2022年2月9日、
mass×mass関内フューチャーセンターにて第134回YMS(
ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。神奈川県の蔓延防止等重点措置により懇親会は中止となりました。
さて、今回から『刑事塾』3回シリーズです。その第1回目は、
ベストブレイン株式会社の堀尚弘様より、「リスク管理の課題とヒント」と題してお話しいただきました。
【これまでのYMS×刑事塾】
第58回YMS「刑事塾:ビジネスで役立つウソや人間心理の見抜き方」
第94回YMS「元刑事が教えるウソ〔人間心理〕の見抜き方〜実践編 人狼ゲームで見抜く〜」
第126回YMS「サイバー犯罪担当元刑事が教える「SNS調査術」~ネット情報を駆使して人や会社の本質を見抜く」
堀さんは警視庁に入られ、長く公安部におられました。少なくとも我々の世代であれば誰もが知る大型経済事件やテロ事件に関わってこられました。退官後起業され20年になるそうです。
我々企業人の身近に潜む様々なリスクの中で、今回は以下の点についてお話しいただきました。
1.社員・職場関係のリスク
2.業務・取引関係のリスク
3.両者に重なるリスク
生々しい事例が数多く登場しましたが、ここに書くこともできませんので以下ではお話しの要点をまとめたいと思います。
1.社員・職場関係のリスクについて
業務以外の個人飛行についての教訓(ある有名企業幹部の事例)。
本人の証言に合理性はあるのか?
誰が第三者的に判断するのか(本人の一方的証言のみで判断してよいのか)
「性弱説」(注)を持って見直す必要
注:人は基本的に悪いことを積極的にしようと考えているわけではないが、非常に脆く弱い存在であり、状況や環境によっては悪いことをしてしまう(つまり魔が差すこともある)ものであるという認識のこと。
被害者の泣き寝入りがあってはならない、会社の問題として捉えなければ大きなリスクに発展する可能性がある。
加害者の「覚えていない」は通用しない(実際、裁判所は被害者の証言をもって有罪判決を下しました)
2.業務・取引関係のリスクについて
【社内】
通報制度は密告とは違う、社員を守る行為である
社内コミュニケーション(特に上司と部下の)委縮の解消
→部下に「相談しても大丈夫」と感じさせる「3つの一言」(良い所の気づき、存在を感じさせる、失敗しても頭ごなしに怒鳴らない)
相談、ヒアリングのスキルを上げる(上手な相談は拡散する。また、不正を正当化する行為に対する牽制にもなるなど、複数の効果が期待される)
ヒアリングは取り調べではない。難しく考える必要がないが、思い込みに注意。
世間話→確認・査定→締めのプロセスを辿る。各段階で相手の反応を観察、裏にある感情を探る
会社が変わるという期待感が醸成された段階で、「兆候アンケート」を実施(リスク管理に取り組んだポジティブな成果として、社員の定着率が上がったということがあった)。
【社外】
増加する悪質クレーム、カスタマーハラスメント、炎上
本社総務の警察OBが顧客を反社と決めつけたことが火に油を注ぎ、大事件に発展したことがあった
※「反社」の定義は曖昧
指定暴力団・・・法令で認定要件が具体的に決まっている
非指定暴力団・・・法令で認定要件
反社会的勢力・・・・法令で決まっていない
過剰な特別扱いしない、異常な相手の理解や共感を求めない
→ただし、本当に悪質なクレーマーは稀なケース
公平・公正な手続きを踏む
無理難題が通じないことを気づかせる
大切なのは道義的謝罪(「謝ってはいけない」というのは誤り)→事実・要求の確認(挙証責任(注)を意識)→締め括り(氏名、連絡先の確認)
注:訴訟上、ある事実の存否が確定されない場合、そのことによって一方の当事者が受ける不利益な負担のこと。民事訴訟では事項により原告と被告とに分配され、刑事訴訟では原則として検察官が負う。証明責任、立証責任ともいう。
対応を中断する基準を定めておく。場合によっては警察を呼んでも良い
悪人はアイコンタクトが優れている 同調と豹変で相手を疲弊させる
【ケーススタディ】
※以下のようなケースへの対応
「誠意を見せろ!」
「以前は良かった、差別か?」
「分かったんだな?」
「土下座しろ!」
※逆に言ってはいけないこと
炎上ワード:差別、政治、衛生に関するもの
地雷ワード:誤解を招いたとしたら 「~としたら…」
知識不足がトラブルに発展することもある、早めにアドバイザーに相談することも必要。
3.両者に重なるリスクについて(リスク管理のポイント)
違和感の有無をチェックする
登記、名刺、話し方 客観性のある違和感に要注意
アドバイザーは必要
企業防衛指針の3つのレベル(すぐやめろ 注意しろ 経過観察しろ)
普段どう予防するか(リスクオタクのマニュアルは役に立たない)
最悪事態(注)にいかにダメージを最小化するか、収束時、どう信用回復に努めるかを考える
4つの責任を意識
予見(想定)
回避(対処)
説明(記録)
社会的責任(法的責任とは違う)
2つの成果(効率性とポジティブ/ネガティブな効果)の効率的な獲得を目指す
誹謗中傷はスルーが一番
相手担当者に問題がある場合、その上司との関係を作る
注:起きてはならない事態にあってはならない原因が指摘される事態のこと。
日頃中小企業に身を置いていると、「そんなことが本当にあるのか?」と思うような驚くべきことが日常で現実に起きていることに気づかされます。ただ、事例の根底にある様々な要素に目を向けると、決して我々も無関係なことではないと思いました。
過去のセミナーレポートはこちら。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした