1月12日、mass×mass関内フューチャーセンターにて、第133回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。12年目を迎える、2022年最初のYMSです。
今回の講師は、ボクシング第25代日本ライト・フライ級チャンピオンで、現在、神奈川渥美ボクシングジム会長の本田秀伸様。「願望とモチベーションープラス思考の落とし穴」と題してお話しいただきました。
1.選手として
本田さんは宮崎県出身。小学生から中学生までは空手をやり、ボクシングの強豪校日章学園でボクシングを始められました。キャプテンを務められるほどでしたが、本人曰く、「運動が苦手で、足も遅い」とのこと。インターハイではあがり症を克服できず力を発揮できなかったそうです。
卒業後、プロ転向を決意し、大阪のグリーンツダジムへ。後にWBA世界ライト・フライ級王者となる山口圭司選手のパンチが見えず、現実に絶望されたそうですが、とにかく3年はやると決意して精進。3ヶ月後にプロデビューを果たし、この時あがり症を克服したそうです。克服の秘訣は、「負けて一番悔しいのは自分」、「誰も僕に関心なんて持っていない」というマインドセットだったそうですが、逆にそれが限界にもなりました。
2年後、日本ライト・フライ級王座獲得(6度防衛)。この頃、「ディフェンス・マスター」と呼ばれるようになったそうです。本当に運動が苦手だったのでしょうか…。
その後、メキシコ、アメリカなどで修業。ラスベガスでは、あの3階級王者マルコ・アントニオ・バレラのスパーリング・パートナーもされたそうです。
2002年、田中光輝選手との国内最強決定戦に勝利した後、WBCフライ級タイトルマッチに挑戦。当時97戦91勝のチャンピオン、ポンサクレック・ウォンジョンカムに判定負け。
2003年には、WBAスーパー・フライ級タイトルマッチに挑戦。当時23戦23勝23KOのチャンピオン、アレクサンドル・ムニョスに判定負けしますが、ムニョスの連続KO記録をストップさせました。2010年、35歳で引退。
2.指導者として
さて、ここからが今回のテーマである「願望とモチベーションープラス思考の落とし穴」のお話しです。まず、人生を反応的に生きるのか、主体的に生きるのかということですが、人間は「何をするのかを考えられる生き物」、つまりこれから起こると想定されること対してシミュレーション(=段取り)をすることができます。ボクシングにおいてもこの段取りが非常に大切だそうです。
一方、未来のことについて考えられるだけに、人は実際起こってもいないことに対して心配になったり、後悔したりすることもできてしまいます。むしろ、危険に対する防衛機能としてネガティブに考えるようにできているとさえ言っても良いかもしれません。しかし、起こってもいないことに対して心配したり、「どうせだめだ」と結果が出る前から諦めてしまったりすることが人生にマイナスの影響を及ぼしてしまう側面もあります。
このマイナス思考に対置されるのが、プラス思考です。プラス思考とは予祝(前祝いをして現実を引き寄せること)と楽観主義のことですが、ここに落とし穴があります。未来のことについて「どうやったらできる」と考えるのは良いのですが、都合の良いシミュレーション(希望的観測)に偏るという過ちをおかしがちだということです。
いくら都合の良い未来をシミュレーションしても、現実は都合の良いことばかりではありません。そうすると、都合の悪い様々な障害に対する準備ができていないので、いざ試合になるとシミュレーションが全く役に立たないということになってしまいます。本田さんの経験では、先に述べたムニョス戦。この時、ムニョスの癖を見抜き、ことごとく強打を躱すことができたにもかかわらず、「勝つプランしか見ていなかった」そうです。そのため想定した相手の動きしか見えていなかったとのことでした。本当のプラス思考とは、「予祝をエネルギーとして、リスクも含めた仮説検証を繰り返す」ことだと、本田さんはおっしゃっています。
大事なことは、自分でコンロトールできないものに対してまで心配しないこと。また、起きた出来事を変えることはできませんが、それに対する解釈は変えられるということです。プラスに解釈し、コントロールできることに集中します。
とはいえ、コントロールできないものに対しても不安になってしまうのが人間。例えば、23戦23KOの強打の持ち主をどうにかしようと思っても、どうにもなるものではありません。しかし、誰だって殴られたくはないですよね?対処法は「なるようにしかならない」と考えることと、「感謝」することだそうです。感謝は強力なメンタルトレーニング、感謝している時には後悔、心配が小さくなります。対戦相手に感謝できるようになると、相手を必要以上に恐れることなく、等身大に見えるようになるのだそうです。一流選手が感謝を口にするのは、感謝が身についているからこそ一流のレベルに到達できたとも言えそうですね。
そして「感謝」することも練習が必要。日頃身の回りにあることから感謝する癖をつけておかないと、それこそ先に述べたように都合の良い時だけ感謝しようと思っても無理だということです。この身近なことからできる感謝、非常に奥の深いことですが、子供の方がむしろ素直に受け止め、喜ぶのだそうです。
ボクシングという厳しい世界で活躍されてこられた経験談から来るお話しは、当たり前のように思えることにも重みがありました。感謝することと、「いま・ここ・わたし」に集中すること、133回を迎えたYMSもその二点から見つめ直してみたいと思います。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした