2010年代の日本アメフト界を総じて見るならば、前半がオービック・シーガルズの時代(2010年~2013年4連覇)、後半が富士通フロンティアーズの時代(2016年~2019年4連覇)だったと言えるでしょう。12月15日、2020年のXリーグNo.1を決める第34回Japan X Bowlは、その2010年代をリードしてきた両雄による4年ぶりの顔合わせとなりました。
僕自身は3年連続の観戦となりました。
昨年は19,984人の観衆を集めたX Bowlも、今年は新型コロナの影響により、わずか6,113人と寂しい中で行われました(その分、ゆったり観戦できるという良い面もあったのですが)。しかし、試合そのものはわずか2点差という大接戦だった昨年にも劣らない、手に汗握る新旧王者対決。かつ頂上決戦にふさわしいハイレベルな内容となりました。8年連続出場の富士通が勝てば史上初の5連覇、4年ぶりのオービックが勝てば最多優勝回数を更新する9回目の優勝となります。
因みに、アメフトの日本一を決めるのは毎年1月3日に行われる、社会人と学生のチャンピオンによるRice Bowlです。しかし、アメフトもラグビーと同じように年々社会人と学生の差が広がってきており、2009年を最後に学生の勝利はありません(
2016年に観戦した時、惜しくも3点差というのはありましたが)。したがって、このX Bowlが事実上日本頂上決戦と言っても過言ではないでしょう。
今年は演奏のみの国歌の後、コイントスによりオービックのキックオフで試合開始。最初のシリーズで富士通は早速昨年も大活躍のRBサマジー・グラント選手、2年ぶりに帰ってきた大型のQBマイケル・バードソン選手のランなどでファーストダウンを更新、オービック陣に入りますが、ここでオービックDFが頑張り攻守交替。一方のオービックも富士通陣30ヤード付近で1ヤードを残し、4thダウンのパント。両者拮抗した立ち上がりを見せました。
その後、オービックのDFが素晴らしかったです。1Q6:56頃、バードソン選手の60ヤード近いロングパスをDB藤本選手があわやインターセプトという見事なブロック。その後、バードソン選手、グラント選手のランなどで32ヤード付近まで攻め込まれますが、2ndダウン10からバードソン選手のパスをDBブロンソン・ビーティ選手がインターセプト。
長年オービックで活躍している、DLバイロン・ビーティJr選手の弟ですね。これでオービックに勢いが出てきたように思います。
最初のビッグプレーが飛び出したのは、1Q10:00頃、富士通陣44ヤード付近の2ndダウン1。QBロックレイ選手が50ヤード付近から放ったパスがエンドゾーン手前のWR西村選手に通り、一気にゴールまで残り2ヤードと迫ります。そしてこの試合大活躍だったRB李卓選手がエンドゾーンに持ち込み、タッチダウン。オービックが先制。K/P山崎選手のゴールも決まり、7vs0。その後のオービックのDFも見事、富士通に反撃の糸口をつかませません。
2Q、オービックはロングパスを見せながら着実にファーストダウンを更新します。しかし1:40頃、富士通陣44ヤード、3rdダウン7。QBロックレイ選手の放った40ヤード近いパスをDB奥田選手がインターセプト。攻守交替すると、富士通もQBバードソン選手が執拗にロングパスを繰り出し局面の打開を図りますが、いずれも失敗。オービック陣37ヤード、4thダウン10でパント。攻撃権がオービックに移り、一進一退の攻防が続きます。
オービックはショートパスとランプレーで1stダウンを更新。富士通陣33ヤードに攻め込んだ、2ndダウン5。QBロックレイ選手からTEホールデン・ハフ選手へパスが通り、1stダウンを更新したかに見えました。ところが、こぼれたボールをDB井本選手が拾ってそのまま72ヤードを走り切ってタッチダウン。
しかし、これはオフィシャル・レビューによるビデオ判定となります。非常に微妙でしたが、パス成功が認められタッチダウンとはなりませんでした。TDであれば、試合の流れが変わったかもしれない重要な局面でした。しかも、1stダウンを更新したオービックは残り6:20で敵陣28ヤードというチャンス。
ところが、最初のパスをLB竹内選手の見事なタックルで、RB李選手がファンブル。これをDL高橋選手がリカバーします。しかし、これもまたビデオ判定。素人目にはファンブルに見えましたが、結果はパス・インコンプリート。オービックとしては、続けざまに危機を脱する形となりました。しかも敵陣28ヤードのまま2ndダウン10。
そしてオービックはRB李選手のランなどでエンドゾーン7ヤードに迫り、2ndダウン1。QBロックレイ選手からボールを受けたRB李選手が中央を駆け抜け、タッチダウン。二度の危機を凌いだ後のタッチダウン、極めて大きなプレーでした。
しかし、その後のトライ・フォー・ポイントは、DL南選手のブロックにより失敗。この1点の有無が、試合を最後まで分からなくさせることとなります。
対する富士通、ようやくらしさの見えてきたグラント選手のランとパスなどにより、残り1:40ほどでオービック陣14ヤードまで攻め込みます。そこからQBバードソン選手よりWR松井選手へエンドゾーン左隅ギリギリにパスが通り、ついにタッチダウン。ゴールも決まり、13vs7となります。
前半はとにかくオービックDFの頑張りが目立ちました。昨年のX BowlやRice Bowlであれほどやりたい放題だったグラント選手をかなり抑え込むことに成功していたようです。また、両チームとも何よりも反則の少ない、実に締まった試合だったのではないかと思います。正確ではないかもしれませんが、記憶では前半はパス・インターフェアの1つ、3Qまで含めてもフォルス・スタート1回の2つだけ。それだけレベルの高い、見ていて緊張感のある試合だったと言えるでしょう。
ハーフタイムショー。今年は東日本のチームのチアリーダーのみ、スペシャルゲストもありませんでした。
3Qは実に淡々と過ぎて行きます。まるで前半までの流れがぴたりと止まってしまったかのように。実際、3Qは20分ほどしかかかりませんでした。それだけ集中力の高い均衡した展開だったとも言えます。
いよいよ4Q。4Qはさすがに少し反則が出始めます、それでも次の2つぐらいだったのですが。開始早々、オービックがパス・インターフェアとフォルス・スタートの反則を立て続けに犯し、合計20ヤードの罰退。自陣35ヤード付近で3rdダウン44ヤードという有様。RB李選手がランを試みますが、ゲインできず。4thダウン45ヤードからのパントとなります。一方、自陣38ヤードから攻撃を開始した富士通も1stダウンを更新しますが、その次が続かず。
リードしているオービックは当然ランプレーで時間を使います。しかし、富士通のDFが良く、なかなか前に進めません。そこで苦し紛れにパスをするも通らず。自陣エンドゾーン付近から4thダウンのパントも、リターンで富士通はオービック陣39ヤード付近に入っての攻撃開始。
ここから富士通は、
一昨年のXBowlで大活躍したRBトラショーン・ニクソン選手にボールを集め、次々とランプレーで中央を突破していきます。そしてオービック陣27ヤード付近からの2ndダウン9。QBバードソン選手からWR中村選手に40ヤード近いパスが通ったかに見えました。しかし惜しくもラインの外に出ていたとの判定。ただ、これもビデオ判定で覆り、パス成功。エンドゾーンまで残り11ヤードと迫ります。残り時間はまだ6:32秒。
オービックも必死のDFを見せますが、4thダウン1。つまり、富士通がエンドゾーンまで残り僅か2ヤードと迫ります。残り5分を切り、果たして富士通は文字通り4thダウンに賭けるのか、それとも着実にフィールドゴールを狙い、残り時間で逆転のタッチダウンを狙うのか?
選択は4thダウンギャンブル。スナップからボールを受けたQBバードソン選手が突っ込みます、オービックも必死のDF。右に身体が流れたバードソン選手がボールをこぼすと、それをすかさず拾ったDB田中選手が100ヤード近く走り切り、何とリターン・タッチダウン。決定的瞬間と思われましたが、またしてもビデオ判定。結果、ボールをこぼす前にダウンしていたとの判定で、タッチダウンは認められず。しかも、このダウンによって富士通が1stダウンを獲得したかが焦点となりましたが、あと半ヤード及ばず。オービックに攻撃権が移ります。残り時間4:40、しかしオービックもエンドゾーンを背にしての攻撃ですので、早めに止めることができれば、まだ富士通にもチャンスがあります。
オービックはRB李選手が1stダウンを更新。富士通DFも頑張りその次をさせませんでしたが、4thダウンからK/P長尾選手が富士通陣22ヤードまで戻す見事なパント。残り1:30。
逆にパスを通し、時間を使わず地域をとらなければならない富士通。しかし、50ヤード付近まで戻すも残り45秒で、4thダウン10。絶体絶命の局面で、何とQBバードソン選手が自らのランで1stダウンを更新。
残り23秒。オービック陣37ヤードからの2ndダウン5。ここでWR宜本選手へのパスが通り、1stダウン更新。残り9秒、オービック陣23ヤードからの2ndダウン10。QBバードソン選手からWR松井選手へのパスが通ります。
何という展開でしょう。残り2秒でエンドゾーンまであと6ヤード。ラストプレーでパスが通り、タッチダウンとなれば同点、ゴールも決まれば逆転です。
まさに息もできない展開、固唾をのむとはこのことです。そして最後のパス。QBバードソン選手からWR宜本選手へ放たれたボール、それをDB久保選手が指先ギリギリのところでブロック。この瞬間、オービック・シーガルズの7年ぶり9回目の優勝が決まりました。富士通は史上初の5連覇ならず。非常にレベルの高い、見ごたえのある試合でした。13vs7、歴史に残る大熱戦だったと言えるでしょう。
両チームに心から感謝したいです、素晴らしい試合をありがとうございました。
繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした