窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

久しぶりのヘルムズデール(南青山)

2017年10月25日 | BAR&WHISKY etc.


  もう10年以上ぶりぐらいになると思うのですが、ウィスキーを覚えたての頃に足繁く通い、色々と教えていただいたヘルムズデールに行ってきました。店内のレイアウトは変わっていましたが、スコットランドを思わせる木目調の落ち着いた店内と楽しみにしていた定番のマッシュルームフライ(冒頭写真)は健在でした。ほのかなシガーの香りと共に実に懐かしい心地です。

  この日はシェリー系で限られた時間をゆっくりしたい気分だったので、オーナーの村澤さんにその系統でまとめていただきました。



  まずシェリー系と言えば、ドロナック。グレンドロナック1993・23年・ザ・シェリーバット・ウィスキーフープ。オロロソ・シェリー樽による熟成。シェリーについては6年前の記事で少し触れていますので、そちらをご覧ください。

  何と最後の1杯だったのですが、劣化もなく濃厚なビターチョコレートのような味わいは、55.1度という度数を感じさせず、ほとんどデザートのよう。

  因みにウィスキーフープというのは、2014年に結成されたウィスキーの愛好家団体で、村澤さんも幹事を務めていらっしゃいます。



  続いてジ・アラン・プライベートカスク・14年・ウィスキーフープ。今回の中ではイチ押し。程よいシェリー香と樽由来のビターなバランス、そこに潮の香りが加わりまさに塩チョコレート。先ほどのドロナックほど強烈なシェリー香を主張しないものの、このバランスの良さは逸品。「ああ、美味しいなあ」と全身の力が抜け、椅子にもたれかかるよう。



  後半はシェリー樽から切替え。アデルフィ・クライヌリッシュ1996・19年・オールドカスクストレングス。このブログでも何度か登場しているクライヌリッシュは僕の大好きなウィスキーの一つ。こちらはバーボンホグスヘッド樽で熟成させ、新樽でフィニッシュさせています。黄金色、滑らかで蜂蜜のような甘さと柑橘系の香り。リンクウッドと似た系統です。今回を食後のデザートに例えれば、チョコレートブラウニーにレモンピールが加わった感じです。

【過去にクライヌリッシュが登場した記事】
バー・ウーバンギャアー(2017年)
Bar Acuarium(2013年)
BAR KEITH(2007年)



  そして最後はグレンファークラス1977‐2015・38年・ウィスキーフープ。以前、ファークラス105を持っていたことからシェリー系のイメージが強いですが、こちらはプレーンカスク(スコッチ・ウイスキーの熟成に1度使用した再々使用以降の樽)になります。度数は47.1度とこれまでの中では低い方なので、締めるにはちょうど良いです。こちらも滑らかで淡い柑橘系とバニラの香り。蜂蜜のような甘みがあって余韻も長く味わい深いウィスキーでした。

  やはりここは何とも言えず居心地が良いです。

ヘルムズデール



東京都港区南青山7-13-12



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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麻布十番店にも行ってきました-Le Bar à Vin 52 AZABU TOKYO

2017年10月24日 | ワイン・日本酒・ビール


  過去、このブログでも関内店恵比寿店をご紹介しました、成城石井がプロデュースするワインバル” Le Bar à Vin 52 AZABU TOKYO”の麻布十番店に行ってきました。これまではワインバルでありながらワインについてほとんど触れませんでしたので、今回はそちらを中心に書きたいと思います(料理については関内店と恵比寿店の記事をご覧ください)。

  恐らく小売価格にして1,000円から2,000円位の価格帯と思われるカジュアルなワインながら、結構しっかりとした味わいのワインがこれまた飲食店としてはリーズナブルな価格で楽しむことができます。本来重いワインの好きな僕ですが、今回は食事を邪魔しないミディアムボディのワインを中心に選びました。

  初めは冒頭の写真、エピスリー・ボヌール・ボルドー・ブラン。すっきりとした飲み口ながら、そこそこしっかりした果実味と酸味があり、最初の一杯としては適したワインだと思いました。



  続いてラ・ディブ・ ブラン・コート・デュ・ローヌ2010。先ほどのワインよりやや重い感じがしますが、タンニンが少なくドライ。ややオイリーな印象を受けます。さらにすっきりとしているので、先ほどのワインと順序が逆でも良かったかもしれません。



  赤に切り替え。シャトー・ラ・ヴェリエール・ボルドー・シューペリュール2010。カベルネ・ソーヴィニョンとメルローのブレンド。しっかりとした赤紫色をしていますが、タンニンはそれほどでもありません。優しい果実味、アルコール度数14%でキレがあるので肉料理の合間に適したワインかと思います。



  最後はド・ラ・クロワ・サン・ジャック・ブルゴーニュ・ピノ・ノワール。ブルゴーニュ地方最北端の産地ジョワニーの三ツ星レストラン、ラ・コート・サン・ジャックのハウスワインだそうです。

  ジョワニーはローマ時代から続くワインの銘醸地でしたが、19世紀後半に西ヨーロッパを襲ったフィロキセラ(ブドウアブラムシ)によって大被害を受けました。ラ・コート・サン・ジャックでは、かつての銘醸地ジョワニーの復興に力を入れているそうです。

  先ほどのワインと比べると、明るいルビー色をしており、やはり柔らかなタンニンと果実味の飲みやすいワイン。ワインとしては物足りないですが、肉料理に合わせすいすいと飲むことができます。

  なお、写真の背景に漫画家の久住昌之氏によく似た人物が映っていますが、20年来の友人です。

Le Bar à Vin 52 AZABU TOKYO 麻布十番店

東京都港区麻布十番2-2-10



繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした
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横浜の下町にこんな憩いの場が―仙や(二葉町)

2017年10月17日 | 食べ歩きデータベース


  近頃、地元を巡ることが多くなってきた気がします。当社から歩いて3分、距離にしてわずか240mのところにある割烹「仙や」。女将さんが知人の大学時代の後輩にあたり、5年前の開店時から知ってはいたのですが、当時はカウンター席のみだったこともあり、なかなか会社の行事で使うということができませんでした。



  しかし、今回たまたま検索したところ、お店が拡張され奥に座敷ができていることが分かりました。聞けば、裏が廃業した古い料亭で、それをつなげたのだそうです。かつてこの辺は近くに花街があり置屋さんが多かった、芸子さんに踊りを教えていたところが今でも残っています。ということで、かつてはこうした料亭も沢山あったそうです。年季の入った座敷席は趣があり落ち着いた造りになっています。



  座敷から見える日本庭園。今やマンションが立ち並ぶ横浜の下町にあって、ここだけ別世界のようです。

  お料理は飲み放題つきのコースでお願いしましたが、美味しい小料理と日本酒が充実していました(僕自身は車だったため、飲めず残念!)。お料理は下のフォトチャンネルにまとめましたので、そちらをご覧ください。



仙や



神奈川県横浜市南区二葉町2-18-5 ダイアパレス千歳第二 1階



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タイで出会った本格大阪風居酒屋-福いち

2017年10月13日 | 食べ歩きデータベース


  タイの首都バンコク市内を走る高架鉄道BST(バンコク・スカイ・トレイン)のオンヌット駅から歩いて15分ほどのところにある、日本人も納得の大阪風居酒屋。

  かつての高校野球の名門PL学園野球部出身で、日ごろ大変お世話になっている方とタイでご一緒した際、「同級生が居酒屋」をやっているという話を聞いてお邪魔した次第です。

  お世辞にも駅から近いとは言えず、かつお店も表通りから少し脇に入った少々分かりにくいところにあるにもかかわらず、店の中は大勢の日本人客で賑わっていました。清潔な店内はまさに日本の居酒屋がそのままタイに移ってきた感じです。



  まず驚いたのはネタの新鮮さ。上の写真はイカの塩辛とクリームチーズですが、新鮮なイカで塩辛を手作りで作っているのがすぐに分かります。冒頭の写真、刺身盛り合わせも日本のそれと遜色ありません。さすが日本人の駐在も多いバンコク、和食もそれなりに洗練されていると感じました。



  量こそ少ないですが、ハラミステーキも本格的。



  甘みのある出汁でいただくもつ鍋も丁寧に下処理がなされ、余計な脂や臭みを感じない本物でした。



  紅生姜天。『孤独のグルメ Season6』第一話で、大阪市平野区の串カツ屋台が登場し、そこで紅生姜の串カツを見て以来気になっていました。最初にご紹介した南大阪出身の方の勧めもあり、本来ソースで食べるところを醤油に変えてみました。食べてびっくり、これは絶対醤油です!大豆由来の醤油のうまみと紅生姜の甘みが実にマッチするのです。残念ながら、これがソースですとソースの甘さで紅生姜の甘みが相殺されてしまいます。やはり持つべきものは本場を知る友でしょうか。

孤独のグルメ Season6 DVD-BOX
クリエーター情報なし
ポニーキャニオン




  さて、本場ということで言えば、PL学園野球部出身の店長・石原さんが作る「PL学園野球部炒飯」。名だたるPL学園出身のプロ野球選手たちも食したであろう、このお店の名物料理。詳しいことは分かりませんが、ここにも同じ野球部出身の仲間から色々と注文が入り、より本物に近いものが今回は出てきたようです。

  とてつもなく味が濃いですが、17、18歳のトップアスリート達にとってはこれ位でないと物足りないのかもしれません。そして今や43、44歳の我々オジサン達にとっては、お酒で酔った身体にこれがちょうどいい…。

  他にも名門野球部出身者ならではの裏話などに花が咲き、全く同時代(同い年)の僕としてはタイで得た思わぬ貴重な時間でした。


福いち - しあわせ食堂




235/12 Sukhumvit 77 Phra Khanong nua, Wattana, Bangkok, Bangkok, Thailand

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素晴らしきかな大岡川-第88回YMS

2017年10月12日 | YMS情報


  10月11日、mass×mass関内フューチャーセンターにおいて、第88回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

  2010年10月13日に第1回を開催したYMSは、今月で丸7年を迎え、8年目のシーズンに入ります。毎月第二水曜日、おかげさまでこれまで一度も絶やすことなく、ちょうど1年後の第100回を目指しております。これからも沢山の方々のお知恵とご縁をお借りしながら、魅力あるセミナーを続けてまいりたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。



  さて、今回の講師は冒険写真家の豊田直之様。コピーライター、漁師、ダイビングインストラクターといった異色の経歴の持ち主、1991年に海の撮影プロダクション会社を設立され、2012年からはNPO法人、海の森・山の森事務局の理事長として環境保全活動に精力的に取り組んでいらっしゃいます。

  今回はその環境保全活動がテーマ、「素晴らしきかな大岡川」と題してお話しいただきました。前回に続き、知られざる地元横浜がテーマです。

  大岡川とは、横浜市磯子区氷取沢町を源とし、横浜港へと注ぎ込む約12㎞ほどの長さの川です。元々その河口は当社のすぐ近く、南区蒔田町付近にありましたが、1656年の吉田新田干拓、さらに開港後の外国人居留区造営のため内海が埋め立てられたことにより、現在の長さとなりました(詳しくは第52回YMSをご覧ください)。ちなみに僕は大岡川の旧河口付近で生まれ、現在は源流付近に住んでいます。したがって、大岡川は実になじみ深い川でもあります。

  掲載できないのが本当に残念ですが、セミナーは丹沢山系を流れる美しい清流の水深5mのところから秋の紅葉を見上げた、息をのむばかりの写真から始まりました。一度はその生命を終えたはずの落ち葉が、清い水の中ではその命の輝きを蘇らせる、そんなエネルギーを感じさせる写真でした。人口900万人を超える神奈川県に、かくも美しい自然が残っていること。まずはそれが新鮮な驚きでした。

  それと対比するかのように映し出されたのが、大岡川下流の水中写真。不法投棄された自転車、堆積するヘドロ。しかし、そのような環境の中でもイシガニ、スズキ、ボラなどの生命の営みが確認されました。因みにかつての横浜港ではワタリガニが豊富に獲れたというお話は、前回第87回YMSでご紹介しました。

  不法投棄されたごみに含まれるプラスチックは太陽光の影響によって細かい粒子となり、水中を漂います。それを魚が摂取し体内に蓄積、そしてそれを我々が食べているというわけです。世界中で海に流れ込むプラスチックは年間1,300万トンにも及び、その実に7割が河川からなのだそうです。

  豊田さんが大岡川の清掃を始めたのは、SUP(スタンドアップパドルボード)と呼ばれる、その名の通りボードの上に立ってパドルで水を漕ぐ競技で大岡川から横浜港に下った際、上流から流れてくるごみの余りの多さに驚いたことがきっかけだそうです。現在、月2回、中区黄金町から日ノ出町付近(桜桟橋付近)と南区井土ヶ谷付近で清掃を行っているそうですが、1日2時間の清掃で収集されるごみは実に104kgs。最も目立つのはタバコの吸い殻で、わずか2時間で7,500本もの吸い殻が集まったこともあるそうです。その他、ボートに満載されたビニル袋に入ったごみ。これらは風で飛んできたというより意図的に投棄されたものと考えられます。

  一方、そこから遡ることおよそ10㎞。源流である氷取沢の美しい自然が映し出されました。鎌倉幕府最後の執権である北条高時にここで採取した氷が献上されたことから氷取沢と呼ばれるようになったというこの地ですが、一説にはその前からこの付近には刀鍛冶が多く存在し、故に火取沢と呼ばれていたとも言われています。そこは清らかな湧き水、これがわずか10㎞で、なぜあそこまで汚れるのか?何人も初めは無垢に生まれてくる、我々の人生と重なって見えました。川も人も、それを汚すものは結局のところ人のエゴに他なりません。川面はそこに我々の姿を映し出しているように思えました。

  360万都市の横浜に残る清らかな水、豊かな自然が守られた氷取沢には多くの野鳥や昆虫が生息しています。ニホンカワトンボやヘイケボタルが確認されるのは、水が清らかであることの証拠です。そして、クマタカの生息も確認されているそうです。食物連鎖の頂点に立つタカが生息できるということは、ここに小さな生態系が維持されていることの表れでもあります。クロジ(スズメ目ホオジロ科ホオジロ属)という、神奈川県の絶滅危惧種に指定されている鳥も確認されました。



  NPO法人、海の森・山の森事務局では、大岡川を起点として全国の川をきれいにするための意識啓発のため、大岡川を神奈川県の地域産業資源として申請、今年9月に認められたそうです。自然保護から始まり、大岡川をかつて水運で栄えた運河の町横浜の歴史と文化を伝える資源として、その活動を広げていきたいとおっしゃっていました。

過去のセミナーレポートはこちら。

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2017年9月アクセスランキング

2017年10月06日 | 人気記事ランキング


  夏の終わりからいきなり深い秋が訪れたかのような、肌寒い日が続くこの頃です。急な気温の変化で大量を崩しやすい季節ですので、皆様何卒ご自愛ください。

  さて、遅くなりましたが2017年9月にアクセスの多かった記事、トップ10です。

  9月一番の特徴としては、第2位「韓国おばんざいの店-元気になるキムチ屋(吉野町)」が3位に126pv差をつけ、ダントツのアクセスがあったことでしょう。テレビ番組に登場した6位「羊の串焼きがおすすめ-羊香味坊(中国東北料理)」、9位「昭和のノスタルジーを感じるなら-カヤシマ(吉祥寺)」ではなく、地元横浜の、それも当社のすぐ近くにある日中のみの食堂に一番の注目が集まりました。

  3位、4位は日本交渉協会YMSでのそれぞれ勉強会。7位「「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました」から10位「大皿料理で豪快に-だいこん家(いわき市)」は、すべて10pv内に納まるという僅差でした。

1 トップページ
2 韓国おばんざいの店-元気になるキムチ屋(吉野町)
3 初めての九州開催!-第33回燮(やわらぎ)会
4 横浜市民酒場って何だ?-第87回YMS
5 カテゴリー毎の記事一覧(食べ歩きデータベース)
6 羊の串焼きがおすすめ-羊香味坊(中国東北料理)
7 「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました
8 エコノミーとエコロジーの語源
9 昭和のノスタルジーを感じるなら-カヤシマ(吉祥寺)
10 大皿料理で豪快に-だいこん家(いわき市)

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交渉に果たす対話の役割と意義とは-第34回燮(やわらぎ)会

2017年10月04日 | 交渉アナリスト関係
  

  9月30日、日本交渉協会が主催する交渉アナリスト1級会員のための勉強会、第34回燮(やわらぎ)会に参加してきました。



  今回の講師は、交渉アナリスト1級会員でコミュニケーションプロデューサーの彦田美香子様。「win-win協調的交渉を導くダイアログ体験」と題し、対話がコミュニケーションに与える効果をまさに対話によって体感するワークを行いました。

  対話(Dialogue)には様々な定義が成されていますが、その語源はギリシャ語で”dia”(通り抜ける)+”logos”(意味)です。即ち、その場であったり人と人との間、あるいは人の中を「意味が(自由に)通り抜けること」を意味します。これを彦田さんは「率直・深い・自由」という非常に分かりやすい条件でまとめてくださいました。さらに会話との違いを明確にするならば、そこにテーマがあるか否かということが大切になると思います。

  なぜ対話が重要なのか?一つには「人は他者の話を聞いている様で聞いていない」ということが挙げられます。これを今回アイスブレイクの中で身を以て味わうことになるのですが、短時間の自己紹介でさえ、その内容を余り思い出せません。日々膨大な情報に曝されている我々は必要でない情報を無意識に素通りする傾向にあるためです。これを防ぐには相手の話に関心を向ける意識の働きが必要となります。第二には、第19回燮会で行った「クルーザー」というワークの通り、倫理に関わる疑う余地のない常識と思えるような事柄でさえ、その捉え方は個々で驚くほど違っているということです。この小さな認識の違いの積み重ねこそが、やがて大きな誤解やコンフリクトを生み、かつその解決を難しくしている主たる要因なのです。対話では「素朴な質問」をすることにより、その認識の違いを明らかにしていきます。この点は『交渉の達人』の「調査交渉術」でも原則の筆頭に挙げられていたポイントでした。このように考えると、対話を抜きにした単純な多数決だけで合意を得ようと期待する方がむしろ無理があると言えます。

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  さて、先ほど「対話にはテーマが必要」と述べました。そこで今回の最初のテーマは、「交渉アナリストの理想像は何か?」前提として、日本交渉協会理事の安藤雅旺様より日本交渉協会のビジョンと交渉アナリストの役割についてお話いただきました(詳しくは『交渉学のススメ』をご覧下さい)。

<理念>
①ライシャワー博士の「イーコール・パートナーシップ」
②藤田忠先生の「燮の精神」
③ハーバード流の「協創(統合型交渉の実践)」

<交渉アナリストの役割>
①「対立を両立に変える合意形成の実践」
②「異質なものの結合による新たな価値創造の実践」
⇒即ち、分配型<価値交換型<価値創造型へと交渉次元を上げる担い手となること

<ビジョン>
「仁の循環・合一の実現」


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  上記をお読みになり、「ここまで交渉アナリストの役割が明らかになっているのであれば、その理想像はそれを実践することであって、何を対話する必要があるのか?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。しかし、明確に思えることにこそ、意外な認識の違いが潜んでいるのであり、これを対話により明らかにしなければ同床異夢となってしまう恐れがあるのです。冒頭で彦田さんが「燮会にはもっと対話が必要だと考えたので、このテーマを選んだ」とおっしゃっていましたが、この必要性を感じておられたのではないかと思います。



  各チームごとに対話を行い、結論をまとめた後、二番目のテーマへと移りました。「対話はWin-Win交渉にどのような効果を持つのか?」こちらも同様にチーム内で対話を行い、結論をまとめ、最初のテーマと合わせ全体での共有を行いました。様々な意見がありましたが、「対話」は、交渉アナリストがその役割を果たすための欠くべからざるスキルなのだと思いました。



  正しいかどうかはともかく、個人的に気付いたことが二点あります。一つ目は、対話はフラクタル構造をなしているという事。あるテーマについて対話していると、相手の発言を解釈したり、自分の中に取り込んだりするために自分の内面との対話が同時に起こります。また、テーマのある部分について疑問や相違があると、そこからまた新たな対話が始まり、同じように他者と自分および自分の内面との対話が同時進行するのです。しかし個々の対話は決して散逸することなく一番上のテーマの大きな対話を構成しているのです。この構造によって対話の質が深まっていきます。

  もう一つは、チームメンバーとの対話の中で、仲間の発言に共感するものがあり、それを内面の対話に変換した際、自分の興味や行動の源泉、心の奥深くにあるメンタルモデルと呼応する瞬間がありました。その時、自分の中でこれまで別々の物事として理解され、故に別個に探求されていたものが、一つの源泉から発した共通の物事に過ぎないということに気づきました。対話には物事の捉え方を深めさせるだけでなく、ある特異点に達したところで、捉え方そのものを変容させてしまう効果もあるのではないかと思いました。

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