2018年3月24日、日本交渉協会の燮会に参加してきました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。今回は、燮会でも度々ご講演いただいている、1級会員の末永正司さんより、「『交渉テーブルの向こう側』~ 苦悩する購買担当者たち ~」と題してお話しいただきました。
【参考:過去の末永さんの回】
第8回燮会:分配型交渉における定跡と統合型交渉への移行について-交渉テーブルの向こう側-
第11回燮会:剣豪に学ぶ交渉
第18回燮会:駆け引きと交渉について
第24回燮会:ロールプレイング・ゲームの研究
第33回燮会:交渉における親密度について~物理的距離と心理的距離~
交渉という観点から見ますと、売り手である「営業」から見て、買い手である「購買」は強いポジションにあるように思われます。しかし、購買担当者として、また営業経験も豊富で両方の立場の視点をお持ちの末永さんのお話を伺いますと、必ずしも「交渉において有利な立場にいる」とばかりは言えないようです。
というのも、購買は「モノを調達する」という仕事柄、社内における様々な部署の間に挟まれているためです。それでいて、そのために発生する膨大な社内交渉は、外からはなかなか見えません。一見強い立場にいるように見える購買も、実は様々な事情を抱えているということのようです。
交渉は「テーブル」にいる相手とだけ行われるわけではありません。購買に限らず、組織交渉においては、大抵の場合、「テーブルの向こう側(背後)」、つまり内部交渉が存在します。ある研究によれば、交渉担当者はむしろ内部交渉の方により多くのエネルギーを割かなければならないと言われている程です。当然のことですが、内部交渉におけるコンフリクトが少なく、交渉当事者が一枚岩であるほど、外部交渉においてより良い成果が生まれやすくなります。しかし、ハーバード大学における交渉学のパイオニアの一人でもある、故ハワード・ライファ先生がMBAの学生を対象に行った実験によると、大抵のチームがその重要性を認識していたにも関わらず、内部交渉の調整に失敗したそうです。言うは易し行うは難し、ということのようですね。
「購買」に話を戻しますと、購買担当者が内部交渉を行わなければならないステークホルダーには、営業、製造、上司、部下などが考えられます。前述のように内部交渉が難しいのは、様々な部署の事情や思惑が絡み、有形無形の利益の奪い合い、つまり分配型交渉が展開されるためです。それぞれの当事者がそれぞれの仕事の実績で評価されるという組織の性格が、分配型交渉を展開せざるを得ない誘因ともなっているでしょう。この傾向は組織が大きくなるほどより強まり、複雑化すると思われます。
もちろん、このような内部事情は相手の交渉当事者も抱えている可能性があり、お互いの内部交渉の結果が、外部交渉にも影響を与えることになります。これは交渉を難しくする大きな要因の一つです。では、そのような事情の中で、統合型交渉へと発展する余地はないのでしょうか?お話の中では、全く絶望的ということでもなさそうです。統合型交渉に向けて、内部交渉においても外部交渉についても共通するのは、キーマンを把握することと、相手の事情を深く理解することの二つがカギになるようです。容易ではないでしょうが、双方の担当者が抱えている様々な制約を理解することにより、そこから新たな価値を創造する糸口が見いだせる可能性があります。新たな価値を創造し、お互いにとってより望ましい合意に至るための注意点としては、法的な問題など外部の制約にも注意を払う必要があるといったことが挙げられていました。
以上が、末永さんによる第一部です。
さて、今回から第二部として「交渉理論研究」のパートを担当させていただくことになりました。交渉アナリストの勉強会ですので、「交渉分析」(Negotiation analysis)について、毎回様々なトピックを取り上げながら皆さんと議論していきたいと思っております。初回となる今回は、「交渉分析とは何か?」と題して、交渉アナリストの由来となった書、”Negotiation Analysis”の概要と、著者である故ハワード・ライファ先生の功績についてお話しさせていただきました。なお、今回の内容は3月・5月・7月の「交渉アナリスト・ニュースレター」にてご紹介して参りますので、どうぞそちらもご覧ください。
交渉アナリスト・ニュースレターはこちら
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繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした