窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

第36回燮(やわらぎ)会に参加しました

2018年03月26日 | 交渉アナリスト関係


  2018年3月24日、日本交渉協会の燮会に参加してきました。燮会は交渉アナリスト1級会員のための交渉勉強会です。今回は、燮会でも度々ご講演いただいている、1級会員の末永正司さんより、「『交渉テーブルの向こう側』~ 苦悩する購買担当者たち ~」と題してお話しいただきました。



【参考:過去の末永さんの回】
第8回燮会:分配型交渉における定跡と統合型交渉への移行について-交渉テーブルの向こう側-
第11回燮会:剣豪に学ぶ交渉
第18回燮会:駆け引きと交渉について
第24回燮会:ロールプレイング・ゲームの研究
第33回燮会:交渉における親密度について~物理的距離と心理的距離~

  交渉という観点から見ますと、売り手である「営業」から見て、買い手である「購買」は強いポジションにあるように思われます。しかし、購買担当者として、また営業経験も豊富で両方の立場の視点をお持ちの末永さんのお話を伺いますと、必ずしも「交渉において有利な立場にいる」とばかりは言えないようです。

  というのも、購買は「モノを調達する」という仕事柄、社内における様々な部署の間に挟まれているためです。それでいて、そのために発生する膨大な社内交渉は、外からはなかなか見えません。一見強い立場にいるように見える購買も、実は様々な事情を抱えているということのようです。

  交渉は「テーブル」にいる相手とだけ行われるわけではありません。購買に限らず、組織交渉においては、大抵の場合、「テーブルの向こう側(背後)」、つまり内部交渉が存在します。ある研究によれば、交渉担当者はむしろ内部交渉の方により多くのエネルギーを割かなければならないと言われている程です。当然のことですが、内部交渉におけるコンフリクトが少なく、交渉当事者が一枚岩であるほど、外部交渉においてより良い成果が生まれやすくなります。しかし、ハーバード大学における交渉学のパイオニアの一人でもある、故ハワード・ライファ先生がMBAの学生を対象に行った実験によると、大抵のチームがその重要性を認識していたにも関わらず、内部交渉の調整に失敗したそうです。言うは易し行うは難し、ということのようですね。

  「購買」に話を戻しますと、購買担当者が内部交渉を行わなければならないステークホルダーには、営業、製造、上司、部下などが考えられます。前述のように内部交渉が難しいのは、様々な部署の事情や思惑が絡み、有形無形の利益の奪い合い、つまり分配型交渉が展開されるためです。それぞれの当事者がそれぞれの仕事の実績で評価されるという組織の性格が、分配型交渉を展開せざるを得ない誘因ともなっているでしょう。この傾向は組織が大きくなるほどより強まり、複雑化すると思われます。

  もちろん、このような内部事情は相手の交渉当事者も抱えている可能性があり、お互いの内部交渉の結果が、外部交渉にも影響を与えることになります。これは交渉を難しくする大きな要因の一つです。では、そのような事情の中で、統合型交渉へと発展する余地はないのでしょうか?お話の中では、全く絶望的ということでもなさそうです。統合型交渉に向けて、内部交渉においても外部交渉についても共通するのは、キーマンを把握することと、相手の事情を深く理解することの二つがカギになるようです。容易ではないでしょうが、双方の担当者が抱えている様々な制約を理解することにより、そこから新たな価値を創造する糸口が見いだせる可能性があります。新たな価値を創造し、お互いにとってより望ましい合意に至るための注意点としては、法的な問題など外部の制約にも注意を払う必要があるといったことが挙げられていました。

  以上が、末永さんによる第一部です。



  さて、今回から第二部として「交渉理論研究」のパートを担当させていただくことになりました。交渉アナリストの勉強会ですので、「交渉分析」(Negotiation analysis)について、毎回様々なトピックを取り上げながら皆さんと議論していきたいと思っております。初回となる今回は、「交渉分析とは何か?」と題して、交渉アナリストの由来となった書、”Negotiation Analysis”の概要と、著者である故ハワード・ライファ先生の功績についてお話しさせていただきました。なお、今回の内容は3月・5月・7月の「交渉アナリスト・ニュースレター」にてご紹介して参りますので、どうぞそちらもご覧ください。

交渉アナリスト・ニュースレターはこちら

Negotiation Analysis: The Science and Art of Collaborative Decision Making
クリエーター情報なし
Belknap Press


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日本酒を学び、日本酒から学ぶー第93回YMS

2018年03月15日 | YMS情報


  伝統とは何だろう。文化とは何だろう。我々が「これが文化だ」、「これが伝統だ」と信じているものの中には、まことしやかな通説・俗説があり、それを無批判に信じながら漠然と捉えているものが意外と多いのではないか?

  例年にも増して厳しかった冬もようやく終わりが見え、そうかと思うと早くも桜の開花の声が聞かれる季節となりました。そんな中、居酒屋花まるにて第93回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。YMSとしては毎年8月に行っているワインセミナーに加え、ちょうど1年前の焼酎セミナー(第81回YMS)以来となる、日本酒セミナー。講師ポッツ・ジャスティン様、「正解のない時代に、日本酒が教えてくれること」と題してお話いただきました。



  発酵からお酒へと関心が発展し、冬場は外房の木戸泉酒蔵にて蔵人も務めるジャスティンさん。日本酒を通じた様々な地域おこしやイタリアなど海外への日本酒紹介等、幅広く活躍しておられます。今回テイスティング(?)を行ったお酒は9種類。早速、ご紹介していきましょう(尚、味や香りについては僕個人の感想です)。



  最初は、奈良県・梅乃宿酒造の「月うさぎナチュラル」。まずはブラインドでテイスティングしました。青いボトルの首で何となく予想はしていたのですが、注ぐなりシュワシュワと発泡する白濁したお酒。甘い乳酸飲料そのものといった色と香りと味わい。日本酒なのにお米感やアルコールを感じません(度数6%)。日本酒離れに歯止めがかからない中、こうした甘口の発泡日本酒は最近のトレンドのようです。食前酒として良さそうですね。



  続いて、こちらも奈良・大倉本家の「金鼓濁酒生酒29BY」。その名の通り、濁り酒ですが、注ぐ口が詰まってしまうほどの大量のお米が注ぎ出る様は、お酒というよりお粥。飲むというよりは「食べる」といった方が良いかもしれません。というのも、もろみを濾さずそのまま瓶詰しているからなのだそうです。度数は12度とやや低め、甘酒のようですが意外とすっきりとした飲み口です。因みにBYとは日本酒が製造された年のことで、29BYとは平成29年という意味です。

  またこのお酒は水酛仕込みという、失われていた600年前の仕込み方法を復刻させた、いわば日本酒の原型のようなお酒です。水酛とは、生米と蒸米を水につけて乳酸菌を増殖させ、その水を仕込み水として利用した酒母の造り方を言うそうです。今回の参加者の中では、次の花巴と人気を二分したお酒でした。



  三番目は、奈良県・美吉野酒蔵の「花巴・水もと×水もと」。ただでさえ希少な水酛のお酒で、さらに水酛のお酒を仕込むという、こだわりの製法を見せています。酸味と甘みのほどよいバランス、フルーティ。かつての日本酒は今の日本酒よりも酸味が強かったようで、やはりこちらも古き日本酒の形と言えるかもしれません。この酸味が料理と合わせやすく、今回の中では梅水晶(サメの軟骨と梅肉を和えたもの)との相性が良かったです。



  四番目は、奈良県・増田酒蔵の「神韻・樫樽純米酒」。神韻、古の都、奈良らしい素敵な名前ですね。こちらも最近増えてきている、ワインのように樽熟成させた日本酒です。口に含むなり広がるカカオ、淡いバニラ香はフレンチオークの樽によるもの。アルコールと余韻の短いキレはシェリー酒のフィノを思わせます。



  ここからはジャスティンさんの携わっておられる、木戸泉酒蔵のお酒。個人的にはこのお酒が今回の中では一番好みでした。「純米生・AFS(アフス)」。飲むとその強い酸味、軽い渋みに驚かされます。まるで白ワインそのものを思わせる果実味(お米なのに)です。時間をおき空気を含ませると酸味が落ち着き、フルーティでエレガントな香りが浮かび上がってきます。

  しかも、近年の流行りでワイン風の日本酒を作ったのではなく、こちらでは60年も前から高温山廃酛という手法でこのようなお酒を造り続けているのだそうです。



  セミナーの最後を飾るのは、同じく木戸泉酒蔵の「秘蔵古酒10年」。新種が尊ばれる日本酒にあっての古酒ですが、過去の文献にはむしろ古酒を讃える記述が見られるそうです。同じ米から作られる紹興酒も甕熟成させるわけですから、確かに日本酒のバリエーションという点で古酒がもっとあってもよさそうな気がします。かすかな苦みと紹興酒のような古ぼけたニュアンスを感じます、好みは分かれるかも知れません。

  何故現在はフレッシュな日本酒ばかりが出回っているのか?それは日本酒が熟成に向かないからでも、和食という繊細な料理と合うように、料理を邪魔しない日本酒というものが生まれたのでもなく、単純に酒税の影響によるものだそうです。もちろん、新酒には新酒の良さがあるのであり、決っして良くないと言っているのではありません。

  しかし、今回のセミナーに登場した日本酒を一般に日本酒の好きな方にお勧めしたとしたらどうでしょう?邪道だと思われる方も少なからずいるのではないでしょうか?ところが、既に述べたようにこれらのお酒は邪道どころか、むしろ伝統的日本酒に近いものも多いのです。そもそもシェアが7%にも満たないお酒を文化と呼べるのかという議論はさておき、文化とは時代に適合し変化していくのが前提だとした場合、我々はその中の何を受け継いでいかなければならないと思っているのでしょうか?現在、一般に日本文化と考えられているもの、相撲にせよ柔道にせよ、その辺が意外と曖昧なのではないかと思いました。

  そのような中、日本酒を再び盛り上げようと努力されている方々が全国各地にいらっしゃること、精米歩合の競い合いだけではない奥深さと多様性が日本酒にはあること。その一端に触れることができたのは大いに勉強になりましたし、日本酒に対する見方が変わりました。伝統文化を受け継いでいくには、まずそれを知るということから始めなければならないのかもしれません。



  セミナーの後は、その新酒が三本。「木戸泉新酒しぼりたて無濾過原酒」。それぞれ原料のお米が違い、左から自然栽培五百万石、総の舞、自然栽培華吹雪となっています。

  最後に。今回のセミナーのために、居酒屋花まる様には会場のご提供と、日本酒と相性の良い献立をご提供いただき、大変お世話になりました。この場を借りて御礼申し上げます。

  なお、献立は以下のフォトチャンネルにまとめました。

・サメ軟骨の梅肉和え
・ホタルイカの肝醤油干し
・お造り(真鰺・鯖・鱸・かんぱち)
・あさり酒蒸し
・揚げ出汁豆腐
・菜の花とホタルイカの天婦羅
・ブリカマと地鶏の網焼き



居酒屋花まる

神奈川県横浜市中区太田町2-32



過去のセミナーレポートはこちら

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2018年2月アクセスランキング

2018年03月01日 | 人気記事ランキング


  記録的な寒さが続いた今年の冬ですが、ようやく春の訪れが見えてきたようです。皆様いかがお過ごしでしょうか?

  さて、2018年2月にアクセスの多かった記事トップ10をご紹介します。

  個別記事でのトップは、2位の第92回YMS。昨年11月に行われた第89回YMSも4位に入りました。実は昨日まで3件のYMS関連記事が入っていたのですが、2件入るというのも珍しく、実に2年ぶりのことになります。
 
  おかげさまで盛況に終わった弊社新年会の記事も2カ月連続でランクインしました。
 
  第5位は、弊社商品「特殊紡績手袋よみがえり」を使っていただいている、中央大学ボランティアサークル、C-habitatさんの記事。先月はネパール、そして今月はインドで活動されるそうです。
 
  地元吉野町のキムチの店「元気になるキムチ屋」の記事が5カ月ぶりのランクイン。実は昨日も大好きな豚キムチ定食を頂いてきました。今気になっているのは、いわし煮定食とさば煮定食です。
3月決算の当社は、今月が年度収めです。残る一カ月、頑張りたいと思います!

1 トップページ
2 プレスリリースに改めてYMSを考える-第92回YMS
3 2018年新年会を開催しました
4 日本経済が抱える課題の縮図-第89回YMS
5 「よみがえり」を使っていただきました-C-habitatさんの活動模様
6 エコノミーとエコロジーの語源
7 噂のカルボナーラつけ麺を食べに-(麺)フジヤマ55
8 「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました
9 韓国おばんざいの店-元気になるキムチ屋(吉野町)
10 その他

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