらと読み通すことのできた要因かもしれません。『伝習録』は、「知行合一」、「事上磨錬」など、孔孟をはじめとする「聖賢」の教えを自分で咀嚼し、実践することを説いた書と言えますから、『論語』を実践的に解釈する上で必然的に伴うものであったでしょう。

 論語営業の基本は「お役立ち」であると言い、他者との相互作用を通じて、学び内省することで自分を成長させ、自他の幸福に貢献する。これは非常に共感できる部分でした。このスパイラルによって、自分の世界までもが広がっていきます。「列伝」として設けられた他の経営者の事例集は、まさに著者が「論語営業」を実践し続けてきた精華なのだろうと思います。また、欄外にイラストで登場するネコや達磨が、様々な役立つツールや推薦図書などを紹介しており、本書自体が「お役立ち」の書として構成されているのも著者の想いが反映された一冊になっていると思います。

 営業とは人間の相互作用そのものですから、古典が読み手によってさまざまな解釈を許容するように、本書は営業職に携わっていない人にも役立つと思います。その意味では、本書は営業という仕事を通じた著者による『論語』と言えるかもしれません。

 個人的に、一度手にした本で繰り返し読むものはそう多くありません。しかし、本書は何度も実践し戻ってきたい思いに駆られます。それは本書を読んで得心するところが多かったばかりでなく、励まされるような感覚を得られたからです。内省するに、励まされた箇所が今の自分の弱い部分なのだろうと思いました。

 知行合一、事上磨錬の一冊です。



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企業永続の法則-地域と結びついた企業は潰れない!

2019年05月24日 | レビュー(本・映画等)


  大学の大先輩であり、YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)発足のきっかけとなった「みなとみらい次世代経営者スクール」を主催した横浜市企業経営支援財団(IDEC)では常務理事を務められ、弊社が日本初の資源リサイクル団地となる(協)横浜市資源再生卸センターとして、横浜市金沢区福浦に金沢工場(現エコムナ・横浜工場)を開設した折には、金沢工業団地への工場移転に携わっておられた、何かとご縁の深い吉田正博さんがこの度『企業永続の法則』を上梓されました。
 
  吉田さんは、40年にわたり横浜市の中小企業支援事業に携わってこられました。第101回YMSで南学先生のお話にもありましたが、長く米軍に市中心部を接収され、高度成長の波に乗り遅れた横浜がいかにして今日の姿へと変貌を遂げていったのか?本書には、70年代後半以降の横浜の街づくりの苦労が、吉田さんの経験も踏まえ生々しく語られています。1973年生まれ、同時代を横浜市で過ごした僕にとって、まさに身近にあった出来事ばかりであり、大変興味深く拝読しました。マスコミや市民から評価されることの滅多にない地方行政の仕事にあって、吉田さんのような行政マンの地域に対する確固たる信念と情熱、細郷道一元横浜市長や高木文雄元みなとみらい21社長のような度量の大きなリーダーに支えられ、今日の横浜があるのだということを強く感じました。詳細についてはぜひ同書をお読みください。

  さて、吉田さんが長年のご経験から導き出し、同書の中で述べておられるのは、日本企業の99.7%、全従業員数の70.1%を雇用する中小企業は、大企業を中心に構築された主流の経営学とは一線を画した中小企業の経営学を持つべきだということです。とりわけ、グローバル化した中小企業ではなくローカルな中小企業に対してです。この点については、中小企業事業者の生まれであるということも関係しているかもしれませんが、僕自身、学生のころから考えてきたことでもありました。即ち、経営の文化的多元性を認めず、株主利益の最大化を企業の普遍的目的とする主流の経営学に対して、日本企業(特に中小企業)には、この国が伝統的に培ってきた、保持すべき経営の在り方があるのではないかということです。

  では、吉田さんが同書で述べておられる中小企業経営の在り方とは何か?それが本の題にもなっている「永続企業」を指向するということです。永続企業とは以下を目的とする持つ企業を指しています。

1.ステークホルダー(社員、地域、環境、将来世代)の幸福に寄与すること
2.人材、人財を超え、人の存在そのもの「人在」に価値を見出すこと
3.短期的利益、事業拡大、所有者の繁栄より企業の継続に価値を置くこと

  これらを見ると、基本は江戸時代の昔から受け継がれている商人道徳にあることが分かります。特に永続企業を永続企業たらしめる3ですが、日本では鎌倉時代から主君が無能である場合、家臣が合議して主君を軟禁し家を守る「押込」と呼ばれる伝統が武家社会にありました。この伝統は特に幕藩体制において顕著であり、それが町人にも規範として波及したものと思われます。これは世界の中で100年を超える長寿企業が突出して日本に多いことの大きな要因となっていると思います。

  全企業数の99%を占める中小企業が長く継続することにより、地域経済や雇用を守り、地域を維持する。それがひいては国の繁栄を維持することにつながる。それを支援するのは施策が大企業中心に傾いている国ではなく、地方行政の役割であると吉田さんは述べておられます。永続企業を育てるには、創業から20年頃までの創業段階、50年頃までの地域貢献企業段階、100年頃までの永続的成長企業段階、100年以上の永続企業段階、各段階に応じ行政、公益財団、民間が三位一体となったサポート体制が必要であるとのことです。

  2は「企業は人を幸せにする存在である」という考え方です。本書で紹介されている前野隆司氏は、人の長期的な幸福と関連する以下の4つの因子があると述べておられます。

1.やってみよう因子:自己実現と成長
2.ありがとう因子:つながりと感謝
3.なんとかなる因子:前向きと楽観
4.ありのままに因子:独立と自分らしさ

  これらは僕自身が自分の中で「成幸論」と名付けて理解していたことと一致しています。上の永続企業の3つの条件は、この4つの因子を種として満たされていくものと個人的には理解しました。究極的には、自分の「あり方」に集約されるのかなと感じた次第です。それこそ永続的視点と意志がなければ到底たどり着くことはできない壮大な課題を示していただいた気がします。

企業永続の法則 地域と結びついた企業は潰れない!
吉田 正博
幻冬舎


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交渉学のススメ

2017年08月24日 | レビュー(本・映画等)


  先週末の日曜日は久し振りに時間を空け、NPO法人日本交渉協会からこの度出版された『交渉学のススメ』を読みました。本書は交渉行動における個々のテクニックを扱った本ではなく、あくまで交渉を学問として捉え、その応用までの概要を述べた内容となっています。読了することで、交渉学とは何か、それはどのように進化し現実世界の場で応用されているのかを掴むことができます。交渉学への入口として、また交渉学を学んだ方でも知識の整理として役立つ一冊かと思います。

  第1章は、日本における交渉学の誕生について。日本に交渉学を紹介したのは、国際基督教大学教授の藤田忠先生です。藤田先生はアメリカにおける交渉学の黎明期である1973年にハーバード大学で交渉学を学ばれました。帰国後、後に日本での交渉学の普及を目的として日本交渉協会を設立されています。

  藤田先生、日本交渉協会が目指す交渉のあり方。それを一言で表すとすれば、「燮(やわらぎ)の交渉」という事ができます。藤田先生はこの「燮」という文字を「人と人とが言葉を介して対立を解決する姿」と捉えています。そしてそれは単なる解決ではなく、文字通り「やわらぎ(調和)」の解決です。これを交渉学では、決まった大きさのパイの取り分を奪い合う「分配型交渉」に対比して、「統合型交渉」と呼んでいます。

  また、この「燮の交渉」のロールモデルが、藤田先生がハーバード大学で出会った、エドウィン・O・ライシャワー元駐日大使です。ライシャワー博士は占領時代の色が濃く残る1961年に駐日大使として赴任。「イコール・パートナーシップ(対等な日米関係)」を掲げ、日米関係の改善と強化に尽力されました。1972年の沖縄返還も博士の努力が大きく影響したとされていますが、『ライシャワー自伝』を読んで分かることは、博士が日米間の表面的な諸問題に対処するために、その背後にある当事者の思想、文化、メンタルモデルにまで踏み込んで理解されようとしていたことです。まさに後述する「価値創造型」交渉を実践されていた方と言えるでしょう。

ライシャワー自伝
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文藝春秋


  第2章は、交渉学の系譜。交渉学の源流は1920年代、メアリー・パーカー・フォレットのコンフリクト論に遡るそうです。やがて1930年代以降、労使交渉論が盛んになり、1965年の『労使交渉の行動理論』で共著者のリチャード・E・ウォルトンとロバート・B・マッカーシーは、交渉を「分散交渉」・「統合交渉」・「態度形成」・「内部交渉」の4つの角度から分析しています。1980年代に入ると意思決定論の一部としての交渉学に心理学の知見が加わり、実践的な交渉行動の研究が進みました。有名なロジャー・フィッシャーとウィリアム・ユーリーによる『ハーバード流交渉術』もこの頃に出されました。そして東西冷戦が終わり、グローバル化が進んだ1990年代以降、異文化間交渉研究が盛んとなり、現在に至っています。

ハーバード流交渉術 (知的生きかた文庫)
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三笠書房


  第3章と第4章は、交渉学原論の必要性と交渉学の基礎について。しばしば理論と現実の交渉行動の乖離が指摘され、「理論は役に立たない」という向きもありますが、本書では社会が複雑化する現代こそ交渉行動を個々のテクニックではなく、全体としての知的体系として理解しておく必要があると述べています。この知的体系として交渉学原論があります。第4章はその基礎について紹介していますが、ご興味がおありの方は日本交渉協会が認定する民間資格「交渉アナリスト」の2級講座でより深く学ぶことができます。

  第5章は、交渉の進化モデルについて。交渉学を学ぶ目的は、万能な解を求めることではなく、千差万別な状況に応じて最適解を自ら導き出す力を養うことだと述べています。本章では、交渉を「奪い合い型」・「価値交換型」・「価値創造型」の三段階に区分しています。第一段階の「奪い合い型」は前述の「分配型交渉」のことです。第二段階の「価値交換型」は、双方の価値認識の差を利用し、お互いにとって有益な合意を形成する段階です。スチュアート・ダイアモンド博士が『ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術』で述べている「不等価交換」がこれに当たると思います。

  第三段階の「価値創造型」は双方の共通目的から問題解決に向け、新たな解決策を創造する段階です。この「共通目的」については、後出のコンフリクト・マネジメントを図式化した「文化の島とダイバーの図」(p.247)が非常に分かりやすかったです。真の共通目的はしばしば表面的には見えません。これを明らかにするためには、コミュニケーションを通じた情報交換によって双方の背後にある「世界観(メンタルモデル)」に辿りつき、これを言語化する必要があります。それは文化や価値観の差異を超えた、集合的無意識のレベルで共有された目的です。詰まる所、交渉の進化とはコミュニケーション・レベルの進化(と深化)であると言えるかもしれません。

  ピーター・センゲ博士は、『最強組織の法則』の中で物事をシステムとして捉える「システム思考」を図式化した「氷山モデル」の中で、「出来事」・「時系列パターン」・「構造」の基底にやはり「メンタルモデル」を置いています。共通目的を明らかにし、新たな価値を創造プロセスとしては、オットー・シャーマー博士の「U理論」が参考になります。

ウォートン流 人生のすべてにおいてもっとトクをする新しい交渉術
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集英社


最強組織の法則―新時代のチームワークとは何か
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徳間書店


U理論――過去や偏見にとらわれず、本当に必要な「変化」を生み出す技術
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英治出版


  ただ注意しなければならいのは、交渉の段階が進化したから「奪い合い型」が無くなるわけでも、「奪い合い型」交渉を否定しているわけでもないという事です。有史以来、今日に至るまで人類文明から分配型交渉が消えたことはありません。これも交渉の一段階として厳として存在(むしろ主流)することを受け入れた上で、その理論を理解しておくことが交渉力を養う上で必要になります。

  さて、その後は各方面の交渉の専門家による交渉学の実践と応用事例が紹介されています。鈴木有香先生による「コンフリクト・マネジメント」、鄭偉先生による「グローバルマインドと異文化コミュニケーション」、昨年「交渉学特別セミナー」でご講演いただいたアラン・ランプルゥ先生とミシェル・ペカー先生による「会議を交渉する」。どれも今こそ「統合型交渉」が求められていることが分かる興味深い内容となっています。

  豊富な参考文献も、交渉学に興味を持たれた方には役立つのではないかと思います。

交渉学ノススメ
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生産性出版


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プロ野球の男たち-野村克也の目

2015年09月29日 | レビュー(本・映画等)


  同書は、昭和56年(1981年)2月20日から12月25日にかけて『週刊朝日』に連載された野村克也氏のコラムをまとめたものです。

  先日、友人が小学生の頃に買ってもらったという同書を紹介してくれ、少し読ませてもらったところ、非常に面白かったので早速買い求めた次第。昭和57年の発売で既に絶版していますが、最近はネットで簡単に古本を購入できるのが良いですね。本当に便利な世の中になったものだと思います。

  昭和56年当時、僕は8歳だったので野球の細かいことは分かりませんでしたが、登場する選手はほぼ記憶に残っている人達ばかり。それだけに少年のそれとして残っている記憶と大人視点での同書をつき合わせることで、より一層興味深く読めたという面もあるかもしれません。一気に読了してしまいました。

  同書の良い点は連載なので昭和56年のプロ野球シーズンと平行しながら書き進められているという所です。勿論昔話もあるのですが、結果論ではなくリアルタイムでの氏の考えが反映されている点が他の著書とは一線を画すのではないでしょうか。選手として27年間、輝かしい実績を持ち、監督経験もあった野村氏ですが、連載当時は評論家としてデビューしたばかりの時です。それにもかかわらず、理路整然とした文章と氏の慧眼には本当に驚かされました。ここでは特に印象に残ったことを思いつくままにご紹介したいと思います(以下、登場する選手の敬称略)。

プロ野球の男たち―野村克也の目 (1982年)
クリエーター情報なし
朝日新聞社


  後に「野村スコープ」として有名になる配球図。これが同書にはしばしば登場し、前年セ・リーグ新人王である原(現巨人監督)の攻略法やこの年の日本シリーズ(巨人vs日本ハム)における投手陣の解説がなされています。

  木田勇。前年に新人でありながら投手のタイトルを総なめにした投手。僕自身、木田の記憶は大洋に移籍して以降しかなく、1イニング4被本塁打やら広島戦での先頭打者からの三連続本塁打(高橋・正田・ロードン)など良い思い出がないので、昭和55年の木田がいかに凄かったか、10年後にやはり新人ながらタイトルを総なめにした野茂英雄投手と比べてみます(かっこ内が野茂の記録)。

・最多勝…22勝(18勝)
・最優秀防御率…2.28(2.91)
・最高勝率…0.733(0.692)
・最多奪三振…225(287)

  しかし、野村氏は2年目のシーズン5勝1敗(防御率2.70)で来ていた木田に対する不安要素を挙げています。実際、この年の木田は10勝10敗、そして3年目以降は上記の如くほとんど活躍できませんでした。

  金村義明。この年の夏の甲子園を制した報徳学園のエース。プロ入り前でありながら、既に野村氏は金村を「投手より野手が向いている」と看破しています。事実、金村はプロ入り後野手に転向、後の近鉄「いてまえ打線」の一翼を担いました。

  最終回は広岡達郎氏との対談。昭和57年のシーズンから西武の指揮を執ることになった広岡氏の前年12月末時点におけるチーム状況の把握力、若手の能力を見抜く眼力は一読の価値ありです。来シーズンの順位予想で、野村氏は巨人を優勝候補筆頭、対抗馬を広島としながらも、この年5位に沈んだ中日に注目しています。一方、監督となる広岡氏も「日本シリーズに向け投手陣にバント練習をさせる」と就任1年目での優勝宣言。実際、昭和57年は中日と西武が優勝しました。

  当時から「管理野球」と揶揄された広岡氏のスタイルですが、その「管理野球」が当時の西武には不可欠だったということも同書を読めば分かります。また、現在12球団中3球団の監督が当時の西武で薫陶を受けた選手(伊東・工藤・田辺。因みに元監督も含めれば、秋山・石毛)であることも注目されます。

  余談ですが、対談の中で「最下位は決まっている」と言われた横浜大洋は5位でした。この年は最終戦の中日vs大洋で中日が勝てば中日優勝、大洋が勝てば巨人優勝という展開でした。さらにこの試合には中日谷沢と大洋長崎との間で首位打者が懸かっており、谷沢が5連続敬遠でタイトルを逃すなど、思い出に残るシーズンでした。同書の中で「たとえていえば病人」とまで書かれた当時の大洋については村瀬秀信氏の『4522敗の記憶』に詳しいです。

4522敗の記憶 ホエールズ&ベイスターズ 涙の球団史
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双葉社


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ファインディング・ジョー-英雄の旅

2013年02月07日 | レビュー(本・映画等)
  「ファインディング・ジョー」というドキュメンタリー映画の上映会に行ってきました。この映画は、比較神話学の第一人者、ジョセフ・キャンベルが「ヒーローズ・ジャーニー(英雄の旅)」として概念化した、世界中の神話に共通する自己変容のプロセスをテーマに、「自分らしい人生を生きる」ことや、「本当の自分が生きたい人生を生きることの喜びや素晴らしさ」について気づきを与えてくれる内容となっています。

  現在DVDは英語版しか出ていませんが、各地で日本語字幕つきの自主上映会が開催されているようですので、詳しくは公式ホームページをご覧ください。

  さて、ヒーローズ・ジャーニーは大きく以下の3つのプロセスから成ります。

1.旅立ち(別離)

  守られた日常(社会の常識やルールに守られ、本来の自分が覆い隠された状態)から抜け出し、冒険へと旅立つ段階です。

2.試練(通過儀礼)

  数々の困難や試練を乗り越え、最後に最大の難敵であるドラゴンと戦い、勝利します。

3.帰還

  英雄の旅はドラゴンを倒しただけでは終わりません。元いた場所へと帰り、人々に冒険談を伝えます。これによって英雄は成長を遂げ、変容します。

  振り返れば、僕にとってのヒーローズ・ジャーニーだったかもしれないと思えることが十代から二十代にかけてありました。家と学校の往復以外の思い出がない、無気力だった十代から二十代になり(別離)、20歳から26歳までの7年間、自己否定の悪循環にもがいていました(通過儀礼)。そして、認めたくなかった自分、克服しようとしていた嫌な部分(ドラゴン)を受け入れられるようになった時、ドラゴンは消滅し、その投影であったところの外部環境は全く別の方向へと変貌したのです。その経験を持ち帰り、日常生活に活かした結果が今日の僕を形作っているのかもしれません(帰還)。

  大ヒットした映画や名スピーチと呼ばれるものは、つぶさに分析してみると大抵上の3つのプロセスを踏襲しているそうです。それは、自己の内的な変化と成長こそ、人間が意識的・、無意識的を問わず希求するものであり、故にそのプロセスに沿ったストーリーに惹かれるからではないでしょうか。

Finding Joe
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Beyond Words Publishing Inc


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ペイ・フォワード

2013年01月27日 | レビュー(本・映画等)
  先日、「徳育セミナー」という講演で、建長寺宗務総長、高田正俊さんのご講演を拝聴する機会がありました。その中で、こんなお話がありました。

  ある時、高田さんがたまたま乗ったタクシーで運転手と会話になりました。その運転手さんは多分相手がお坊さんと言うこともあったのでしょう、「子供の頃可愛がってくれた祖父が認知症になってしまった。今こうして大人になり、やっと恩返しができると思ったのに、自分のことが分からない状態ではそれも叶わない」と苦しい胸の内を明かされたそうです。

  その後、会話のやり取りが続き、運転手さんが最終的に辿り着いた結論は、「祖父に対する感謝を祖父の代わりに周りの人に返そう」ということだったそうです。

  このお話を伺って思い出したのが、「ペイ・フォワード」という映画。11歳の主人公トレバーが、社会科の授業で与えられた「世界を変えたいと思ったら、何をする」という課題に対し、「他人から受けた好意をその人に返すのではなく、別の3人の人へ贈っていく」というアイデアを思いつき、実行していきます。様々な障害に悩みながらも事態は思わぬ方向へと進み、やがて多くの人へ影響を与えていきます。

  振り返ってみれば、僕も思い出すことがあります。貧乏学生時代、稽古が終わると先輩が良く食事に連れて行ってくれました。その時先輩から受けた教えが「俺に礼をいう必要はない、感謝の気持ちはこれから入ってくる後輩たちに返してやれ」というものでした。部活動であれ、会社であれ、恐らく多くの方に同じような経験があるのではないでしょうか?

ペイ・フォワード [DVD]
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ワーナー・ホーム・ビデオ


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素晴らしき哉、人生

2012年03月16日 | レビュー(本・映画等)
素晴らしき哉、人生! [DVD]
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ファーストトレーディング


  『The Living Organization』という本にこの映画が採り上げられていたのが切欠で、1946年のアメリカ映画、『素晴らしき哉、人生』のDVDを観ました。アメリカでは『クリスマス・キャロル』、『34丁目の奇跡』と並び、クリスマスに欠かせない映画の一つなのだそうです。

The Living Organization: Transforming Business to Create Extraordinary Results
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Quantum Leaders Publishing


  主人公のジョージ・ベイリーは、幼い頃から心の優しい、人のために尽くす男でした。9歳の時には、氷の張った池に落ちた弟ハリーを助けて左の聴覚を失い、12歳の時にはアルバイトをしていた薬屋で息子を失い動転した主人のガウアー氏が誤って劇薬を処方したのに気づき、未然に事故を防ぎました。高校卒業後、彼は大学に進学し、建築技師になることを夢見ていましたが、父親の急死に伴い、進学を諦め家業のベイリー住宅金融を継ぎ、代わりに弟のハリーを進学させました。彼は父親の遺志を継ぎ、ベイリー・パークという一般庶民でも住宅を持つという夢を適える事ができる低価格の賃貸住宅地を開発しました。また、1929年の大恐慌の際には、取り付け騒ぎで殺到した顧客に手持ちの結婚資金を配り、急場を凌ぐと共に、強欲な富豪ポッターから会社を守りました。

  長年の恋人メアリーと結婚し、4人の子供に恵まれ、豊かではないながらも幸福な生活を送っていたジョージでしたが、ある時不幸が襲います。一緒に働いていた叔父が、会社の資金8,000ドルを紛失、会社は資金繰りに行き詰まり、ジョージは横領の嫌疑をかけられます。

  絶望の淵に立ったジョージは、雪の降るクリスマスの夜、橋の上から身を投げて自殺を図ります。そこへ、まだ翼のもらえない半人前の天使クラレンスが現れ彼に自殺を思いとどまらせようとします。

  しかし、ジョージは「自分など生まれてこなければ良かった、いない方が良かった」というばかりです。見かねたクラレンスは一計を案じ、ジョージに仮に彼が生まれてこなかった場合の世界を見せるのです。そこには驚くべき世界が待っていました。

