窪田恭史のリサイクルライフ

古着を扱う横浜の襤褸(ぼろ)屋さんのブログ。日記、繊維リサイクルの歴史、ウエスものがたり、リサイクル軍手、趣味の話など。

角館武家屋敷②-石黒家(秋田県)

2024年11月29日 | 史跡めぐり


 順序としてはこちらを先に訪問したのですが、昨日に続き、ほぼお隣の武家屋敷「石黒家」のご紹介です。石黒家は角館に残る武家屋敷の中で唯一、石黒家直系の子孫が現在も住み続けているところです。青柳家同様、薬医門から入ります(末尾のサムネイル画像)。薬医門というのは武家屋敷に用いられる門の形式で、親柱の後ろに控柱を立てて強化し、切妻屋根をかけた門を言います。石黒家の薬医門は、角館に残る武家屋敷の中で最古の文化6年(1809年)のものと言われています。



 かつては身分の下の者が使用した脇玄関から座敷に上がり、その奥の部屋にある囲炉裏です。



 座敷から見て左にあるのは、「おかみ」と呼ばれる当主の書斎です。



 身分が同格か上の者が使用した表玄関。現在は使われていないそうです。



 応接室として使われた座敷。床の間や書院が設けてあります。



 この座敷には欄間(天井と鴨居との間に設けられる、採光のための開口部)に亀の透かし彫りが施してあります。襖を閉めると、外からの光で幻想的な亀が欄間に投影されます。かつては部屋の明かりはロウソクでしょうから、揺れる炎のため一層幻想的だったに違いありません。応接室に素敵な計らいですね。



 母屋の奥の増築部分は蔵と繋がっており、蔵は資料館となっています。



 例えば、雪国らしい藁沓や踏俵。踏俵というのは、大きな藁沓のようなものを履き、今でもあるのか分かりませんが缶下駄(缶ぽっくり)のように、中にある縄を持って交互に雪を踏み固める道具です。



 米俵。



 石黒家の陣羽織、甲冑、旗、陣笠。



 日本刀、肥前国出羽守藤原行廣。江戸時代初期の名工、藤原行廣による肥前刀。肥前刀は鍋島藩の御刀鍛冶によって作られた名刀で、将軍家や諸大名への贈答用として用いられたそうです。



 石黒家は代々、勘定役・財用役などの財政を担当しましたが、学問にも秀でた家柄だそうで、儒学・漢学の他、医学・和算・暦学などを修めた者も輩出したそうです。特に医学は熱心に取り組み、各種の医学書を揃え、武家でありながら病状の診断・治療や薬の調合なども行えたそうです。江戸時代後期の医師で、秋田藩(佐竹藩)に仕え、藩内で初めて種痘(天然痘の予防接種)を成功させた、高橋痘庵も石黒家の出身だそうです。上の写真は、薬量秤と鍼術針。



 薬研(やげん:薬材を挽く道具)。



 『大和本草』(貝原益軒が編纂した日本初の本草学書)、『医学綱目』(明代の医師楼英が編集した医学書)、そして『解体新書』。



 石黒隼人祐直信は、家塾「紅翠亭(こうすいてい)」を開き、漢学を中心に、倫理や政治、歴史などの幅広い知識を藩士や町人の子弟に教えました。武士が町人に教育を施すことがこのような江戸から遠く離れた地でも普通に行われており、「近江商人博物館(東近江市五個荘)」でも書きましたが、町人にも教育が普及していたことは特筆すべきことだと思います。



 歴史では、『大日本史』(徳川光圀によって開始され、水戸藩の事業として二百数十年継続した紀伝体の史書)。



 倫理では、『義烈遺文』(主君への忠誠や家の名誉を重んじた武士の言行録や遺書をまとめたもの)。

 

 また儒学では、『論語講義』や『言志録』(江戸時代後期の儒者、佐藤一斎の語録)などが展示されていました。

石黒家



秋田県仙北市角館町表町下丁1番地



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角館武家屋敷①-青柳家(秋田県)

2024年11月28日 | 史跡めぐり


 投稿が遅れているうちに、あっという間に1年が経ってしまいました。昨年11月23日、角館に今も残る江戸時代の武家屋敷を見学してきました。その内、青柳家と石黒家をご紹介します。



 青柳家は本能寺の変の2年前、天正8年(1580年)から続く、敷地面積が3,000坪にも及ぶ、角館を代表する武家屋敷だそうです。



 入口の藥医門は万延元年(1860年)建立。



 茅葺きの寄棟造りの母屋は、安永2年(1773年)建立。



 こちらは明治29年(1896年)のものになりますが、龍野満黄という京都の画家が青柳家に泊まり込んで描いたされる屏風絵です。



 台所ですね。



 母屋の隣には武器庫があります。



 蔵の入口にぶら下げてあったのは、サルの頭蓋骨。

  

 中には火縄銃、刀剣、甲冑などが数多く展示されています。



 日本に2挺のみという、火縄式三回転銃。もう1挺は明治神宮に保管されているそうです。



 羽州上泉藩(現在の山形県)、伊達新造の満地羅。満地羅(まんちら)とは、首から肩にかけて保護する小具足のことで、オランダ語の”Mantel(マンテル、つまりマントの意)”に由来するそうです。興味深いのは、奥の胴に十字架が描かれていることです。伊達新造がキリシタンだったのかどうかはハッキリしません。



 黒塗横矧二枚同具足(くろぬりよこはぎにまいどうぐそく)。兜は六十二間小星兜といい、不覚にも写っていませんが、鉢に鋲をびっしりと打った、戦国時代の高級品だそうです。青柳家は元々甲府で武田家の武器造りをしていたそうで、その当時のものが家宝として伝えられました。青柳家はその後、水戸、秋田へと移り住みました。

 

 青柳家伝来の片刃槍と刀の実触コーナー。片刃槍は薙刀に似ていますが、薙刀より刃が直線的で、「槍」というように、刺突を目的としています。柄も薙刀より長いです。戦国時代の成人男性の身長が155㎝程度だったことを考えると、よくこんなものを振り回せたなと思います。



 解体新書記念館。『解体新書』は、安永3年(1774年)刊行、日本語で翻訳された、初の西洋解剖学書です。発刊後、大ベストセラーとなったそうです。次回ご紹介する、「石黒家」でもこの『解体新書』が所蔵されているのみならず、蘭学が教えられていました。



 長崎はもちろん、江戸からも遠く離れた秋田にまで『解体新書』が普及し、蘭学が教えられていたことは、これらが決して幕府の独占ではなかったことを示しており、現代の我々がイメージする「鎖国」とは全く違ったものであったことが分かります。



 こちらは1669年刊行、デンマークの医師トーマス・バルトリンの解剖書の蘭訳本です。



 改訂日本輿地路程全図。伊能忠敬の大日本沿海輿地全図(1821年)に先立つこと40年、常陸(茨城県)の地理学者、長久保赤水による日本初の経緯線入り地図です。初版は1780年、正確で実用的な地図として広く使用されました(大日本沿海輿地全図は機密扱い)。以後8回の改訂がなされましたが、写真の図は第5版です。天保年間(1830年-1844年)に当主だった青柳正秀が南部境目山役(国境を守る役目)を務めていたため入手したものと言われています。



 小田野直武像。秋田藩士の武士ですが、平賀源内から洋画を学び、日本で初めて西洋画の技法である写実と遠近法に取り組んだ画家です。その技法は秋田蘭画とも呼ばれました。青柳家とは姻戚関係にあり、前述の『解体新書』の図版の原画を手掛けたのが、直武です。

青柳家

【IMG_9351】

秋田県仙北市角館町表町下丁3



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移転後の元気になるキムチ屋②(宿町)

2024年11月27日 | 食べ歩きデータベース


 7月に移転した後の「元気になるキムチ屋」さんをご紹介しました。その時は従来通りランチだったのですが、その後昼営業を休止されてしまったので、この度ようやく夜の訪問が実現しました。店内の様子は前回の投稿をご覧ください。

 夜はお好み焼きと焼肉がメインの居酒屋さんになります。キムチ等のテイクアウトは引き続きやっていらっしゃったので、久しぶりに白菜キムチと大好きな青唐辛子の醬油漬けをお願いしました。この醤油漬け、食べ終わった後の醤油も調味料として色々使え、重宝します。



 さて、焼肉はタンからスタート。



 あまり沢山は頼めませんでしたが、カルビとロース(写真撮り忘れ)。



 ハラミも良いですが、僕がお勧めしたいのは希少部位のミスジ(ウデ)。柔らかく、脂もしつこくなくてとても美味しいです。



 意外なところで「これは美味しい!」と思ったのは、牛ではなく壺漬け豚カルビ。豚肉とは思えない柔らかさ、牛肉とはまた違う旨味。驚きました。これもお勧めです。

 夏の暑い時期に移転されて大変だったと思いますが、女将さんも「ようやっと慣れてきた」と仰っていました。夜は昼とはまた違う大変さがあったと思います。(歩いて10分ほどですが)吉野町時代の常連さんも来られるそうで、これからもお元気で頑張ってほしいです。

元気になるキムチ屋



神奈川県横浜市南区宿町1-18 坂井ビル 1階



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菱湖の試飲会に行ってきました

2024年11月26日 | ワイン・日本酒・ビール


 投稿しそびれ、あっという間に1年。昨日、「酔鯨試飲会」の話題を投稿しましたが、こちらは昨年10月19日に開催された、新潟・峰乃白梅酒造さんのお酒「菱湖」試飲会の模様です。試飲したのは、次の6種類。

・菱湖 純米大吟醸 おりがらみ
・菱湖 純米ドライ 火入れ
・菱湖 純米大吟醸 備前雄町 ひやおろし
・菱湖 純米吟醸
・菱湖 純米吟醸 生 JUICE
・菱湖 4年熟成純米大吟醸 備前雄町



 1杯目、「菱湖 純米大吟醸 おりがらみ」。「おりがらみ」とは、うっすらと濁っているお酒のことです。強い米の甘み、なめらかさ、微発泡で食前酒向きのお酒です。



 2杯目、「菱湖 純米ドライ 火入れ」。瓶詰めした後、湯煎で温度を60度から65度まで上げ、その後水槽で急冷却する「瓶燗火入れ」を行っています。甘みの強いお酒から一転して、さっぱり、水のようです。最初キレがありますが、時間が経つとほのかな米由来の甘み、旨味がでてきます。



 3杯目、「菱湖 純米大吟醸 備前雄町 ひやおろし」。日本最古の酒米と言われる備前御町を100%使用した、恐らく日本唯一のお酒です。その不思議な味わいは、ブドウ果汁で甘みと香りを添加した天然水のよう、甘くスッキリとして非常に飲みやすいです。米の力が存分に引き出されていると感じます。なお、「ひやおろし」は、冷蔵技術の発達で、ひやおろしは年々フレッシュになる傾向がある。



 4杯目、「菱湖 純米吟醸」。バランスの良いお酒。時間とともに旨味が増してきます。普段使いに良いですね。



 5杯目、「菱湖 純米吟醸 生 JUICE」。白麹という、普通は焼酎に使う麹を使用しており、この甘酸っぱさは白麹に由来しているとのこと。白麹は、室を洗わないと他の麴が使えないため、扱いが難しいのだそうです。「JUICE」と名のついている通り、酸味、強烈な甘さ、白桃のような果実香。日本酒の幅の広さを感じる不思議なお酒です。



 最後は、「菱湖 4年熟成純米大吟醸 備前雄町」。3杯目の4年熟成(限定品)です。ですが、3杯目と比べ、意外なことにクセがなく、全体的に抑えられ、飲みやすいです。

ほっこり酒処千



神奈川県横浜市神奈川区西神奈川1-8-11



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酔鯨の試飲会に行ってきました

2024年11月25日 | ワイン・日本酒・ビール


 11月20日、東神奈川の「ほっこり酒処 千」さんで開催された、高知県「酔鯨酒造」さんの試飲会に参加してきました。試飲したお酒は次の通りです。



・酔鯨 特別純米酒しぼりたて 生酒
・酔鯨 TOSAGURA Craft series 蒼 Light
・酔鯨 純米吟醸 吟麗 しぼりたて 生酒
・酔鯨 純米大吟醸 凛
・酔鯨 純米大吟醸 高育秋あがり
・酔鯨 リキュールかじゅ 文旦



 最初の1杯ということもあったと思いますが、個人的に一番好みだったのが、「酔鯨 特別純米酒しぼりたて 生酒」。加水調整をしておらず、アルコール度数は17度あります。期間限定の新鮮なお酒で、何といってもフレッシュさが際立ち、非常に飲みやすかったです。フルーティですが、しっかりとした厚みもあり、お酒としてじっくり味わうことができます。



 2杯目は「TOSAGURA Craft series 蒼 Light」。その名の通り、ぐっと軽い口当たりになります。とはいえ、それは1杯目との比較の話で、個人的にはしっかりとした米の旨味を堪能できるお酒だと思いました。



 3杯目、「酔鯨 純米吟醸 吟麗 しぼりたて 生酒」。1杯目に近く、再び力強いお酒に戻りました。こちらもアルコール度数17度。1杯目の方がよりフルーティさを感じるとすれば、こちらの方はお米の甘み、渋みをより強く感じます。好みでしょうが、1杯目とこの3杯目が好きです。



 4杯目、「酔鯨 純米大吟醸 凛」。白地に赤いクジラの尾鰭のエチケットが日の丸を連想させるように、JALのビジネスクラスで供されているお酒だそうです。2杯目よりすっきりとした飲み口のお酒でした。



 5杯目、「酔鯨 純米大吟醸 高育秋あがり」。やはり秋らしい、やや枯れた感じのするお酒で、アルコール度数も16度と高め。円熟味はありますが、やはり1杯目と3杯目の方がインパクトはあったかなという気がします。



 ただ、最後の「酔鯨 リキュールかじゅ 文旦」は結構驚きました。土佐文旦(ザボン)と柚子に酔鯨の日本酒を使用、柑橘類の果汁の香り、酸味、甘みを強く引き出し、皮の裏の苦みまで感じます。爽やかでありながら濃厚、これは日本酒をあまり飲まないという方でも楽しめますね。



ほっこり酒処千



神奈川県横浜市神奈川区西神奈川1-8-11



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みんな大好き、今が「旬」のお肉の話―第170回YMS

2024年11月19日 | YMS情報


 11月13日、NATULUCK関内セルテ 801にて、第170回YMS(ヨコハマ・マネージャーズ・セミナー)を開催しました。

 昨年6月の第151回YMSで、ながさき一生さんからお魚の話をしていただきました。今回は「肉」、和牛がテーマです。和牛に関するテレビ出演やSNSによる発信で活躍されている、小池克臣様より「教養としての『和牛』」と題してお話しいただきました。

 小池さんは地元横浜市生まれ。意外なことに実家は魚屋さんでした。しかし、魚に溢れた生活を送ってきたがゆえに、ご家族みんな肉好きになったそうです。18歳の時、アルバイトで稼いだお金で焼肉屋に行くようになり、次第にその回数が増え、現在では年間和牛を食べない日は4、5日しかないとか。肉好きが高じて本業とは別の独自の道としてYoutubeチャンネル「肉バカの和牛大学」をはじめ、本も数冊出版され、和牛に関する情報発信をされています。







 特に上記の外国人向けに書かれた『THE WAGYU BOOK』をきっかけに、U.A.Eの皇太子からも助言を求められるほどになりました。



1.「和牛」とは何か?

 さて、本題の「和牛」の話に進みましょう。まず、「国産牛」についてですが、国産牛とは、生まれた場所や品種に関わらず、日本での飼育期間が最も長い牛を言い、今回のテーマである「和牛」、「交雑種」、「その他」に分類されます。国産牛の一分類である和牛と交雑種は、在来種と外来種の交配により品種改良された牛で、和牛=在来種ではありません。

 さらに、和牛は「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」に分類されます。なお、黒毛和種は私たちにとって一番馴染みがあると思いますが、実際に柔らかく甘みのある黒毛和種は人気があり、和牛の大半を占めているそうです。逆に、褐毛和種や日本短角種は赤身がしっかりしており、希少ですが近年の霜降り肉偏重に辟易している人に良さそうです。

2.和牛の美味しさ

 和牛の特徴として、柔らかさ、肉本来の旨味、良質の脂による甘み、きめの細かな食感、とろける舌ざわり、そして香りが挙げられます。輸入牛は日本に持ってくるまでの流通過程の制約から、どうしても肉本来の旨味が出にくくなってしまうそうです。甘みに関しては、前述のように近年は逆にサシが多すぎ、甘すぎるのが逆に問題なのではないかという意見もあります。僕もこの歳になるとそれは感じます。

3.ブランド和牛

 皆さんもよくご存じの通り、全国各地には様々なブランド牛があります。このブログでも過去いくつかのブランド和牛が登場しました。

但馬牛
松阪牛
近江牛
鹿児島黒牛

おまけとして、韓国の国産牛「韓牛(ハヌ)」も挙げておきます。
韓牛

 肉牛農家は、繁殖農家と肥育農家とに分かれ、肥育農家は繁殖農家から子牛を購入して育て、食肉処理施設に出荷します。各肥育農家はそれぞれ好みの牛を調達し、独自の工夫を凝らして育てているため、同じ銘柄のブランド牛でも違いがあるそうです。また、ブランドとして一定の定義はあるものの、全国的に似たような方向を指向した結果、特徴が出にくくなっているということもあるようです。

 その中で異彩を放っているのが「但馬牛」。但馬牛は、他のブランド牛のような肥育した場所ではなく、「但馬の牛」という血統を表しています。外来種との交配を止め、但馬牛同士の交配によって品種改良を重ねてきました。有名な「神戸ビーフ」や「三田牛」は但馬牛を肥育したものだけが名乗れるブランドです。

4.美味しさを決める要素

 焼肉屋さんでアピールされている、A5ランクやA4ランクといった格付けは、どれだけ肉が採れるかという「歩留等級」と1.サシ、2.色沢、3.肉の締まりとキメ、4.脂肪の色沢と質による「肉質等級」で評価したものです。したがって、必ずしもA4よりA5の方が良い肉であるとは限りません。また、格付けされる牛の約20%がA5と評価されるそうですが、上記のようにみな似たような品種改良の方向を指向した結果、A5ランクが一番多くなってしまったそうです。

 牛肉の美味しさを決める要素は、1.性別。オスよりもメスの方が美味しいと言われ、オスも去勢牛でメスに近づけています。2.月齢。牛は26ヶ月頃成長期が終わります。これ以上は大きくならないので、経済上の観点だけで見れば、この時が屠畜のタイミングになります。しかし、肉の味を左右する、餌の影響が表れるのは、成長期が終わった後の30ヶ月~32ヶ月頃からと言われ、松阪牛の中でも特に厳選された「特産松阪牛」は、39ヶ月もの間肥育します。ただ、長く育てるということはそれだけコストがかかり、病気などにかかるリスクも高まるので、簡単ではありません。その他、但馬牛のところで述べた4.血統や5.生産者の技術(飼料、水を含む)などがあります。水について言えば、硬水の方が肉に味がのりやすいそうです。

5.良い和牛とは何か?

 結局、「良い和牛」とは何なのか?様々な声を集めると、生産者、精肉店、飲食店、消費者、またはメディアによって「良い和牛」の捉え方は異なるようです。生産者にとっては、高く売れる肉、例えば霜降りで身体が大きい牛が良いということになりますし、精肉店にとっては売りやすい肉、例えばチャンピオン牛であるとかがそれに当たります。牛の体形というのも重要なようで、話を聞いてなるほどと思ったのですが、牛にも個性があって、腹側の肉が多い牛もいれば、背中側が厚い牛もいます。



 しかし、上の図をご覧ください。牛は背中側に値段の高い部位が集中しています。つまり、背中側が厚い牛はそれだけ値段の高い肉が多く採れる、良い牛ということになります。



 ところで、神奈川県が牛に見えているのは僕だけでしょうか?

 飲食店にとっては、扱いやすい牛肉が「良い牛」ということになります。メスよりもオスの方が肉は硬い傾向にあるでしょう、一方でメスの方が脂肪が多く、用途によっては歩留まりが悪い(手間がかかる)かもしれません。消費者にとっては、美味しさ、ブランド牛としての分かりやすさ、値段と味の比例、味の安定性、購入しやすさなどが良い肉の決め手になるでしょう。そして、メディアにとっては希少性だったり、ブランドが重要になるようです。

6.焼肉(ホルモン)を知る

 最後は、和牛のホルモンの豆知識についてまとめます。



 鮮度の良いホルモンとは?ホルモンは内臓なので、消化酵素で痛むこともありますが、大抵は処理の仕方にあります。屠畜後、取り出された内臓は、水槽に入れられます。その結果、ホルモンは水を吸い、重さが2、3割増します。私たちがホルモンを食べた時肉汁だと思っているものは、実は水なのだそうです。水を吸ったものは腐りやすいという問題があります。かつては、朝どれのホルモンもあったそうですが、狂牛病が騒がれるようになってからなくなってしまいました。したがって、時間のかかる流通過程に乗る前に、いかに丁寧に処理をするかが大事になります。また、一部には水に漬けないというところもあるそうです。

 ホルモン独特の課題は、客の増減に関わらず自由に仕入れられないという点です。例えば東京都の場合、都が決まった量を割り当て、品物も選ぶことができません。できるだけ自分が望むホルモンを仕入れるためには、結局のところ人間関係がモノを言う側面があり、新規参入業者は不利ということができます。

 シマチョウ(大腸。韓国語読みでテッチャン。上の写真)の縞が伸びているのは鮮度が落ちているためではないそうです。ホルモンを洗浄する処理ラインが繁忙になると、普段休止しているラインを稼働させるのですが、そのラインの水圧が通常より強いため、縞が伸びてしまうのだそうです。

7.和牛に「旬」はあるのか?

 魚や野菜に旬があるように、和牛にも旬があるそうです。牛は暑さに弱いため、寒い時期が旬になります。また寒くなるとすき焼きなどの需要が高まるため、値段が上がります。したがって、生産者もこの時期に出荷するので鮮度が良くなるというわけです。具体的には11月から1月にかけてで、特に12月はおすすめとのこと。なお、肉牛の品評会もこの時期に行われます。これは牛耕時代の名残で、米の収穫後に品評会を行ったからだそうです。



 さんざんお肉の話を伺った後でしたが、お金のないYMSは焼き鳥屋で懇親会を行いました。しかし、小池さんのYoutubeチャンネルには、美味しそうな焼肉屋さんが沢山出てきます。是非参考になさってください。

繻るに衣袽あり、ぼろ屋の窪田でした

過去のセミナーレポートはこちら
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日本交渉学会全国大会に参加しました

2024年11月12日 | 交渉アナリスト関係


 11月9日、京都大学吉田キャンパスにて開催された、日本交渉学会の全国大会に初めて参加しました。時間の都合で最後の基調講演は拝聴できなかったのですが、研究発表でとったメモのみ簡単にまとめておこうと思います。

1.田代耕平氏(弁護士・札幌総合法律事務所)
『合理的交渉人モデルの実態調査』

 立命館大学の東川達三は、経済学の合理的経済人モデルを交渉に当てはめた「合理的交渉人」は存在しないと述べている。しかし、オンラインフリーマーケットのような匿名性の高い環境では、合理的交渉人モデルが表出するのではないかという仮説の下、インタビューとアンケート調査による実態調査を行った。

 結果。大島(2006)によれば、オンラインフリーマーケット「メルカリ」はオンラインオークションサイト「ヤフーオークション」と比べ、人に対する信頼が希薄と言われている。実際、アンケートによると、オンラインフリーマーケットでの売買交渉で「うざい」と感じたことの実に56%が「無理な値下げを要求された」となっている。

 オンラインフリーマーケットでジオラマを出品した40代男性。購入者が「(思っていたのと違い)見劣りがする」というクレームを入れ、修理を要求。しかし、「見劣りがする」というのは購入者の主観の問題である。結果的にこの出品者は、他のジオラマを無償でつけることで妥結を図った。出品者曰く、「(商品を手に取れない)フリーマーケットであることを売買双方が受け入れる必要がある」とのこと。また、5回以上の出品経験がある20代女性は、「相手がマナーを守る相手であるかを見極めることが重要である」と述べている。

 仮説ではオンラインフリーマーケットの売り手、買い手双方が合理的交渉人として振舞うと想定していたが、実際には出品者の方が購入者より交渉力が弱く、利己的に行動するのは購入者の方に偏っているように思われた。売り手と買い手とでは損失回避行動の目的が異なるのではないかとの結論。

2.加納榮吉郎氏(株式会社コベルコE&M 機電事業部・専門部員)
「交渉者が怒りを表出することの得失について」

 従来のハーバード流の交渉研究は、感情の影響に対して無頓着であったと思われる。しかし、現実の交渉では、戦略的に「怒り」を利用する者がおり、実験では純粋な分配型交渉では怒りの感情を表した交渉者の方が良い結果を収めたとの報告もある。しかし、「怒り」の濫用は、人間関係にダメージを与える恐れもある。「怒り」を表出するメリットとデメリットを力関係と時間について見てみると、力関係で強者にある者は「怒り」の表出によって意思を押し付けることができるのかもしれないが、弱者にある者は、報復を受ける恐れがある。また、時間について見てみると、「怒り」の表出は短期的には功を奏するかもしれないが、長期では怒りの内容の正当性が検証されるため、有効に作用しない可能性がある。

3.塩津裕子氏(オフィスArt de Vivre代表)
「発達段階と出生順位特性がもたらす交渉能力への影響」

 幕末に蝦夷地の探索や北海道の地図(北海道の命名者でもある)、アイヌ民族の研究などを行った松浦武四郎を例に、地理的環境要因、出生順位特性、後天的環境要因などが対人能力、恐らくは交渉能力に与える影響について調査。松浦武四郎は伊勢・松阪の商家の四男として生まれた。伊勢は「お伊勢参り」で全国から旅行者が集まる土地であり、武四郎は幼年時代から異文化コミュニケーションの能力を磨いたと思われる。四男として生まれ、年上に可愛がられる、甘え上手、対人能力に長け、要領が良い、自己主張ができるといった末っ子気質を持っていたと考えられる。反抗期の16歳の時に家で、長崎で異国文化に触れ、蝦夷地への関心を持つ。蝦夷地探検およびアイヌ民族との交流の足跡をたどると、武四郎が双方の利益を考える、双方の目的と問題点を双方で解決す、相手のメンツを立てる、対話を重視する、相互依存的で協力的であるといった互恵型交渉を行っていた様子が窺える。

4.麻殖生健治氏(立命館大学)録画発表
「古事記と交渉」

 古事記を交渉の視点から見ると、上巻は「計略交渉」のエピソード、中巻は「(交渉ではなく)武力」のエピソード、下巻は「対等交渉」のエピソードに分類することができる。上巻は天岩戸、因幡の白兎、国譲りなどに計略交渉、すなわち詐術の様子が見られる。中巻は神武東征、日本武尊の熊襲建、出雲建征伐(詐術も感じられる)、神功皇后の新羅親征に代表されるように、交渉を用いない武力制圧の話が続く。下巻は、垂仁天皇と皇后狭穂姫命との間で交わされた説得交渉、応神天皇の後継をめぐる、大鷦鷯尊(仁徳天皇)と菟道稚郎子の譲り合い、顕宗天皇が父の仇である大泊瀬天皇(雄略天皇)への復讐を試みたが、兄の億計皇子に諫められ思いとどまったエピソードなど、武力による皇位継承や復讐などから脱皮し、聖徳太子の「和を以て貴しとなす」で結ばれる。古事記には詐術、武力、交渉という問題解決の発展段階が見て取れる。

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2024年10月アクセスランキング

2024年11月05日 | 人気記事ランキング


 去る11月3日、横浜DeNAベイスターズが、実に26年ぶりとなる日本シリーズ制覇を果たしました。本当におめでとうございます!1998年当時、25歳だった僕が現在51歳ですから、本当に長かったです。弊社は福岡にも営業所がありますし、福岡は僕にとって第二の故郷、それに社内にも他球団のファンが大勢いますが、ここは個人的事情を優先することをお許しください。滅多にあることではないので。

 さて、2024年10月にアクセスの多かった記事、トップ10です。ちなみに、今回「お米をしっかり食べて健康的に痩せる、おにぎりダイエット-第169回YMS」と「7年ぶり2度目の九州開催-第66回燮(やわらぎ)会」が同10位でした。

 定番記事は以下の通り。ついに2位「近くにできたハンバーグ屋さんに行ってきましたー万平食堂(吉野町)」が6ヶ月連続。それも常に上位にランクインしています。7位「久村俊英さんの超能力を目撃してきました」が4ヶ月ぶりにランクインしました。かつて定番記事の筆頭で、100ヶ月以上もランクインを維持した「エコノミーとエコロジーの語源」は、かれこれ7ヶ月遠ざかっています。

2位:近くにできたハンバーグ屋さんに行ってきましたー万平食堂(吉野町)(6ヶ月連続)
6位:Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子(5ヶ月連続)
7位:久村俊英さんの超能力を目撃してきました(4ヶ月ぶり)
9位:「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました(2ヶ月連続)

 月半ばまでトップページを抑え、常に1位だった「驚きの価格で近江牛食べ放題-MAWARI(近江八幡)」。例月の上位よりも多くのアクセスがあり終始独走でした。それにかなりくらいついていたのが、3位「早稲田大学空手道糸東会55周年」。僕が大学時代所属していた会の記念行事の話題です。多くの関係者にご覧いただけたものと拝察します。ランキングこそ5位でしたが、社内的には「近江営業所を開設いたしました」、これが一番大きな出来事でした。

1 トップページ
2 驚きの価格で近江牛食べ放題-MAWARI(近江八幡)
3 早稲田大学空手道糸東会55周年
4 近くにできたハンバーグ屋さんに行ってきましたー万平食堂(吉野町)
5 近江営業所を開設いたしました
6 Yema(イェマ)-フィリピンのお菓子
7 久村俊英さんの超能力を目撃してきました
8 今ある政策リスクについてー森永康平氏講演メモ
9 「上田和男さんバーテンダー歴50年を祝う会」に参加してきました
10 お米をしっかり食べて健康的に痩せる、おにぎりダイエット-第169回YMS
10 7年ぶり2度目の九州開催-第66回燮(やわらぎ)会

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