  弟のハリーは9歳の時、池に落ちて死亡。薬屋の主人ガウアー氏は劇薬を処方し、子供を毒殺した罪で懲役20年となり、出所後廃人同様となっていました。ベイリー住宅金融はとうの昔に倒産、町はすっかりポッターに牛耳られ、歓楽街と化していました。ジョージの住んでいた家は元の廃墟のままで、子供もいません。妻のメアリーは生涯独身で暮らしていました。

  困惑するジョージにクラレンスは言います。「たった一人がいないだけで、世界はこんなにも変わる。一人が多くの人に影響を与えている」。人生の素晴らしさを悟ったジョージは、二度と自分などいなければいいなどと思わないことをクラレンスに誓いました。

  元も世界に戻ったジョージは、生きていることそのものに感謝するようになります。横領の嫌疑で逮捕状を持ってきた警察に対してさえも。そして奇跡が起こります。メアリーからジョージの窮状を聞きつけた町の住民達が、彼のためならと募金を募り、会社を救ったのです。集まった募金の山の中に一冊の本がありました。それはクラレンスが大事に持っていた『トム・ソーヤーの冒険』でした。その表紙裏には、クラレンスからのメッセージでこう書かれていました。

「友ある者は敗残者ではない」

すばらしきかな、人生!
ジミー ホーキンズ
あすなろ書房


  なお、この映画にジョージの息子トミー・ベイリー役で出演していたジミー・ホーキンズは、映画の封切から60年経った2006年、トミーを主人公にした子供向けの『すばらしきかな、人生』を出版しています。この映画が伝える、人が人を支え、かつ支えられて生きている人生の素晴らしさを子供達に伝えるお話となっています。

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国民の教養

2011年09月03日 | レビュー(本・映画等)
  分かりやすさと数値に基づく客観性で定評のある三橋貴明氏の最新作。  

  一般に通念として共有されている情報の歪みを、筆者はこれまでも言葉の明確な定義と数値に基づき多くの著作やブログで正してきましたが、本書はその中でも現在のわが国が直面している諸問題に関して、集大成とも言える内容となっています。

  本書で取り上げられている、誤った通念を目次からざっと列挙しますと、

・日本は財政破綻する
・少子高齢化でデフレになる
・大きな政府は間違っている
・政府の借金は国民を貧乏にする
・日本の治安は悪化している
・日本の公務員は多すぎる
・日本の道路はもう十分だ
・日本の医療制度は最悪だ
・日本の年金制度は崩壊する
・グローバリゼーションは正しい
・多文化主義は世界の潮流である
・自由貿易は関係国を豊かにする
・日本の貿易依存度は大きい
・円高なら為替介入しろ

というようなものです。「20年近くも続くデフレ不況に加え、未曾有の震災被害に直面している現状を何とかしたいとは思っているが、耳に入る情報は絶望的な内容ばかり。八方塞で何をどうしたら良いのか分からない」そんな悩みをお持ちの方にぜひお勧めしたい一冊です。

 さらに本書はそのタイトルである「国民の教養」が示すとおり、経済活動の源泉であるナショナリズムとは何かについてまで踏み込んでいるという点が特徴的です。このナショナルおよびナショナリズムについては前回ご紹介した「国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策」が詳しいのですが、歪められた情報について、それを歪んでいると判断するためには、そう思うための基準を自分の中に作っておく必要があります。この基準を構築するためにやはり、ナショナルやナショナリズムの理解についてまで触れざるを得ないということではないでしょうか。

 逆の見方をすれば、国民国家であれば当然共有されているべき、ナショナルやナショナリズムについての観念が欠落していることにこそ、歪められた情報が通念として流布し、ほとんど疑問を差し挟まれることなく定着しているわが国の根本的な問題があると言えます。

経済と国家がわかる 国民の教養
三橋 貴明
扶桑社


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